迷宮戦争
@akueria
プロローグ
眩しい光が消えたとき、俺は窓どころか扉すらない石でできた部屋のど真ん中に立っていた。周りを見回すと、ここはどうやらゲームでいうダンジョンのような場所のようだ。
「おおおおお、まじかよ! これ、絶対異世界じゃん!」
俺はガッツポーズをしながら叫んだ。夢にまで見た異世界転移が、ついに現実になったんだ!
「やっぱり俺、選ばれたんだな。普通の奴がこんな装備手に入れるわけないもんな!」
剣を抜いて振り回してみる。意外と軽い。しかも妙に手になじむ感覚がする。これ、絶対レアアイテムだ。
「さて、次は…スキル確認だよな!」
俺は興奮しながら両手を掲げて叫んでみる。
「ステータスオープン!」
目の前に光のパネルが浮かび上がる――
…え、出ない?
「えっと…ステータスオープン!」
もう一度叫んでみる。しかし何も起きない。ただの風が吹き抜けるだけだ。
「いやいやいや、待てって。こういうのはテンションが大事なんだろ!」
俺は気合を入れてもう一度叫ぶ。
「ステータスオ――」
「うるさい!」
背後から聞こえた声に振り向くと、いつの間にかそこにはポニーテールの赤目赤髪の中学生らしき少女が立っており、こちらを睨んでいた。
俺はその美貌に見とれ、その場でしばらく固まり、その後神に感謝しつつ心の中でガッツポーズを決める。
「きた! これ完全にハーレムフラグじゃん!」
胸をときめかせながら、堂々と少女に声をかける。
「よう、美少女ちゃん! 俺と一緒に冒険しないか?」
少女はため息をつき、残念そうな顔でこちらを見た。
「………」
不躾な反応だが、これはテストだ。異世界の女性に自分の魅力を理解させるには、まず積極性が大事だと確信している俺は、一歩前に出てさらにアピールする。
「俺は天道光輝! たった今異世界から召喚された未来の英雄だ! きっと君を守る運命にある!」
「…何言ってるの?」
少女は首をかしげる。その仕草がまた可愛い。
「まあまあ、細かいことはいいんだ。それより、俺と組むのが君にとって得策だってことは間違いない。なんたって俺、ハーレムを作るのが夢だから!」
自信満々に宣言すると、少女は完全にドン引きの表情を浮かべた。
「……ハーレム? なにそれ、気持ち悪い」
「ちょ、待ってくれ! 誤解だ! ハーレムってのはただ美少女を集めるだけじゃなく、みんなを平等に愛する最高の理想なんだ!」
「……さらに気持ち悪い。」
だが、ここで引き下がる俺ではない。
「とにかく、君の名前を教えてくれ! それが第一歩だ!」
「……リーナ」
「リーナか、いい名前だ! 今日から君は俺の最初の仲間だ!」
「………」
リーナは冷たい態度を崩さないが、俺には確信がある。この出会いは運命だ。
俺は彼女に向かって手を差し出した。この一歩が、俺の異世界ハーレム計画の始まりなんだ!
「さっきのは、何? なんでいきなり大声で叫んでたの? 聞いたことない詠唱だったけど」
「え? 異世界転移者なら普通、こういうのが使えるだろ? ステータス確認のやつ!」
少女は呆れた顔でため息をつく。
「大ハズレか…」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもない」
もしかしてこの世界には「ステータス」システムがないのか? いや、それとも俺だけ設定がバグってるのかも?
「もしかして、転移したばっかりだからまだ起動してないとか?」
「………」
「リーナはどう思う?」
リーナはまるで俺がいないかのように何かを考えているようだ。リーナが無視している原因を考えてみると俺の中である結論が出る。 これはいわゆるツンデレというやつでは?
そうだ。普通、こんなに無視するなんてありえない。俺は主人公なんだし、メインヒロイン(おそらく)であるリーナに嫌われるなんてありえない。無言でも、俺に気はあるはずだ。
「なぁ、リーナ。ここってどこなんだ?」
俺が話しかけても、リーナは一度もこちらを見ない。無言のまま、ただ考えているようだ。
照れてるんだよな。きっと。
俺はそう解釈し、これからの心躍る冒険に期待を寄せる。
しばらくしてようやくリーナが口を開いた。
「ここは…あなたの感覚で言えばいわゆる《ダンジョン》だよ。」
ダンジョン。日本語で言うと迷宮。その言葉が連想させるものは、
「うおお! ダンジョン探索系の世界か! 俺は冒険者になるぞ! それから奴隷の女の子を解放してあげて…」
俺の中で色々な願望が広がる。
「それは不可能だよ」
残念ながらこの世界には奴隷がいないらしい。
「そうか! 奴隷がいない設定なのか! それなら道端で困っている王女を助けて…」
続く言葉は少々予想外のものであった。
「あなたの役割は、ダンジョンマスターだよ」
ダンジョンマスター。一般人ならあまり聞き馴染みはない言葉かもしれないが様々な異世界の勉強をしてきた俺の敵ではない。
「ダンジョンマスター! なら人間と共存できるダンジョンを作って、配下の魔物を人化させて…」
「それも無理だよ」
残念ながらこの世界は少々俺に厳しいらしい。しかし最初は弱い主人公がチートを手にしてハーレムを作る。といった展開も嫌いではない。
「そうか! 人化がないなら女冒険者と仲良くなって…」
「………もう好きにしなよ」
リーナから許しが出たので俺は早速ダンジョンにモンスターを出そうとするが…
「あれ、どうすればモンスターが出せるんだ?」
「………モンスターじゃなくて魔物。魔物の召喚は私の仕事だよ。ダンジョンマスターの仕事じゃない。」
「そうか! なら早速魔物とやらを出してくれ!」
どうやら自分では魔物を出すことはできないらしい。まあリーナがやってくれると言うのだから問題はないだろう。
「…どの魔物を出すの?」
「そうだな、やっぱり最初はゴブリンか? いや、いきなりドラゴンを出すというのも…」
中々の難問だ。通常であればゴブリンに戦い方を教えて最強軍団を作るという展開なのだが…最初から最強のドラゴンを使って無双するというのも…いやいややっぱり王道が一番か…? しかし…
「何を召喚するにしても魔力が必要だよ?」
「魔力! 異世界っぽいの来た!」
これはあれではなかろうか?魔力測定の水晶に触れて粉々にしてしまうあれではなかろうか?
「なあ、その魔力って俺はどれぐらいあるんだ?」
俺はワクワクしながら聞いた。
「…0だね。今のあなたには何の魔物も召喚できないよ」
「…嘘だろ? 主人公の俺が魔力0なんてありえないぞ」
これは…そう、俺の魔力量があまりにも多すぎてリーナには測れないというやつでは? そうだ。そうに決まってる。これはリーナのミスで…
「召喚されたばかりなんだから0で当たり前だよ? 何を言っているの?」
「…は? …そうか、そうだよな。」
そうか。どうやらこの世界の魔力と言うのは絶対量ではなく、時間経過で回復するMPのようなものであるらしい。
「そうか、リーナの言う魔力ってMPのことなんだな!」
「MP…っていうのはよくわからないけど説明に誤りがあったかもしれないのは認めるよ。この世界に召喚されたダンジョンマスターの魔力が0なのは普通だからね。」
そうだ。主人公である俺の魔力が0なんてことはありえないんだ。なんたって俺は《主人公》なんだからな!
「ところでリーナ、俺のMP…魔力はどれぐらいで回復するんだ?」
「…? 魔力は時間経過では回復しないよ?」
は? リーナは一体何を言ってるんだ?
「どういうことだ? MPが回復しないわけ…いや、時間経過では回復しないというのなら他の回復手段があるんだな?」
「もちろんだよ。今できる魔力の回復手段の1つは儀式だよ。」
儀式。異世界をよく知る俺でもあまり馴染みのない言葉だが大体の意味は分かる。
「その儀式は今できるか?」
「やろうと思えばいつでもできるよ。」
「よし! なら今すぐやってくれ!」
「そこまでして魔力がほしいの? あなたに魔力があっても魔物は召喚できないよ?」
リーナは俺が魔力を回復するのに賛成ではないみたいだ。まあ、異世界人なら魔力の重要性について知らないのも無理はないな!
「いや、やってくれ! 主人公の俺が魔力0なんて格好つかないからな!」
思い立ったらすぐ行動だ。儀式というのがどんなものなのかも気になるしな。
「わかったよ。そのまま動かないでね……■■、■■■■■■■■■…」
リーナが呪文を唱え始めると立っている俺の足元に真っ赤な魔法陣が現れ、回転を始める。
「うお! なんだコレ!」
ヤバい、すごいワクワクしてきた! ここから俺の異世界ライフが始まるんだ! まずはリーナと仲良くなって、その次は…
「■■、■が■■■■■え」
ん?意識してなかったけどリーナの詠唱ってもしかして特殊な呪文とかじゃないのか?何か聞こえた気がするぞ?
「■よ、わが■と■■■え」
やっぱり気のせいではない。魔法の詠唱が理解できたような気がする。今度はリーナの口元に注目してみる。
「■よ、わが■となりたまえ」
今度はほとんど理解できた。しかし、最も重要な所がわからないのが残念だ。…あれ? この呪文、意味分からなくないか? 俺の魔力を回復する儀式なんだよな? なんで《わが》なんて言ってるんだ?《我が》って意味だよな?
「ひとよ、我がかてとなり給え」
「おい! リーナ! その呪文は何だ?! 明らかに危ない奴だよな?!」
「人よ、我が糧となり給え!」
「おいっ どういう…グハッ!」
俺は血を吐きながらその場に倒れた。
「人よ、我が糧となり給え!」
その呪文を子守唄に、俺の意識は沈んでいった…。
「悪いね。この世界は甘くないんだ。」
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