前日譚 5話
ベンに言われて小屋の中に入った。ベンはキッチンのようなところで魚を捌き始めて、俺はリビングのようなところでリナさんと2人きりにされていた。
コミュ障にはこの時間は地獄だって。ベン早く戻ってこないかな。
リナさんと話したいことは山ほどある。でも、コミュ障は何を話していいかわからないんだ。言っていることが矛盾しているって思っているかもしれないけど、この場面ではどんな話しをするべきなのか、それが選べないんだ。それと、簡単な話題みたいなものもコミュ障には思いつかないんだ。思いつくのと言えば、ありきたりな「今日はいい天気ですね」くらいだ。
俺が悶々としていると、リナさんの方から話しかけてくれた。
「ねえ、アユム。ニジアケシって何かな?」
それは俺も気になっていた。俺がニジアケシとか言われていたけど、聞いたことない単語なんだよな。というか、また俺に聞かないでくれよ。俺が聞きたいよ。ニジアケシって何?
「
せっかく2人で話をしていたのに、ベンが割り込んできた。
くそっ、戻ってきたのか。せっかく会話が生まれたっていうのに。
「い、異世界人なの⁉︎」
リナさんは目を見開いて驚いていた。
そうです。俺は異世界人なんです。元々は地球と言う
「ア、アユムは異世界人なの⁉︎」
そんな同じことをなんども言わなくても。ちゃんと聞こえているよ。待ってよ。俺だって状況よくわかっていないんだから。リナさんの反応を見るにあまり知られてはいけないことのようだから。でも、
「ねえ、アユムはどっから来たの⁉︎」
リナさんが俺に向けている視線は個人的好奇心だったようだ。
「え、えっと……日本って国です……」
「ニホン⁉︎ 知らない国だけど行ってみたい!」
帰られるのならリナさんを連れていきたい。きっと気にいると思うから。リナさんの浴衣とか着物とか似合うだろうな。見て写真を撮ったら永遠に部屋に飾っておくのにな……いけない。妄想の世界に入り込んでしまいすぎた。危うくウエディングドレスまで着せるところだったよ。
「か、帰られる時は、考えなくもない……」
「だめ! 絶対に連れて行って!」
それは結婚をしてほしってことですか。頭の中で鐘の音が鳴っています。
「リナもその辺に。異世界だから、行き来できるのかも怪しいところなんだ。リナがニホンに行っても帰ってこられるかわからないんだよ」
「そ、そうなのね……」
リナさんはあからさまに落胆していた。
大丈夫です。俺が責任を持って養うので。リナさんのためならどんな仕事だって引き受けますよ。たとえ、カニを取りに行けと言われても……とは言えず。
「い、行き来できるようになったらいつでも遊びに来てください……楽しい場所も美味しいご飯も、よ、用意しますので」
「うん! ああーニホンに行ける日が楽しみだな〜」
それは気が早すぎませんか。まだ何も解決していませんよ。
「いつでも行き来できるようになったら嬉しいね。時空は歪みそうだけど」
せっかくいい雰囲気なんだから物騒なこと言わないでよ。と言うか。こんな発展してない町なのに時空とか言う言葉知っているんだな。さすが村長の子供だ。
「時空って何?」
だから俺に訊かないで。いや、時空には答えられるか。
「じ、時間と空間のこと?」
「なんだか難しい話ってことね。よし、諦めた」
諦める時の潔さ。見習いたい。
「まあ実際、リナには無理な話だよ」
「バカにしているでしょ!」
「してないしてない」
あの……何度も言いますが、俺の目の前でイチャイチャしないでいただけます。すごくイライラしますので。
「それよりもベン。マソウはどうしたの?」
確かに。キッチンから持ってきている形跡ないし。どこいった、俺のマソウ鮭。
「ああ、それなら長く食べられるように乾かしているんだよ」
鮭とばみたいなものか。いいなそれ。
「干しても美味しいの?」
なんて表したらいいのか。リナさんはものすごく嫌な顔を浮かべていた。
そんなに焼いた鮭が恋しいか。
「いつも干し肉ばかりだから干しているのは飽きるよね。でも、魚は一味違うから」
「本当! 楽しみだなー!」
そんな干物ばかり食べているの。昔の日本じゃないか。確かに干物は美味しいけど。毎日ってなればどれだけ種類が違っていても無理だな。5日くらいが限界だな。そりゃ嫌な顔するわ……待って、俺これから干物生活⁉︎ ほぼ確定みたいだけど……普通に嫌なんだけど⁉︎ どうにかして別のものを自分で作らないと。食べるものがなさすぎて飢えて死ぬ。贅沢な悩みだけど、何でもある元の生活に慣れてしまっているから、なかなか直せないと思う。案外毎日同じものが食べれたりするのかな。俺には無理だと思う。
リナさんとベンが話をしているうちに、俺は元いた世界のことを思い出していた。
どんな些細なことでもいいから、日本以外の食べ物でもいいから、自然界で取れるもの。森の中といえば山菜だけど、あくぬきが大変でこの世界では食用にすることは難しいだろう。そこら辺の葉っぱを摘み取ってお茶にするのもありだけど、お茶があったところで毎日同じような食事に彩りを与えるわけではない。もっと別のもの……きのこ。は、俺自身が品種もほとんどわからないから山に入って取ってくるのは危険。魔物の解体はろくにできないだろうから狩も違う。何かを育てるか。種も持っていないのに。いや。それも無理か。今まで家庭菜園もろくにしてこなかったから、野菜の育て方だって何も知らない。せいぜい育てたことがあるのは朝顔くらいだ。それも10数年前の話。観察日記をつけていたのが懐かしい。毎日つけないといけなかったけど、めんどくさくて夏休み最後の日にまとめて書いたんだっけ。あれは大変だった。てか、朝顔でそんなレベルだったんだから野菜なんて育てられるか。もっと他に効率的なものはないかな……。
ペルネに聞いてみようか。この国のこと。
ヘイペルネ。この国の、この村の食べ物ってどんなの?
(コルス村ではチヌイと呼ばれる黒いパンを主食としています。普通のパンと比べて少し黒っぽいのが特徴です。また、ハンカと呼ばれる食パン状のものもよく食べられています。その他にはカルトーと呼ばれる蒸したジャガイモもよく食べられています。副食ではカシャと呼ばれる豆をトマトで煮たスープを食べられます。その他にはボズと呼ばれる水餃子を好みます。最近ではイワンと呼ばれる焼きうどんが流行っています。)
ペルネっていちいち話が長いな。でも、いい情報は得られた。飽きるほど料理が少ないわけではなかったじゃないか。いやー何かをしようとしたけど時間の無駄だったよ。それにしても意外と美味しそうな料理があるじゃないか。この村でも楽しい生活が送れそうだ。
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