競竜転生〜生まれ変わったら異世界で競走させられる飛竜でした〜

タネダアトスケ

第1話 二度目の転生、三度目の誕生

 産まれてすぐに『これ、転生してるわ』と気付いた。

 同時にジブンはこの世の終わりってくらい絶望した。


 なぜかって?


 まず転生するのが2度目であること。

 次に前回の転生がかなりハードモードで上手くいかず、盛大にしくじってしまったこと。

 そして今回の転生が、前回の転生と境遇がほぼ同じときたら絶望するだろ。何が悲しくてまたハードモードの人生とわかっていてリトライしなきゃならんのだ。


 ゲームならセーブ&ロードでやり直しができるけど、残念ながらこの人生っていうクソゲーはセーブもロード機能もない一発勝負なのよねガッデム。

 ねえ誰か神様の問合せ先知らない?長文お気持ちクレーム送りつけるからさ。


 ……はぁ。ジブン、いま竜になってる!って気付いた時は一瞬テンション上がったんだけどな。


 今生の身体を見下ろすと、澄んだ夏の海を思わせる青いすべすべとした鱗が映った。

 その鱗は4本の鉤爪が生えた前足、するりと伸びた長い尻尾、前足より幾分か太い後ろ足の全てを覆っている。今は見えないが、背中には飛膜の張ったいかにもドラゴン、といった翼もある。


 はい、そうです。転生したらジブン、竜でした。

 まだ生まれてすぐのチビドラゴンだけどね。

 これだけならいかにも異世界転生っぽくてワクワクするだろ?

 巨大な翼で空を駆け、頑丈な鱗はどんな刃も通さない。気に入らない奴らはドラゴンブレスで消し炭にして、灰燼も残さない。無双チートでイージーモード。


 そうやって一瞬うかれた時期がジブンにもあったんですけれども。


 ところがどっこい、そんな憧れの竜は牧場らしき柵に囲われた場所で人間サマに管理されているよ!


 翼があるなら柵なんか越えて逃げられるだろうって?

 ジブンもそう思ったんだけど、ここのドラゴン達は立派な翼があるのに、何故か飛んで逃げようとしないんだよね。

 ジブンはまだ赤ちゃんだから飛べなくても仕方ないと思う。飛び方とか知らんし。

 だが赤ちゃん竜のジブンを甲斐甲斐しく世話してくれる母竜や、遠目に見た大きな体格の大人の竜も、柵の向こうに飛んでいこうとしない。どいつもこいつも飼い慣らされちゃったのか?


 鱗についてもツヤツヤして綺麗だし硬いんだけども、ジブンは聞いた。

 つい先日、牧場関係者の女の子が近所の悪ガキと思しきやつらにドラゴンステーキとか何とかバカにされていたのだ。

 ……ステーキかあ。食用になり得るってことは解体できるってことで。

 つまり……通っちゃうんだろうな、刃。


 最後の希望であるドラゴンブレスに至っては、出ろ!と念じて息を吹いたり口を開けてみてはいるんだが出る気配がない。今だって一縷の望みをかけて大口を開けてみてるんだが——……あっ。


 ちょっ、ドラゴンママ!グイグイ鼻先寄せてこないで!いま口を開けてるのはごはんの催促じゃないの!!齢2ヶ月にしてジブン早くも人生に行き詰まってるとこなんです!『元気ないからお腹空いてるのね』って思われてる?ごめん今はとてもごはんを食べる気分では、なっ、無理やり給餌しないでママーーーッ!!!もごもご!




 ……ママが噛んで柔らかくしてくれたご飯食べやすい、おいちい。

 うう、呑気にメシ食ってる場合じゃないのに。マジどうしろってんだよ。

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