第26話 緊急事態に宰相が来た日
これも国王の計画通りだったのかは分からないけど、私は意外にもあっさりと特別捜査室に戻された。三人のお偉方も、何も言わなかった。
国王は一体、何がしたかったのか……?
それを私は、部屋に入ってから思い知らされた。
部屋に戻った私を、みんなが心配してくれている。なのに、上手く笑えない……。
私が癒着していないのは、二人とも知っている。でも、癒着していると取られかねないという話になったのも、 二人が知っている。
エルベラさんかライリーのどちらかが、国王のスパイなの?
いや、でも……。
待て待て待て! こうやって私に猜疑心を植え付けてチーム内の雰囲気を乱す作戦なのかもしれない。
どちらにしろ、惑わされたらダメだ。そう思うのに、全然上手くいかない……。
打ち合わせ用のテーブルで私とエルベラさんは向き合い、隣にはカイル様がいる。今までと違う配置に、エルベラさんは「うんうん」とうなずいている。
斜め向かいのライリーは別の方向を向いていて、唯一いつもと変わらない。
「ミレットがルクエルと癒着している。仮にそうだとしても、わざわざ国王やあの三人が調査するようなことじゃないわ」
「……癒着、していませんけど?」
「そんなことを知っているわよ。仮にって言ったでしょう? これくらいの癒着なら、法務官なら普通でしょってことよ」
エルベラさんの言う通りで、別にとりたて騒ぎ立てるようなことじゃない。今さら気づくなんて、遅すぎる……。
国王は圧力をかけてきたんだ。自分の力なら、私とカイル様も特別捜査室もどうとでもできる。と……。
「お前、国王に何かしたのか? これ以上カイルに迷惑をかけるなら、さっさと辞めて家に帰れよ」
ライリーから見れば、そう見えるのか……。
その通りかもしれない。
昨日の今日で、私の心にカイル様に頼る気持ちは確実にあった。十年前の怯えるだけで何もできない自分に戻ろうとしていた。
これではダメだ。このままでは私はドンドン弱くなっていく。
カイル様に頼るのではなく、自分の力で戦うと決めたはずだ。
誰も疑いたくないと甘いことを言っている前に、まずは自分ができることをしなくては。
「辞めませんし、帰りません。室長にも皆さんにも迷惑をかけず、私は私のできることを頑張りたいと思います」
私は自分の持つ最大の気合で、そう言った。
ライリーには舌打ちされたけど、気にしない。
筆跡と手紙は父が調べることになっている。
サイル伯爵や宰相のことは、カイル様とレイモンド様が調べている。
私ができることって、何だろう?
国王のところに行って、誘惑的な? 無理無理! 怖すぎて動けないし、私が国王の手に落ちれば余計に面倒が増えるだけだ。
なら、どっちがスパイか調べる?
それもなぁ……。自分が器用に立ち振る舞えると思えない。チーム内をギクシャクさせるくらいなら、今は忘れている方がいい気がする。
となると、私ができることってないの?
とりあえずルクエルさんに話でも聞きに行く?
う~ん、今そんなことをすれば余計に怪しまれる。
私にできることって、本当にない……。
自分の役立たずぶりに鳥肌がたった。
そんな私に何か言いたげな目を向けていたカイル様は、何かをぐっとこらえている。それが何なのか分からないまま、会議に呼び出されてカイル様は部屋を出て行った。
「お前のせいで、会議という名のつるし上げだな」と嫌味を忘れないライリー。当初の博愛主義の遊び人的な緩さは完全に消え去っていて、ただ単に嫌な奴だ。
本当にろくに何もできないまま、あっという間に日付が変わる。
色々考えたけど、今日も何もできることがない。整理する資料だって、もうない。
ため息も尽きて困り果てていると、建物の外も廊下も何だか騒がしくなった。私以外は、みんな忙しいんだ……。なんて卑屈な気持ちになるのを咎めるように、扉がガンガンと叩かれた。
扉を開けて入ってきたのは、棒のように細長くて気の弱そうな男の人だ。老けて見えるけど、三十代のはず。遠目からなら何度か見たことがある宰相は、いつもは眠そうな茶色い目を今はきちんと開いていた。
「昨日の孤児院への慰問中に、王妃様が襲われました。近衛の機転で怪我はないですが、特別捜査室に調査を依頼します」
まず最初に私の頭に浮かんだことは、「国王、早すぎるよ」だ。
次に思ったのが、「どうしてわざわざ宰相が伝えに来た……?」だ。
今まで宰相がこの部屋に来たことは一度もない。
そもそも宰相は自治省のトップであって、司法省とは関係がない人間だ。第一報が自治省に入ったのだとしても、わざわざ宰相が私たちに伝えに来るはずがない。
カイル様は?
ハッとして周りを見れば、既に異変を感じていた二人は眉間に皺を寄せている。
「どうして宰相がここに?」とエルベラさんが言えば、ライリーは「室長はどこですか?」と聞いた。ライリーは詰問に近い言い方だったのに、いつも通り眉をハの字に下げた宰相が気にした様子はない。
「王妃を狙うなんて、国家転覆が絡む機密事項になる可能性が高い。よって特別調査室は、国王直属になりました」
いとも簡単に、とんでもないことを言い出した……。
「室長は、どこですか?」
ライリーの語気が荒くなるが、私だって気持ちは同じだ。こんな意味不明の異常事態で、カイル様がいないのは、嫌な予感しかない。
「ソウザント公爵には、司法省の大臣補佐に就いてもらっています。大至急で事件解明の任が出ていますから、貴方たちも協力をお願いします」
「……大臣補佐? 部屋に監禁の間違いじゃないですか?」
ライリーの笑顔が怖い。
「一大事の最中で人手が足りていない最中、ソウザント公爵のような優秀な方を無駄遣いするわけがないですよ」
こっちも笑顔が怖い……。「気弱宰相」やら「無能宰相」やらと呼ばれているけど、それはきっと誤りだ。
「誤解も解けたようですし、すぐに孤児院に行って関係者から話を聞いてください」
私たち三人は、追い立てられるように馬車に乗せられた。
白亜に青い帽子をかぶった王城が、視界から遠のいていく。城に残されたカイル様の身に何が起きているのかと思うと、不安で落ち着かない。
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読んでいただき、ありがとうございました。
二話(25・26)投稿しています。
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