解放の力がレベルアップだった件

ronboruto/乙川せつ

第1話 【スカウト推薦】

この世界には、人間以外の人類がいた。

ファンタジーの種族。更にダンジョンも。

誰かが名付けた人型種族の総称、それは【イクシー】。



男尊女卑、男を頂点にした社会構造。

女尊男卑、女を頂点にした社会構造。


この国、日本のどこかに後者の高校がある。

その学校は、まさに幻想郷。

美しいエルフ、夢のごとき美貌の女性、最強の剣士、最高の魔法使い。

そんな天国は、男にとっての地獄だった。

表向きは【普通】の名門校。偏差値77の高さを誇る、入れば勝ち組の場所。

しかし圧倒的女子優遇。

魔法も使えない男たちは、校則で許された【剣】で抗うしかなかった。

だが、剣で魔法に勝てるほどこの世界は優しく創られていない。

〝ただの人間〟である男は、エルフ等の生来魔族(マジックユーザー)には屈服するしかない。

勉強だけの者は早々に頭を下げ、奴隷となった。

喧嘩自慢の不良でさえ、魔法や超能力の前に敗北した。

現在女子生徒に対する対抗勢力はおよそ50名。

対する女子生徒、及び奴隷となった男子生徒の総数は約千人。

これが、現在の戦況だ。



◇◇◇


これは、あるかもしれない未来。


「いくぞテメェら!」

「女をぶっ潰せ!」

「…………バカな男たち」


男子生徒の決意を嘲笑うかのように、少女たちは笑みを浮かべた。

そして炎の槍、氷の弾丸、風の刃が生成され、男子生徒に襲い掛かる。


しかし、それらは空中で分解された。

何故か?

彼がいるからだ。

彼は人として生まれたイレギュラー。

彼の実力は、あらゆる存在を打ち消す。


「俺は、この理想郷を砕き殺す」


演算領域で魔法術式が形成される。

彼の右手に集約されたエネルギーは空間を歪めた。

その五指は全ての害意を掴む。


「――――デッドブレイカー」


◇◇◇



「――――せあっ!」

とある剣術道場にて剣を振るう少年がいた。

彼の名は、英崎達也。

古流剣術【銀河天文流】の継承者。

珍しい青い瞳を持つ黒髪の少年。

その斬撃は鎌鼬を生み、太い木の根を裂いた。

「ふぅ…………」

彼は普段、普通の中学生として生活している。

周りから見た彼は「付き合いの悪い暗いやつ」という印象だろう。


「そろそろ出てきてはどうですか?」


後ろの気配に気付き声をかける。


「あらら、バレちゃってたか」


ふざけた声で応えたのは糸目にメガネの怪しい男。

見覚えはない。だが、どこか懐かしい声。

まるで、生まれる前に会ったことがあるかのように。


「…………貴方は誰ですか?」

「お初にお目にかかります。私は【スカウト】と申します」

「…………本名ではないですよね」

「ええ、あだ名です。大昔つけられたものですがね」


(不審者。僕の手には木刀……斬るか…………?)


「それは勘弁してほしいなぁ」

「!」


(思考を読まれた? ……コイツ、人間じゃないのか?)


「ええ、その通り。私は人間ではありません。言ってしまえば【神】です」

「神……と」

「はい。私の役目は秩序の維持。それを手助けして頂きたく参上いたしました」

「僕に何を望むのかな?」

「私立天成高校への潜入」

「…………は?」


(名門校への潜入…………?)


何を言っているのか分からなかった。

どうしてそんな所に行くのか。

――何故?


「理由は簡単。男子生徒の解放です」

「解放…………なにからだい?」

「学校と女性から」

「どうしてそんなこと…………」

「天成高校はただの名門校ではありません。あそこは女の天国、男の地獄です」

「?」

「男は女の奴隷として生活し、虐げられています」

「なっ……そんなこと、あるはずないだろう!」


日本で、そんなことがあってはならない。

差別などという愚かなことを、してはいけない。


「私は貴方に依頼します」

「……」

「天成高校に推薦する代わりに、内部で革命を起こしてください」

「手段は?」

「問いません。実力行使もよし。コネで成り上がるもよし。ただし…………」

「なにかな?」

「あなたには【力】を差し上げましょう」

「それはなんだい?」

「―――【レベルアップ】」

「は?」

「だからレベルアップですよレベルアップ。成長の力」

「それで僕が得られるのは?」

「成長を超えた飛躍です。戦いの中で成長し、見たものを吸収し、あらゆる強さを超えていく力」

「……なるほどね。…………わかった、やろう」

「ありがとうございます」

「神様に勝てるなんて思うほど自惚れてはいないのでね」

「改めまして、私のことはスカウトとお呼びください」

「わかったよ、よろしくスカウト」


神様は歪な笑みを浮かべた後、僕に向けて手を伸ばした。


「秩序と時空の神であるスカウトが刻む。このか弱き者に飛躍の力を」


僕の中に一つの種が植えられる。

それは僅かに芽吹き、成長する。


「今までの経験を実力にフィードバックする。それが君の新しい強さだ」


しかし、神スカウトの狙いはそれだけではなかった。


「君の右手が活躍する時だ!」

「…………」


スカウトが本物の神であると実感した。


英崎達也の右手が何かを知っている。

これを知っているのは少ない仲間のみ。


その名は、【分解】。

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