天啓
酷い焦燥感の中、人気のない工事現場で見つけたのは奇妙な光であった。
避難所である小学校へ急ぐ途中、目の端に淡く奇妙な光りが映った。
周囲に明かりは街頭しかなく、工事現場の中は真っ暗である。
しかし、ブルーシートの奥、コンクリートとコンクリートの間に確かに虹色に輝く薄暗い何かがみえた。
普段の工事現場などでは見かけることのないような淡い光がゆらゆらと揺れている。
なのに、何故か既視感を感じる。
とても気になる。普段であれば、あれが何かか調べに行っただろう。が、今は緊急事態。避難中である。
頭の片隅に何かが引っかかりながらも足は止めていない。懸命に走り小学校を目指す。
工事現場を駆け抜け、民家の角を曲がると、目的地である小学校が見えた。
と、同時。小学校の正門前に存在するはずのない大きな影が見えた。
(あ、動物園からライオンが脱走したのってフェイクじゃなかったんだ。)
小学校の正門前。避難する経路の入り口にライオンが居座っているのが見える。残念ながら、この小学校の裏口がどこにあるかは知らない。
うそはうそであると見抜ける人だと自認していたが、まさかこんな落とし穴があるとは。
避難中、ずっと全力で走っていた。さすがに疲れた。膝から力が抜け、崩れ落ちそうになる。
極度の疲労の中で、ふと、頭の中にあった引っ掛かりが解けるのを感じた。
(SNSで見かけた画像。逃げ出したライオンはフェイクじゃなかった。
工事現場で見かけた奇妙な光。なぜか感じた謎の既視感。
そして、SNSで見かけたもう一つの画像。これもフェイクじゃなかったら?)
SNSでみかけた、よく分からない加工画像と評した写真。これはパリ凱旋門の真下に謎の門が設置された写真だった。
巨大な門の真下に小さな門という少しシュールなコラ画像だと思った。
だが、思い出してみるといくつか妙なところがあった。
ひびや亀裂が入り、いくつか装飾と思われるものが剥がれ落ちた凱旋門。
そして、小さな門の内側が暗く、同時に油膜のように輝いていた。
(調べても見つけられなかった地震の震源地、なぜかひび割れた凱旋門、そして工事現場で感じた既視感・・・)
まるで天啓を受けたかのようにこれらの事象がつながった。
疲れて力が入らない足が思わず駆け出す。目的地は先ほど通り過ぎた工事現場、その奥にあるブルーシートの向こう側。
「っ!見つけた!」
ブルーシートの奥で虹色の淡い光を放っていたのは、凱旋門にあったものとデザインは多少異なるもののまぎれもなく同じ様な【門】であった。
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