コピー時代のパイオニア
区隅 憲(クズミケン)
コピー時代のパイオニア
私が個人開発したインディーズゲームが、ダウンロード数100万を超えるヒットをした。
そのゲームの名は『クリエイトダンジョン』。通称『クリダン』。
世界中のプレイヤーがダンジョンを作成し合い、そのダンジョンを他のユーザーが攻略するというソーシャル型アドベンチャーゲームだ。
罠やモンスター、ギミックを巧みに配置し、自分だけのオリジナルのダンジョンが作れる。そしてそのダンジョンをプレイした他のユーザーからコメントをもらい、ダンジョン攻略を通してSNSのような繋がりを作り合う。
それがこのゲームのコンセプトだ。
私は開発当初から自信を持っていた。この画期的なアイデアを実現できれば、きっと個人制作のゲームでも多くの人が遊んでくれるだろうと。例えグラフィックがショボくても、インターフェイスが洗練されてなくとも、この斬新なアイデアがあれば多くの人が楽しんでくれるだろうと。
そして結果、私の期待は見事に的中することになった。リリース直後から有名配信者たちが続々と『クリダン』をプレイし、私のゲームを好評してくれた。その口コミが世間でも広がり、ゲーム専門のニュースサイトでも取り上げられた。
『かつてないゲームシステム。世界中の人々がダンジョンを通して繋がり合う』
記事にはそうした見出しが出され、『クリダン』はひと所では名の知れた存在となった。
私は自分のゲーム制作の成功に気分が最高潮に昂揚し、合わせて莫大な利益も手に入れた。
だから私は続編である『クリエイトダンジョン2』の開発をすることを決めた。ゲーム販売で得た売上を軍資金に、前作で課題だったグラフィックやインターフェイスを改善し、そしてダンジョン作成素材の種類をもっと増やす。
こうして『クリダン』をより完璧なゲームにしようと企画した。
個人開発故にゲーム制作には多大な時間が掛かり、費用もかなりのものとなる。
それでも私は昼夜を問わずゲーム開発に全力を尽くし、また『クリダン』が世の中でヒットすることを夢見た。
だが、『クリエイトダンジョン2』の開発から3年の歳月を経たある日、私の目には信じられないニュースが目に飛びこんでくる。それは大手ゲーム会社『オリジンズフェイズ』が新しいゲームを発表したというものだった。
そのゲームの名は『ソーシャル&ダンジョン』。通称『ソシャダン』
そのゲームのコンセプトは「世界中のプレイヤーがダンジョンを作り合い、ダンジョンを通して繋がり合う」というものだった。プレイヤーたちがお互いに作ったダンジョンを攻略し合い、SNSのようにコメントでやりとりできるという。
――このゲームは、明らかに『クリエイトダンジョン』のパクリだ――
私はニュースを見た瞬間、そう悟った。
ニュースにあるゲームの映像を見てみると、そのゲームは大手企業の技術力を存分に見せつけていた。グラフィックも綺麗だし、インターフェイスも洗練されている。
そして何より、ゲームの肝であるダンジョン作成素材も数万種類用意されていた。
個人開発では、到底これだけの素材を用意できない。
私は複雑な心境になる。どうして私のゲームを真似するのなら、一声だけでも連絡をしてくれなかったのか?
ネットで『ソーシャル&ダンジョン』の評判を調べてみると、案の定パクリ疑惑が浮上していた。中には私の『クリエイトダンジョン』の名前を上げ、『オリジンズフェイズ』を糾弾してくれている者もいた。
だが一たび『ソーシャル&ダンジョン』が発売されると、一気にそうした批判の声は鳴りを潜めた。リリース直後から有名配信者たちがこぞって『ソーシャル&ダンジョン』をプレイしては賞賛の声を送り、その口コミが広がって数々のゲームニュースサイトでも取り上げられるようになった。
『かつてないゲームシステム。世界中の人々がダンジョンを通じて繋がり合う』
とある記事の見出しには、そう書かれている。
それは私の『クリエイトダンジョン』が紹介された時と全く同じ見出しだった。
私は『ソーシャル&ダンジョン』が世界中で大ヒットしたことを受けて、いてもたってもいられなくなった。
『あのゲームのシステムを考えたのは私なんだ! 私が最初に『クリエイトダンジョン』を作ったんだ!』
そう世間に主張したくて溜まらなくなる。
けれど、そんなことをしても無意味だった。いくらSNSを使ってその事実を喧伝しても、私はインフルエンサーのようにフォロワー数は多くない。幾人かの親しい人から同情の声が寄せられるだけで、それ以上の進展はなかった。
私はだんだんと『ソーシャル&ダンジョン』がメガヒットした事実を悔しく感じるようになる。初めてゲームのアイデアを実現したのは私なのに、私のゲームを蔑ろに扱われているような気分になる。
私はこの状況に我慢できなくなり、とうとう『オリジンズフェイズ』に直接抗議の電話を入れることにした。「あなた方が作った『ソーシャル&ダンジョン』は、私が作った『クリエイトダンジョン』のパクリではないか」と。だが相手から帰ってきた返事は、『弊社がお客様のゲームを盗作した事実はありません』の一点張りだった。
私は相手の不誠実な対応に腹を立て、ついには訴えてやろうかと考えた。
けれど私は個人開発者故に法的な知識などまるでなく、『クリエイトダンジョン』の特許など申請していなかった。こんな状態で大手企業である『オリジンズフェイズ』を相手取ってどこまで裁判で戦えるかなどわからない。
何より私は、『クリエイトダンジョン2』の開発に心血を注いでいるのに、余計なことで時間を取られたくなかった。
結局私は『オリジンズフェイズ』の盗作に関して目を瞑らざるを得なかった。
それでも私は『クリエイトダンジョン2』の開発を続けた。途中何度もシステムエラーを起こし、ゲーム制作は難航を極めたけれど、ゲームをリリースできた瞬間の昂揚を思いだすと、必死に頑張ることができた。「絶対に『クリエイトダンジョン2』を完成させよう」と、そう心の中で誓いを立てた。
だが、更に2年の歳月が経ち、事態はまた一変した。『ソーシャル&ダンジョン』が世界中でメガヒットしたことを機に、このゲームに酷似したゲームが大量に発表されたのだ。大手のゲーム会社はもちろんのこと、スマホゲームを開発する中小企業や、個人制作の同人ゲームまで、『ダンジョン共有型ソーシャルアドベンチャーゲーム』が我先に我先にと争うように次々とリリースされていった。
キャラクターが美少女であったりマスコットだったりするなど外見上の違いがあれど、「ダンジョンを作って、世界中の人々と共有し合う」というコンセプト自体に変わりはない。それなのに、「ダンジョン共有システム」のパイオニアである私に一言連絡を入れる者は誰もいない。私が『クリエイトダンジョン』のシステムを最初に作り上げたのに、またしてもその功績は大勢の人々から蔑ろにされてしまったのだ。
それでも私は『クリエイトダンジョン2』の開発を続けた。個人開発ゆえに作業は遅々として進まず、何度も何度も途中で投げ出したくなる衝動に駆られる。それでも私は『クリエイトダンジョン2』の開発をやめられない。やめるわけにはいかない。私が『クリエイトダンジョン2』の開発に難航している間にも、次々と『クリダン』に酷似したゲームが発売される。それでも私はゲーム開発者としてのプライドに賭けて、『クリエイトダンジョン2』の開発をやめられなかった。
苦節10年、とうとう私は『クリエイトダンジョン2』を完成させた。私はゲームを完成させる目標を達成できたことで、気持ちが解放感と高揚感に包まれる。そして早速以前から利用しているゲーム販売サイトに、ゲームの掲載を申請する。申請は通り、『クリエイトダンジョン2』は世にリリースされることとなった。
だが、発売から1ヶ月が経っても、ゲームは全くダウンロードされなかった。ダウンロード数は今の時点でたったの103。莫大な時間と費用をかけて制作したはずなのに、けっきょく売上は開発費の5%にも満たない赤字だった。
私はゲームの販売ページを見ながら、何度も首をひねる。「あれだけ頑張って作ったのに、どうしてこんなに売れないんだろう?」と何度も同じ疑念を繰りかえす。そしてとうとう溜まらなくなり、『クリエイトダンジョン2』のレビューページを閲覧した。
『「ソシャダン」のパクリゲー。システムが古臭すぎて数時間で飽きた』
「クリエイトダンジョン2」は低評価のレビューばかりで埋め尽くされていた。
あれだけ懸命に考えて思いついたアイデアだったのに、実現するのに散々苦労を重ねてきたのに、『クリエイトダンジョン2』は他人から「古臭い」とバカにされるほど、ありきたりで陳腐なものへと成り下がっていた。もはや『クリエイトダンジョン2』が世間の日の目を見ることは永遠にないのだろう。
私はもう、ゲーム開発に全てを注ぎ過ぎたせいで、他に生きがいなど全く感じられない状態になっていた。だがやっと完成させた『クリエイトダンジョン2』さえも、こうして他人から全否定されてしまい、それはまるで、私のゲーム開発者としての人生すらも否定されているように感じられた。
その瞬間、私は衝動のままにゲーム販売サイトの画面を操作し、開発者ページを開く。そして『クリエイトダンジョン2』のゲーム登録削除を申請した。
コピー時代のパイオニア 区隅 憲(クズミケン) @kuzumiken
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