十八話 龍剣
アルク宅にて、旅に必要な物を分別する作業をしている。
家に残っている食料を分別し、旅中で腐りそうなものは廃棄。そして服や下着やらの衣類の準備。
家具などはドミトスが放置で大丈夫、と言っていたのでそれに従う。
「それにしてもアルク、お前ってやばいくらいにミニマリストだよな。家の中スッカスカじゃん」
「ミニマリストって? 確かに家はスカスカだけど」
「ミニマリストってのはお前みたいなやつのことを言うんだよ。家具とかを不必要に家に置いてない人の事」
アルク宅にはとにかく家具が置いてない。ダイニングテーブルと椅子のセット、そしてベッドが家に置いてあるだけだ。
当たり前にカーペットは敷かれていなければ、、窓にはカーテンもない。
「ま、それはどうでもいいとして、ドミトスさんが言ってた錆びた剣ってのはどこにあるんだ?」
「えっと……確か二階の……」
記憶を頼りにアルクは二階へと足を運ぶ。続けて輝空もアルクの後ろを着いていく。
立ち止まり、顎に手を置いて剣のある場所を絞り出している。
ようやく場所を思い出したのか、アルクは寝室より少し小さな部屋へと向かい、そこにある棚を片っ端から開けていく。
「これだ!」
一番下の段に入っていたのは紛れもない、ドミトスが言っていた錆びた剣だ。
アルクはそれを手に取り、鞘から剣を抜いた。
前評判通りその剣はかなり錆びがあり、お世辞にも切れ味が良いとは思えない代物だ。
「うーん、どうして領主のじいちゃんはこんな剣を持って行かそうとするんだ。もうじいちゃんもボケきたんだな」
「そんなことねぇだろ。頑なに持って行けって言うくらいだから、何か特別な力でも秘めてるんじゃねぇの?」
「そうかなぁ……こんな錆びた剣じゃ料理にも使えないよ。ソラ、これちょっと持ってみて」
手渡された剣を近くで眺める。
どこからどう見ても、それはただの錆びた剣に過ぎない。切れ味も無いに等しい。
疑問が残る中、輝空は剣の錆が他と比べ進行していない部分に目を凝らす。
そこには見慣れた柄が刻み込まれていた。
「これって……俺のつけてる指輪と同じ柄じゃんか!」
声を張り上げて言った。
複雑で全くもって規則性のない柄、他ではあまり見ないどこか不気味な印象を与えるそれは、輝空の脳裏に焼き付いている。
これは四種の神器の一つである可能性が高い、と輝空は心の中で思う。
何が何だか分からないアルクは一人で喜ぶ輝空を見て黙り込む。
「これは多分俺が探してた剣だ! いや絶対にだ! まさかこんなところにあるとは、やっぱりアルク最高だぜ!」
「よく分かんないけど……嬉しいなら良かった」
「嬉しいなんてもんじゃねぇ、これは龍が作り上げた剣だ。切れ味抜群、まずこの世に切れないものはないって噂だ」
「すごっ! って、でもどうしてそんなものが俺の家に」
言われてみれば、アルク宅に都合よく剣があったのは不自然だ。
元々アルクと旅に出たかったのは事実だ。それにアルクが剣を持っていたから、なんて理由は存在しない。
また頭を悩ませる問題に、両者言葉を失う。
「まーた変なことに巻き込まれちゃったよ……アルク、本当にこの剣について何も知らないのか?」
「全く。あっ――そういえば俺が産まれる前から剣があったってのは聞くよ」
「もうちょい詳しく」
「俺の爺ちゃんの爺ちゃん? それくらいの時からあるって聞いた」
アルクの高祖父の時から代々受け継がれていった剣。ざっと百年を超えている。
そしてあることを輝空は思い出した。それは、龍に選ばれた者は約百年に一人この世に生まれ落ちるそうだ。
「百年くらい前からあると仮定して、つまりアルクの高祖父が誰かからその剣を受け取った、または元々所持していた可能性があるな……そうなってくるとアルクの高祖父が俺と同じ境遇? 異世界人って可能性も……」
様々な思考が飛び交う。辻褄を合わせるとするならば、アルクの高祖父が同じ龍に選ばれた人間であるとするのが妥当だ。
謎が解明していく度に高鳴りを覚えるが、まだ断言出来る程でもない。
輝空は一旦思考をやめた。
「アルク、良ければこれを俺にくれないか? 嫌ならアルクが持っていてくれてもいい」
「好きにしていいよ。それに、ソラの剣を折っちゃったし」
「ありがとうアルク」
輝空は再び錆びた剣を眺める。
片手に持ち替え、剣の重さを直に感じる。今の輝空にとっては、剣を片手で持つことはそう難しい話でもない。
少しづつ興味が薄れていったアルクは、何も言わずにその場に立ち去る。
漏れ出す笑みを隠すことも無く、輝空はぽつりと独り言を口にした。
「龍剣、ってところだな」
――――――――――――――――――――――――
「よしっ、準備はいいな」
大きな荷物を背負った二人は、アルク宅から出てきた。
二人はアルク宅を見上げ、思いに浸る。
短いようで長い、この数日はとにかく忙しなかった。
「家を見てると、母さんや父さんのことを思い出してくるよ。この家には生まれてからずっと居たけど、結局なんにもこの家に恩返しは出来なかったな」
「なーに言ってんだよアルク。家にとって、お前が住んでたことが恩返しみたいなんもんだろ」
「……そうだな」
グッドポーズと笑顔をアルクに向ける。
アルクの硬かった表情も、ゆっくりと綻んだ。
「んじゃ、そろそろ行こうぜ」
「あぁ、もちろんだ」
二人は力強い一歩を踏みしめた。
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