姉貴の親友
金星タヌキ
第1話 日菜乃
恋多き女。
それが私
私は ホントに すぐ人を好きになる。
小学校低学年の時 お母さんに聞いた。
『どーして お父さんと結婚したの?』って。
そうしたらお母さんは答えた。
『好きだったから。この人となら 一緒に暮らしたいって思ったの』
『好きってことは 一緒に暮らしたいって思うこと?』
『まぁ そうね。日菜乃は 好きな人いるの?』
『一緒に暮らしたい人? 遥斗くんと 和馬くんと 梨杏ちゃん。あと 美月ちゃんもかな』
『あらあら いっぱいいるのね。でも そういう〈好き〉じゃない〈好き〉があるの。日菜乃も もう少し大きくなったら 分かるわ』
星光市の北の山あい。
自然豊かな(ド田舎ともいう)星北町が 私の生まれ育った場所。
1学年 26人しかいないクラスで 1年生から6年生まで ずっと同じクラス そして ずっと仲良しだった。
特に名前を挙げた4人とは 仲良くて 一緒に暮らせたら絶対楽しいのにって ずっと思ってた。
高学年になった頃 お母さんに『好きな人いる?』って聞かれて 変わらず4人の名前を言ったら『遥斗くんと和馬くんは ともかく 梨杏ちゃんと美月ちゃんは 女の子でしょ?』って言われた。
〈一緒に暮らしたい〉って思うかどうかに 男とか女とか関係なくない?って その時 思った。
〈好き〉っていうのなら お兄ちゃん達も好きだった……家族だし 生まれた時から一緒に暮らしてたけど。
優しいし 何でもできたし いっぱい遊んでくれたし。
お兄ちゃん達が やってるバレーボールを私もやってみたくて 小学生の時から習い始めた。
星北町は田舎で 小学生対象のバレー教室なんてなかったから 車で山道を30分送ってもらって 星光市のクラブチームに入った。
そこで出会ったのが
1つ歳上の中学生で 最高にカッコいい人だった。
誰よりも高く跳び ボールが破裂するかと思うような強烈なスパイクを放つ。
あんな風になりたい!
憧れた。
私のヒーロー。
松嶋先輩とバレーがやりたくて 中学校のバレー部には入らず 中学時代はクラブチームで練習を続けた。
練習して 試合して 練習して 自分のスパイクが どんどん強くなっていってるのが楽しくて。
レシーブも めっちゃ練習した。
松嶋先輩のスパイクが受けれるようになりたかったから。
その頃には 男女で結婚しないと子どもができないとか そこら辺のことも学校で習ったから『女の子が好き』って言うと 周りから変な目で見られることは分かってた。
でも『一緒に暮らしたい』って思う相手に男か女かとか関係なくない?っていう気持ちは 相変わらず。
もう1つ言うと『誰か1人を好きにならなきゃいけない』っていうのもピンとこなかった。
〈みんなで楽しく〉でも よくない?
だから 中学生の頃の私は 友だち達も好きだったし 松嶋先輩のことも好きだった。
あとアイドルにもハマった。
梨杏ちゃんがハマった〈HAL&TELL〉っていう男性アイドルデュオが私も大好きになった。
綺麗な顔のお兄さんがカッコいい。
『一緒に暮らしたい』じゃないかもしれないけど これも〈好き〉なんだって思った。
中学校2年の夏休み合宿の時だった。
夜 松嶋先輩と話してたとき『好きな人が いっぱいいる』って話になった……松嶋先輩も その中の1人っていうのは 言わなかったし 言えなかったけど。
『日菜乃は〈恋多き女〉ってヤツだな。アタシもHALみたいなイケメンと恋とかしてみてぇって思うけど……アタシ一途なタイプだからさ。今のアタシの恋人はバレーだな』
バレーボールが恋人。
やっぱ 松嶋先輩ってカッコいいって思った。
でも 一途って言葉が よく分からなかった。
1人だけ〈好き〉になる。
それってカッコいいのかな?
〈友達も 先輩も アイドルも バレーも みんな好き〉で なんでダメなんだろう?
高校は 松嶋先輩が進学した県立
インターハイに何度も出場したことのある強豪校。
バレー部の初練習の時に その娘に出会った。
『桜橋2中から来た
スゴい大声で キッパリ宣言。
キリッとした意思の強そうな黒眉にポニーテールのめっちゃカッコいい子。
練習終わったら すぐ話しかけにいって すぐに友だちになった。
こんちゃん。
めっちゃ気が合う子だった。
明るくて 優しくて ノリがよくて バレー大好きで。
私と同じ右利きのアタッカーで 狙ってるポジションも一緒だったからライバルでもあった。
スパイクも レシーブも 私の方が巧かったけど ものすごく研究熱心な子で 作戦理解したりとか 立ち位置考えたりとか バレー愛がハンパなかった。
一緒に〈部活魂〉ってキーホルダー買いに行ったり。
バレーの話 めっちゃしたし 好きなアイドルの話とかもした。
好きな人の話も。
それが こんちゃんが好きな人の名前だった。
高3の男子バレーボール部のキャプテン。
爽やかなイケメンで 女子バレ1年の私達にも 優しく接してくれる王子様キャラ。
私も 一発で好きになった。
私は 機会を見つけては 何回も話しに行ったけど こんちゃんは 後ろからついてきてモジモジしてたり ついてこなかったり。
そんなこんなしている内に 3月が来て 柏木先輩は 卒業して東京の大学へ。
こんちゃんは グスグス泣いて 長かった髪を切った。
私は そこまで悲しくは なかった……っていうか ぜんぜん悲しくなかった。
だって死んじゃったワケじゃないし。
また 会えるでしょ?
2年生になって レギュラー争いも激しくなり始めた頃 こんちゃんは セッターにコンバート。
それまでも 周りに気を配れる聡い子だと思ってたけど セッターになってからの こんちゃんは 本当に素敵だった。
私達アタッカー1人1人の打ちやすい高さやタイミングを 全部 頭に入れて トス上げてくれる……っていうか もう一段階上のパフォーマンス引き出すトスを上げてくれた。
それだけじゃなくて キャプテンとして チームをまとめて モチベーションを維持できるように 声掛けたり 後輩の相談に乗ってあげたり。
私とも 部活のこと いっぱい話し合って 本当に濃密な時間を過ごした。
役割分担して こんちゃんが叱ったりキビシイこと言ったら フォローに入ったり 逆に私が 後輩 詰めたらフォローに入ってもらったり。
私達は キャプテンと副キャプテンで親友同士。
本当に何でも話し合える仲。
彼女に引っ張られて 私達の藤工は 春高バレー全国ベスト4。
本当に スゴい結果を残すことができた。
そんな結果を残せた原動力の1つは 私達のホットライン。
『だよね~っ』って こんちゃんとも言い合って 笑ってた。
いつしか こんちゃんも 私の〈好きな人〉になっていた。
高2の冬休み明け 春高バレー終わった直後 修学旅行に行った時だった。
夜 隠れて こんちゃんがスマホで誰かと話してたから『誰と電話してたの? 彼氏?』って聞いたら 一瞬 押し黙った後 恥ずかしそうに頷いた。
ズキリと胸が傷んだ。
好きな人に恋人ができたのは初めてじゃなかった。
美月ちゃんには彼氏ができてたし 遥斗くんにも恋人がいるって聞いた。
でも『あー そーなんだ』ぐらいだった。
好きな人に恋人ができても 別に私のこと嫌いになったワケじゃない。
これまで そう思ってきたし 今回も そのハズだった……でも ズキリ。
本当に『一緒に暮らしたい人』だったのかなって思ったり。
こんちゃんも アタシも大学進学してバレー続ける気でいたし 同じ大学に推薦もらって 同じチームでバレー続けられたらいいなぁなんてこと 漠然と考えてた……『寮でも いいから下宿暮らししたい』って こんちゃんも言ってたし。
それとも アレかな。
なんでも話し合える仲だと思ってたのに 内緒で彼氏なんか作ってたのが悔しかったのかな。
上手く整理できないまま 高3になり 相変わらず こんちゃんとは 部活のことも それ以外のことも いっぱい話したけど 彼氏さんの話題になると やっぱり 胸が鈍く痛んだ。
そんな中 高3の夏休み寸前 こんちゃんが 忽然と私の視界から消えた。
インターハイ県代表決定リーグ初戦。
ブロックされたボールに躓いて アキレス腱断裂。
しかも 私の脚に当たってコースが変わったボールだった。
不幸な事故で 私の責任じゃない……それは確かだけど メンタル的には キツかった。
私が 少し脚の角度変えてたら こんちゃんケガしなかったんじゃないの?
そもそも 私がブロックされてなかったら……。
そんな考えても仕方の無いことが ずっと頭の中をグルグル グルグルと回ってた。
そんな精神状態で 正セッター兼キャプテン不在のチームを副キャプだった私が率いて 残りの2試合を戦った。
本当に本当に辛い2週間だった。
2敗して 決勝リーグ敗退が決まった時の感想は『……バレーボールは もういいや』だった。
私は 松嶋先輩にも こんちゃんにも なれない。
大学行っても バレーボールは もう したくないって思った。
それは たぶん 人生初めての挫折だったと思う。
そうして もう1つ気がついたこと。
こんちゃんへの気持ちが〈特別な好き〉だったってこと。
自分が〈好き〉なだけじゃなくて 相手にも〈好き〉でいて欲しいってこと。
自分の〈特別な好き〉と相手の〈特別な好き〉を重ねること。
私は ホントに すぐに人を好きになる。
それは 今も変わらない。
男の子でも 女の子でも すぐにカッコいいとか カワイイとか思うし『一緒に暮らしたい』って思う。
だけど こんちゃん以降〈特別な好き〉になることは 今のところ無い。
こんちゃんは ケガを治して 大学でもバレーを続けてる。
ケガの影響で Aリーグで戦うような強豪校には進学できなかったけど バレーボールは楽しいらしい。
彼氏さんとも 順調で去年から 同棲始めてる。
相変わらず私とも仲良しで SNSでやり取りしてるし たまには電話したりもする。
松嶋先輩は 関西の大学Aリーグで活躍中。
来年卒業だけど Vリーグに行くんじゃないかって思ってる。
相変わらずの私のヒーロー。
もう1人 藤工 全国ベスト4の立役者 神楽 まひろは 高卒と同時に Vリーガーになった。
地元の星光フェニックスでスタメンに定着し始めてる。
みんな それぞれの道でバレーボールと 今も向き合ってる。
でも バレー部引退した後 私は一般入試で大学に進学した。
大学では 全然バレーとは関係無いサークルに入った。
……バレーボールは もう いいかな。
こんちゃんとの あの濃密な日々と その結末は ちょっとしたトラウマになっていて 辛くないバレーボールっていうのが想像できなくなってる。
その代わり バレーボールから 少し距離を取ったおかげで こんちゃんとの距離は 正常に戻った。
〈好き〉だけど〈特別な好き〉ってことはない。
たまに電話して 他愛もない話したり 彼氏さんの愚痴聞いてあげたり。
彼氏さんの話されても 今は もう あの頃みたいに胸が痛むことも無い。
……そう思ってた大学2年生の3月 こんちゃんから 着信があった。
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