曜日図書館
もか
1-1 secret area
―――小さいころから本が大好きだった。
家にはたくさんの本があって、それでも誕生日に本をもらったりもした。
新しい本を読むたびに増えていく知識、さまざまな世界。
それを、知る事が楽しかった。
本は、僕の小さいころからの“友達”だから。
その中でも特別な本が――――。
私立暁中等教育学校。
一年二組の教室は寒い冬の中、暖房の暖かさでポカポカしていた。
「心!一緒に帰ろ」
「うん!ちょっと待って」
マフラーをぐるぐると首に巻き、「あったかぃ」と呟く。
ふっと出た声、温かそうに目を細める姿。どの行動を切り取っても可愛い。
それが幼馴染、
「見ろよあの知彗。女子だろ」
「ああ。四谷より女子だ」
「はぁ!?それ本人の前で言う!?」
心と席が近い三人、ボケの
今日は休みだけど、四谷と仲がいい
正直に言ってずるい。僕も心と同じ班がいい。
「確かに知彗くんは可愛いよ。ね、秋山くん」
「うん。心は可愛い。華奢で小柄で細くて色白で。長いまつ毛にきれいな二重、大きな涙袋、純粋さを物語っている黒の瞳。すっと通った鼻筋にぽってりとしたピンク色の唇。一本一本がさらさら過ぎる黒髪を本人曰くそのままにしているだけなのに似合すぎているし、はぁ~ほんと可愛いね心」
ぽん、と心の頭に手を乗せると「えへへ」と心が恥ずかしそうに笑った。
「ぐっ…」
か、可愛すぎる。なんだよ、「えへへ」って。三文字のくせに。
「僕可愛くないし、月人のほうが背低いから月人の方が小柄じゃないの?」
「うっ」
「……二重のダメージ負ってる」
「この二人も相変わらずだな」
「秋山くんって背低いよね。知彗くんも低い方なのに」
「大丈夫だよ月人。月人のお父さん背高いしきっとこれから伸びるよ」
「そうだといいけど…」
「ほら、月人行こっ」
「あ、うん」
三人に手を振って教室を出る。
校内を出て、バス停へ向かう。
「ふわぁ~」
眠たそうにあくびをする心。ちょっと涙目になって目を擦る姿は小動物に見える。
「眠い?」
「うん。本読んでたら二時になってて」
「あまり夜更かししないようにね。あと、暗い部屋で本は読まないように」
「うぅ、暗くしないと起きてる事ばれちゃうから」
心は一つの事に集中したら止まらなくなるタイプ。本とかも最後まで一気読みするし、作業とかも誰かに話しかけられないと手を止めない。おかげでよく振り回されちゃうけど。
バス停に着いて、バスがくるまで二人で雑談を続ける。
「あ、月人。今度眼鏡を買ってもらうんだ」
「え?眼鏡……心、視力悪いの?」
「うん。夜更かしと読書、パソコンのみすぎのトリプルアタックだって」
心の眼鏡姿……いい。絶対にかわいい。
「そう。今注意しても遅かったか」
「でもずっと着けるわけじゃないよ。勉強とか読書とかパソコンの時だけ」
「へぇ。でも夜更かしも読書も少しは控えようね」
「……はーい」
ちょっとふてくされながらも返事をする心。
「……まぁ、そこが心のいいところでもあるけどね」
「月人~~。うへへ、ありがとう!」
甘やかしたくなる声、ちょっと癖のある笑い方、素直な言葉。全てが可愛くて仕方がない。
「この世のバグかな」
「へ?」
「いや、なんでもない」
首を傾げながら、顎に手を当て、うーんと考える心。
その姿を見て、やっぱり天使だと改めて思った。
「それで、お皿割っちゃって。母さんに怒られたんだ」
バスを降りて家へと向かう帰り道。
今は、昨日月人のお母さんが大切にしていたお皿を割ってしまった話をしている。
「でも、月人のお母さん優しいから怒られても大丈夫そう」
「いや、めちゃめちゃ怖いよ?心のお母さんのほうがよっぽど優しいって」
うーん。そうかな?そもそもあんまり怒られた事がない気がする。
「よくよく考えたらお母さんに怒られた事あまりないかも」
「じゃあ、心すっごくいい子じゃん」
「えへへ。そうかな」
少し照れちゃった。
こういう感じの会話が出来るのは、唯一の幼馴染である月人だけなのかもしれない。
同じ小学校の子は月人しかいなくて、いつのまにか月人と一緒に居るのが普通になっていた。
他に友達がいないっていうわけでもないけれど、なんていうか、こう…やっぱり……。
「心?何で僕の家まで来たの?」
「…んぇ?あ、ほんとだ」
目の前にある家には「秋山」と書かれた表札が。
「送ってくれたの?」
「え、あ、うん!そうだよ」
嘘……をついた。いや、送ったというのは事実だから嘘ではないのかもしれない。
「嘘でしょ。送ってあげよう、と思って送ったわけじゃないでしょ」
「あ、ばれちゃった。さすが月人。頭いいね」
「頭がいいとか、悪いとかじゃなくて心が顔に出過ぎているだけだよ」
「えー?そうかなぁ」
小学生の時に色々あったから月人との隠し事は減った気がするけど、それと同時に顔に出やすくなってる?
「じゃ、また明日。心」
「うん。ばいばい」
手を振って月人が家に入るのを確認してからさっき通った道をまた歩く。
月人とは家が近いし、ちょっと寄り道してもばれない。だけど、外は寒いから極力早く帰りたい。
「あ、ここもう雪積もってる」
登校する時にはなかった雪が今はうっすら積もっている。
そういえば給食中に少し降っていて、月人と「明日には積もるかな」って話していたっけ。
それに、今年は例年より初雪が早いって朝ニュースで言っていた気がする。
「ただいまー」
「おかえりなさい。今日は遊びに行くの?」
ガチャリと開いた玄関の扉が、パタリと閉まるとの同時にマフラーを外す。
「ううん。あ、でも買いたい本があるから本屋さん行ってきてもいい?」
階段をのぼりながらお母さんに聞く。
「いいけど、あまり遅くなり過ぎないようにね」
「はーい」
少し大きな声で返事をして、自分の部屋のドアを開ける。
「ふぅ」
カバンを置いて、制服を脱ぐ。タンスからよく着る服を取りだして着る。
タンスの上に置いてあるよく使う既に中身が入っているカバンを取って、肩にかけて下に降りる。
リビングのドアを開けると、見なれた部屋に最近置かれたストーブがある。
そして、毛が燃えそうなほどストーブにくっついて、暖まっているのは猫のむう。
「こらー。むう、焼けちゃうよ!」
ひょいっと持ち上げてちょっと遠くに持っていく。
「にゃーお♪」
「ダメだからね!あ、ただいま」
「にゃーお」
「ん?ごはん?」
「にゃーお…」
「わかった。でも、今からお出かけに行くから帰ってからね」
頭をなでてあげると気持ちよさそうに目を細めて、されるがままに撫でてあげる。
「よし、いってきまーす」
むう成分を摂取して満足したから、玄関の方へ小走りで行ってドアを開ける。
「さむ!」
すぐに引き返して部屋に戻りマフラーを巻く。
「よし」
外に出たらまだ寒いけど、さっきよりは全然マシ。
この街には近くにショッピングモールもあるし、普通に商店街もある。
しかも、交通の便もいい。
商店街にも本屋さんはあるから、どっちに行くか悩むなぁ。
欲しい本は人気シリーズの新刊だから売り切れていないか心配だけど。
チラつく雪の中ちょっぴり小走りで住宅街を抜けた。
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