小出清亮

第1話

 ヒカリには自分が美人だという自覚があった。鏡で毎朝見るわけだから、自分の顔のことは他人なんかよりよく分かってる。目は人よりぱっちりしてる。鼻筋はなすじも通っている。私よりも小顔な子って、モデルさんとか映画の女優とか以外だとほとんど見たことない。身長だって170センチ以上ある。


 特に、肌には気をつかってるから、自慢だ。誕生日にお母さんに買ってもらったお高い(高校生にしては、だけど)化粧水けしょうすいと乳液と美容液を、もったいないけどたくさん使ってる。顔を洗う時は柔らかく泡立てた洗顔料でこすらず洗って、流す時はシャワーは直接当てないように、手のひらにめたお湯で少しずつ流す。お風呂から出たらとにかく即、保湿ほしつ。脚も腕も顔も首も化粧水と乳液とを塗りたくる。面倒だけどもう慣れた。


 メイクも学校では最低限にしてる。なるべく目元と眉毛くらいで済むようにしている。ベースからガッツリ仕上げると、翌日はさすがに肌の調子が悪くなるから、気合い入れるのはここぞって時だけにする。その甲斐かいあってか、私の肌はみんなより一段どころか二段も三段も白くて目立つ。男の人がこういう、ヤバいくらい病的な、白い肌が好きってことは経験で知ってるから、一生懸命守っている。スタイルだって、正直生まれつきもあるけど「勝ち」って感じだ。腰は高いし脚も長い。ちょっと肩幅はあるかもだけど、身長もバストもあるからバランスいいと思う。それでもなるべくお菓子とジュースは避けたり、努力もしてるつもりだ。部活もそれなりに真面目に運動してるバレー部にした。そこそこ筋トレするし、日焼けしないし、背が高いだけで割と活躍できるしで、いいこと尽くめだ。ひざをたくさんつくからちょっと黒ずみやすくて、そこは嫌だけど。


 美人の自覚が芽生めばえたのがいつからかは分からない。幼稚園の頃から、周りのお母さんたちがこぞって私の見た目のことに言及げんきゅうしてきたことは覚えている。控えめに、でも口を揃えてみんなが「かわいい」とめそやしてくれた。小学校に上がったら男の子たちは下手くそな字でラブレターを渡してくるようになった。


 六年生の時にはクラスのヒーローで、いわゆる目立つ子だったリョウタくんに告白されて、女の子の中心グループからイジメられるようになった。でも担任の先生がそれを嫌って、必死になってくれた。証拠を集めて、女の子たちの親を集めて、徹底的にイジメを暴露ばくろして、糾弾きゅうだんした。お陰でイジメはひと段落して、私は卒業までの静かな生活を手に入れた。


 その後も、何かにつけて私の力になりたいと、いつも私のことを気にかけてくれていた先生は、私と手をつないで帰っているところを同僚の先生に見られて、私の卒業のタイミングで一緒に学校を辞めることになった。私が中学校に進学したあとは少しの間ストーカーになっていたみたいだけど、都内に家族で引っ越してからは音沙汰おとさたがない。


 そう考えると、この頃から、私自身に、他の人がそうなっちゃうくらいの魅力があるんだって、自覚が芽生めばえ始めた気がする。


 美人は得するって言うのは、全然ある。美人だからこその悩みも、ある。あるけど、基本はまぁ得だ。例えば、ストーカーになった先生はキモいしヤバかったけど、先生のおかげで小学校でしんどかったイジメは無くなった。中三の時の担任の先生は、明らかに私を贔屓ひいきして、成績にめちゃくちゃ下駄げたかせてくれた。おかげで推薦すいせんで高校にも入れた。高校に入ってからは、新宿でスカウトされて、読者モデルのバイトも始めた。たぶん同級生の中ではお小遣いがたくさんあるし、インスタもすごいたくさんいいねが付く。ストーカーとかはギリギリ、ちょっとマイナスかな、ってくらいで、普段から得してることを思えば、オッケーだと思う。ママにはこんな風に産んでくれてありがとうと言いたい。ありがとうございました。

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