第28話:ラティフは火鉢を求めた

 店番は腰の曲がったおうな一人が腰掛けている。

 肌はシミだらけで、キルクークの民のような色味が混ざっている。大体歳をとったらみんな似たような肌になる。

 目に光は無く、ラティフとアミーナが来店を告げる前に声を掛けてきた。

 

「こいはこいは……めんこいご夫婦で」


「不敬にございます。アミーナ様にはラティフ様という立派な歳ぶりの旦那さまがおります」


 ラティフは飄々とうそぶいた。盲目の老婆一人であれば、自身の偽りも見抜かれないという考えだ。


「あっしはめしいてなごうございますから。お許しください。立派な男ぶりの旦那様が奥様をお連れなのだと勘違いしたのです」


「いいわよ。ズバイル。別にあたしは咎めないわ。相手はおばあちゃまよ。敬老の心を持ちなさい――」


「仰せの通りでした。おばあさま。失礼しました。高貴なお方のともないで緊張しているのです」


 ラティフが軽く頭を下げると、老婆はラティフの顔をペタペタと触りはじめた。


「あんたは不思議な方ですねぇ。立派な男ぶりの魂が見えるのに、体がその魂に見合みおうておりませんな」


「あなたは陶器を売るより、まじない師のほうがむいているようですね」


 この老婆は目で物を見ていないようだ。あまり長居するのも都合が悪い。

 

 ラティフはアミーナに適当な火鉢を選ばせて、早々と店を出た。

 

「面白いおばあさんだったわ。また、見に行ってみたいの。いいでしょズバイル?」


「僕の許しなど必要ありません。いつでもともないますよ」


「ズバイルだけじゃ大変でしょ。だって、ズバイルは重い荷物を持てないものね」


 火鉢はラティフには重かったので、アミーナが持っている。片手で軽々と運んでいる姿は勇ましささえある。

 

 このことを情けないとは思わないようにしている。そうあろうと決めたのは大昔のことだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る