第27話:ラティフは慮った

 一心不乱に腰をふるねずみを前に、ラティフはどうにか声を絞り出した。


「奥様、これは離れた方が良いでしょう。彼も気を良くしないでしょうし。すねられたら困ります」


 ラティフは抱きかかえられたまま、器用に動いた。


 なんとかして、戸を閉じる。


 奥の方に数匹の白いねずみを見かけた。


 あれの特徴を備えた子どもがいる。


 使い魔には子どもがいるのだ。

 

 アミーナが持てないという子どもを。使い魔ですら持っている。

 

 アミーナがようやくラティフを地面に下ろしたのは、市場に着いてからだ。


「奥様、お気を確かに」


 目だけで何を思うのか。

 

 ラティフにはわかりかねた。

 

 目の焦点があっているのか。あっていないのか。物を見ているようで見ていない。


 歩みを促そうとしても、びくともしない。往来に立ち尽くす不自然はラティフのまじないでもごまかしがききづらい。

 

 どうにかこうにか、動かそうとラティフはもがいた。

 

 背に周り、アミーナの尻にラティフの背中をあわせて体重で押すように動かせばようやっとあるき出した。

 

「あら? ズバイル。どうしたの」


「奥様が気を遠くにやっていたので、暴れてました」


「気づかなかったわ」


「でしょうね。さあ、お家に戻りましょう。たまの外出もよございますね。いつもとは違う趣のあるもので楽しうございました。さあ、風に当たりすぎてもいけません。火鉢も買うて帰りましょう」


 ラティフは焦ると口数が増える。当主の嫌味を思い出した。


 ラティフが手を引けば、アミーナは粛々とついてきてくれた。

 ラティフがアミーナを捕まえているのか。アミーナがラティフを捕まえているのか。


「ねえ、ズバイル。あなたは物知りよね。あたしが訊けばなんだってこたえてくれるんだもの」


「……奥様の願いに叶うものだけおこたえしているかもしれませんよ?」


 風情が欲しいと言うならば、風情を買えば良い。

 

 市場で古物を扱う店で、火鉢を求めた。

 

 キルクークとの商品の往来も珍しくはないので、数件回れば目当ての品を置く店も見つかった。


 市場の往来から外れた陶器を置く店である。


 通りを二つ横切り、妙な垂れ幕を張った店はラティフの記憶にはないものだったが。町人が案内するにはこの店であれば揃うとのことだった。

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