第8話:ラティフは脚本家である
ラティフは男としてみるならば軟弱な仕事をしている。
「それは男のする仕事ではない」
というように兄や姉達からけなされていたが、聞く耳を持つものでもないのがラティフだった。
「僕ほどにかわいい男はいない。姉たちよりも可憐で、甥っ子や姪っ子達よりも愛らしい。そんな僕が男らしい仕事なんて必要だろうか?」
兄や姉達もラティフと口論する気はないし。ラティフが収集している物語の多くは好事家達にとっては好ましいものと写っているのも理解している。
古今東西の物語を集め、読みふけるラティフは自然なことのように自分でも物語を妄想するようになった。
物語の中のラティフは雄々しく、逞しい男だ。
名前もそのまま「ズバイル」と表記している。
ラティフという男は単純だ。
嘘を吐くのも得意ではない。
新妻のアミーナは多くの本やメモの山の中から、目ざとくラティフのメモを見つけた。
文机には手紙を保管している文箱もあるが、書きかけのメモも乱雑に放置していた。
「奥様、もう一度お伺いしますが。文字が読めるのですか?」
キルクークの女性で文字が読めるのは珍しい。
そういった知識は基本的には男の役目であり、女はそういったことを好まれない。もしも物語を好むのだとしても、女達は口伝で物語を伝える。男たちも強いて文字で、文章を残したりはしない。語りの重要性を理解している民族だからだ。
アミーナはラティフのメモを手に取り、注視している。
「読めないとは言っていないよ」
それも読むのが恐ろしく速い。
ラティフは恐怖した。
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