第28話 朱に交われば赤く
「連れてこられなくなったというのは、この?」
宗旦の問いかけに加賀野は頷いた。
「由奈、こないだのキモい脅迫メール、このお兄さんたちに相談するから見せてぇ」
由奈はおずおずとスマホをフリックすると画面を見せた。
送信アドレスは見覚えのあるもので、内容は美咲に送られたような短文から徐々に変化している。
「うぉう、エグ……これ、わたしの方にも似たようなメールきてますかね?」
「見ない方がいいよ。内容はお兄さんが確認してくれてるんでしょ?」
短文連発も薄気味悪いが、長文になってからはテンションが乱高下している。洋平を装ったつもりなのか「ずっとブスだと思ってた」等の罵倒、おすすめと称してグロ漫画やグロ映像への誘導。果ては拾い画像か、自分で撮影したのかはわからないが虫や小動物の虐待映像の添付など、由奈へのメールも途中で見るのをやめた。
「もしかして、返信とかしてた?」
「だって、洋平の彼女は由奈だから。負けられないと思って……」
「負けるも何も、別れた方がいいってわかったよね?」
一応、同じ男に騙されていたよしみで、美咲が確認すると、由奈は悔しそうに頷いた。
「この件片付けたら忘れよう! わたしも早く忘れてなかったことにしたい。あんなクズと付き合ってたのは人生における汚点でしかない!」
自分ごと励ますつもりでした美咲の断言に、由奈は複雑な顔をしている。
「わたしは対応兄に任せてるのね。殺害予告とかもあるし、ここまできたら脅迫だから、警察に相談してると思う。由奈ちゃんも警察に相談した方がいいんじゃない?」
「大人なのに、お兄さんに任せてるの?」
由奈に不思議そうに聞かれ、美咲は頷く。
「わたしも最初は冷静になれそうもなかったし、法律に関しては兄の方が詳しいから頼ったよ。自分で解決が難しそうならできる人に頼るのは恥ずかしいことじゃないよ」
「そっか……」
「怒られるかもしれないけど、親御さんにも相談したらどうかな。相手も大人なんだし、大人の相手は大人に任せるといいよ」
由奈は迷った様子で加賀野を見上げる。
加賀野は優しく笑って頷き、由奈の頭を撫でた。
「旦那様も奥様も心配してましたよぉ。ちゃんと相談された方が大人だって安心するんですって」
「そっかぁ……」
ホッとして目を潤ませる由奈の顔色は来店時と全く違う。
「呪が解けたな」
宗旦がぼそり、と呟いた言葉は、由奈には聞こえなかったようだった。
「しゅ……?」
言葉を拾った美咲は小声で宗旦に問う。
「呪。まじない、のろい、そういった負の念の凝ったもの。メールに載せて届いていたのだろう。呪に関わると、関わった者の気も淀む。だから、店に『来られなかった』んだ」
「え、それ、うちの兄は大丈夫なんですか?」
にわかに心配になった美咲の問いに、宗旦は安心させるように説いた。
「あれは陽の男だ。本能的に対処の仕方を知っている。何かあると信田庵に来ているだろう? アレは無意識のうちに呪から身を守っているのもあるんだろう」
「へぇ〜。何者なの、うちの兄」
言われてみると、確かに妙なところで間がいい男だ。
顔がよく、ヘラヘラしている割には、恋愛ごとの面倒も上手く躱している。その分、長続きする彼女もいないようだが、このご時世、まだ結婚を考えていなくても、遅くはない。
あの太一ならそういうこともありそうだな。と美咲は納得しかなかった。
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