第26話 黒歴史にしかならない男
「追加でタマちゃんセットとぉ、ぽんぽこセット、あと宗旦様セットおかわりでお願いしまーすっ」
「そこは俺のセットじゃないの?」
「おはぎはおはぎで頼むけど、おうどんも食べたいのでー」
宗旦セットはおいなりさんにきつねうどん、伝八セットはおいなりさんとおはぎの組み合わせになっている。どちらも腹持ちのいい組み合わせだ。どれも単品でも頼めるが、セットにすると小さな干菓子か練り切りがつく。宗旦が鼠を模った練り切り、伝八は花札柄の、環は小判、団三郎は草履を模った干菓子がつく。
煎茶はサービスで飲み放題だ。
「なんで御菓子司様のセットはないんです?」
「そういえばそうだよね。美咲ちゃーん、なんで美咲ちゃんのセットはないの?」
追加注文を運んでいた伝八は、加賀野に聞かれて、はっとして大きな声で厨房に問いかけた。
加賀野が食べまくっている間に、店内は彼らだけになっている。
「……内勤スタッフのイメージセットとかあっても」
「え、爺さん婆さんらは喜んで頼みそうだけど」
「あぁ、ジジババども、美咲ちゃんのことすっかりお気に入りだもんね」
「勘弁してください」
ノリノリになっている尾崎兄弟に苦笑していると、由奈がぴくりと反応した。
「美咲……? お姉さんの名前も美咲って言うの?」
ガタン、と立ち上がった由奈の周りに黒いモヤがうっすらと漂い始めた。
「よーへいが、めーるしてた。わたしといるのに、美咲ってひとに……なんで、わたしのこと、かわいいっていってくれたのに……わたしだけじゃなかった……好きって……あいしてるって……」
カタカタと扉が鳴る。
「洋平?」
「草井洋平、知ってる? 由奈の彼氏なの。とらないで、とらないでよ!」
癇癪を起こした由奈が叫んだが、美咲は冷静に聞き返した。
「あいつ、結婚してて子供もいるって知ってた?」
「え?」
「しかも、いまだに親の脛齧ってて同居してるの。乗ってる車も名義は父親」
そのあたりのことは裁判が視野に入った時に太一が調べてきていた。
「冗談みたいだけど母親のことはママって呼んでるし、わたしを口説いてる最中に奥さん以外にも浮気相手を妊娠させてる。火事のことを知ってるかは知らないけど、放火の容疑者はその人なんだって」
「結婚……子供……」
由奈はへたり込むように座り直した。
「他にも未成年に手を出してるって聞いたけど、それってあなた? いくつなの?」
「十五歳です」
「ってことは高校一年生? いつから付き合ってるの?」
「こ、声をかけられたのは中学生のときで、せめて高校生なら口説いたのにって……」
「約束を守って高校生になったあなたを口説いたのね。それじゃ、手を出した未成年ってまた別にいるんだ……」
ロリコンじゃない、気持ち悪ーい。と顔を顰める美咲に由奈は真っ青になった。
「手を出したって……わたしそんなことしてません!」
「される前でよかったね」
「そこはほらぁ、わたしが守っていたからぁ」
「奥さんとか浮気相手の妊娠とか、店のことがあったからお金がなかったのかも」
そういえば、わたしとのデートもあんまりお金が掛からない場所だったし、家に来たがって家族がいない日を聞かれたこともあったな、と美咲が呟く。
「そいつクズじゃん。みさきち〜どこがよくて付き合ったの、そんなヤツ」
「一緒に夢を見てくれる人だと思ったのよ……」
第三者の目を通すと、付き合った過去が黒歴史にしかならないような男であった。
大言壮語を吐く夢みがちな男を、少年のようだと好意的に見てしまったのが間違いだった。
ロリコンというよりも幼稚で成長しない精神に釣り合う相手を選ぶと未成年になるだけなのかもしれない。
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