第22話 概念コラボメニュー

 丁寧に配置を確認して、巻き簀で形を整える。何本作っても包丁を入れる一瞬は緊張する。


「上手いもんだなぁ」

「あまり複雑なものは作れないけどこのぐらいならなんとか」


 美咲が作り上げたのは四海巻きを元にしたグラデーションが美しい飾り巻き寿司とたらことたくあんで作った花の巻き寿司だ。そこに漬物で作った花を添える。

 今季覇権アニメの概念コラボメニューである。なお許可は取っておらず非公式なため、全くキャラクターや名称は使用せず、あくまで匂わせているだけだ。

 それでも目ざとく見つける者はいるらしく、SNSで軽くバズっているらしい。

 若い女の子で満席なのは信田庵始まって以来の快挙だ。


「秋葉原だし、アニメにもアンテナ張り巡らせるべきかなぁ」


 ちょっとした思いつきから生まれたメニューだったが、反響が良くて美咲自身が驚いた。

 メインのキャラが4人、サブヒーローがふたりでそれぞれに違う色が割り振られていて、モチーフが四季と海と花だったのも取り入れやすかった。

 やってみた動機がファンだからではなく、やり易そうだったからなのが、少し後ろめたいが、頼んでくれたお客様が喜んでいるのが嬉しい。


「最近、お客さん増えて嬉しいね」

「そうだな。それも気持ちの良い人の子らが増えた」


 小さなぬいぐるみと一緒に届いたものの写真を撮っている客を見ながら、微笑ましげに尾崎兄弟が笑いあう。

 SNSで概念コラボが話題になっているのは、完成度の高さがひとつと、何故か辿り着けないという客がチラホラいるからだ。

 立地は分かりづらいが、問題なく来られる者は来られるので、店が見つけられない、というのはもはやネットミームになっている。スタッフたちの神職コスプレもあいまって『不浄の者は入れない店』などと呼ばれているが、それが事実だとは誰も思っていないだろう。


 ふと客が途切れ、手が空いたのでせっせと片付けや掃除をしていると、焦った様子で加賀野が飛び込んできた。


「うちのお嬢がぁ〜とうとう連れて来れなくなっちゃいましたぁ〜助けてぇ〜わたしだけじゃもうどうにもしてあげられないぃ〜」


 ひぃん、と締め殺されているような声で嗚咽を漏らし、ペタンと座り込んでしまった加賀野はどこか薄汚れている。


「美咲ちゃん、今店にある菓子片っ端から出して! 追加で作れるようなら頼む」

「え、あ、はい」

(こんな時に?)


 勢いに負けて、慌てておはぎを盛り付ける。

 何か悲しいことがあったからやけ食いをするのはまだわかるが、泣きじゃくる女性に菓子を差し出すのはいかがなものだろう。


「あの子がぁ断ち切ってしまうからぁ、どんどん縁が薄くなるのぉ〜。助けてぇ〜、あの子が、わたしの可愛い子がぁ、道を踏み外してしまうぅ〜」

「いいから、食え!」


 べそべそと泣きじゃくる加賀野に、宗が焦った様子でおはぎを押し付ける。


「あの! さすがに無理強いは……」

「今はコレが必要なんだ。出来る限り追加も作ってくれ」


 この店で爆喰いする客は、下手をしたら鍋一杯に炊いたあんこを食べ尽くす。

 今回の加賀野もそういうことなのかもしれない。

 美咲は直感に任せて小豆を鍋に入れ、明日用に仕掛けてあった餅米を炊き、白玉を作り始めた。


「もうわたしもぉ、潮時なんだわぁ〜。守護なんて、土台わたしにはぁ無理だったのよぉう」

「はいはい、お皿こちらに置きますね。盛り付けとかガン無視でみさきちには悪いけど、緊急事態だからね」


 テーブルに突っ伏す加賀野の前に、溢れるほどにおはぎやら稲荷寿司やらが積み上げられた皿が置かれた。


「うぇえぇっ、わた、わたしには神饌をいただく価値なんて……守護代失格よぉ〜」

「い・い・か・ら・食え!」


 とうとう実力行使で加賀野の口におはぎがねじ込まれたのを、幸いにして美咲は見なかった。

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