舞台恐怖症
天川裕司
舞台恐怖症
タイトル:(仮)舞台恐怖症
▼登場人物
●虫尾 瞳(むしお ひとみ):女性。25歳。人目を気にし過ぎる。他人からの評価に疲れ果て、毎日が嫌になっている。ヒカリから「舞台恐怖症」と診断される。
●戸口由香子(とぐち ゆかこ):女性。30歳。美人。高飛車。瞳にとって邪魔な存在になる。瞳の上司。
●心野ヒカリ(しんの ひかり):女性。20代。瞳の「他人の視線・評価から解放されたい」と強く願う心・理想から生まれた生霊。心療内科の女医として現れる。
●上司:男性。40代。瞳の上司。本編では「上司」と記載。
●同僚:全て女性。20~30代のイメージで。瞳の同僚。本編では同僚1~2と記載。
●春山伸樹(はるやま のぶき):男性。27歳。台詞なし。瞳と同じ部署で働く同僚。瞳が伸樹に惚れてしまう。でも伸樹は由香子と既に付き合っていた。
▼場所設定
●瞳の自宅:一般的なマンションのイメージ。
●栄華クリエイティブ:オフィスバックアップ社のようなイメージで。瞳や由香子が働いている。
●バー「Stage Phobia」:お洒落な感じのカクテルバー。ヒカリの行き付け。
●心療内科:こじんまりとした医院。
●由香子のマンション:都内のマンションのイメージで。
▼アイテム
●「セカンド・ステージ」:普通の錠剤。これを飲むと他人の視線や評価が全く気にならなくなり、心の中の観客すら消してしまう。実際はただの偽薬。
NAは虫尾 瞳でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4417字)
ト書き〈栄華クリエイティブ〉
私の名前は虫尾 瞳(25歳)。
ここ栄華クリエイティブで働いている。
私には今、心底、悩んでいる事がある。
ト書き〈トイレ〉
瞳「プハァっ!ハァハァ、ダメだ!人の視線が耐えられない!人の中に居ると、ハァハァ・・・どうしても何か焦ってしまう!ハァハァ、一体、何なのこれ」
人の群れの中・人の輪の中に居るだけで、何か強烈な焦燥を感じる。
息苦しくなり、ひどい時なんかその場で失神しそうになってしまう。
瞳「パ・・・パニック障害なのかしら・・・私・・・?」
でも違った。
医者が言うには「ただの精神的な疲労」との事。
ト書き〈プレゼン〉
そんな或る日。
私はプレゼンを頼まれた。
上司「新企画のプレゼンだ。ミスの無いように頼んだよ」
瞳「ええ?!あ、あたしがですか?!」
上司「君ももうここに勤めて2年だ。そろそろ独り立ちせんと、いつまで経っても仕事が身に付かんよ。ずっと他人にオンブに抱っこじゃ恰好悪いだろ」
瞳「あ・・・はぁ」
提携社から重役が大勢来る。
正直、この時点で疲労困憊。
瞳「どうしよう・・・大勢の前で話すなんてアタシ、出来ないよ」
ト書き〈プレゼン当日〉
同僚1「瞳、頑張ってね!」
同僚2「大丈夫よ。みんなカボチャだと思えばいいの!」
瞳「う、うん!」
同僚も私の性格を知っている。
プレゼン直前まで励ましてくれた。
でも・・・
由香子「あ~ら、アンタにプレゼンなんて出来るのかしら?」
こいつは私の上司で、とっても嫌味な戸口由香子。
由香子「アンタは人前に出るとアガッちゃって何にも出来なくなるんだからさ、こんな役引き受けるべきじゃないのよ。大~恥かくのがオチだろうね♪」
いつもは由香子がプレゼンを担当していた。
由香子は確かに仕事が出来る。
これ迄にも大きな商談を幾つも任されていた。
上司「おい虫尾君、準備はいいか?」
瞳「あ、は・・・はい!!」
ト書き〈プレゼン後〉
プレゼンが終わった。
結果は散々・・・。
プレゼンそのものよりも、普通に話す事すら出来なかった。
ト書き〈トイレにて〉
瞳「うう・・・ううう・・・だから嫌だったのに!もう私、こんな会社に居られないわ!もうダメよ!部長も社長もきっと私の事なんか『全く使えないでくの坊』だって思い込んでるわ!同僚だってきっとそう!私に愛想尽かしてる!」
瞳「・・・それに由香子さん・・・!アイツだって今ごろ私の事せせら笑ってるに違いないわ!うう・・・ううう・・・うわぁあぁあん!!もうダメよぉおぉ!」(号泣)
私はトイレの中で思いきり泣いていた。
私は信用を全て失った!
この時、辞職を本気で考えた。
ト書き〈仕事帰り〉
仕事が終わり、私は社屋から外へ出ようとロビーを歩いていた。
瞳「あれから皆何も言わなかったけど。でも心ん中じゃ私の事『全く使えない女』なんて思ってるんだろな。私のプレゼンなんてもうサイテー評価よ」
皆が帰ったのを見計らってオフィスを出たから、ロビーにはひとけが無い。
でもその時・・・
瞳「ひっ!・・・だ、誰・・・!?」
急に背後に人の気配がして振り向いた。
でも誰も居ない。
瞳「気のせいか。・・・え?だ、誰!?」
今度は右隣りに人の気配がし、振り向いた。
誰も居ない。
瞳「な・・・何・・・この感覚・・・」
神経が昂っているのか。
私はダッシュで外へ出た。
ト書き〈バー「Stage Phobia」〉
瞳「はぁ。今日は飲みに行こっか」
私は気を紛らわす為、飲みに行く事にした。
久し振りに飲み屋街を歩いていた時・・・
瞳「ん?バー『Stage Phobia』?新装かな?」
全く知らないバーがある。
瞳「ふぅん。まぁいいや、入ってみよ」
中はお洒落な感じのカクテルバーだ。
私はカウンターで飲む事にした。
1人で今日の事を愚痴っていた時・・・
ヒカリ「こんばんは♪ご一緒してもイイかしら?」
綺麗な女性が声を掛けてきた。
瞳「え?あ、どうぞ・・・」
彼女の名前は心野ヒカリ。
歳は私と同じ20代くらい。
都内から少し離れた郊外で、心療内科をしていると言う。
ヒカリ「お悩みのようですね?会社で何かヤな事でもありました?」
瞳「え・・・?い、いや」
彼女は何となく不思議なオーラをもっている。
「昔から知ってる人」
そんな感覚がどことなく漂っていた。
それに彼女と居るだけで、心が自然に和らいでくる。
気付くと私は、今の悩みを全てヒカリに打ち明けていた。
ヒカリ「なるほど。他人からの視線を気にし過ぎて疲れていると・・・?」
瞳「ええ。もう子供の頃からなんです。下らない事を気にして、いつも他人からの評価が気になって、心が休まらない状態を自分で作っているんです」
ヒカリは親身に聴いてくれた。
ヒカリ「それはきっと『舞台恐怖症』です」
瞳「え?」
ヒカリ「『舞台恐怖症』は主に自律神経失調から派生する事が多く、神経過敏になる傍ら、他人の視線や評価を異常に気にしてしまう。それが良い評価ならいいんですが、大抵の場合、全て悪い評価に自分で決めてしまうのです」
瞳「はぁ・・・」
ヒカリ「アメリカの心理学関連の論文にもよく見られます。思春期頃にその症状は出易く、知らない内に自分が『舞台の大物俳優・女優』になったように錯覚し、自分で創り上げた観客から喝采を受ける事に悦を感じるようです」
ヒカリ「更には対人して居なくてもその症状が出るから厄介ですね。周りに誰も居なくても『物陰から誰かが私を見てる』なんて錯覚して、その陰の観客・居ない観客の為に無理やりヒーロー・ヒロインを演じようとしてしまう」
ヒカリ「無駄な努力と分かっていてもやめられない」
瞳「そ、そうなんです!今日会社から帰る時、誰も居ないのに人の気配を感じたりして・・・。あぁ~もうアタシ、精神異常者にでもなったのかしら!」
ヒカリ「まぁ落ち着いて。どうです?ここでお会い出来たのも何かの縁。明日、私の所へ来ませんか?今のあなたにピッタリのお薬をお渡ししましょう」
ト書き〈翌日〉
翌日。
私は会社を休んだ。
そしてヒカリが開業してる心療内科へ行った。
ト書き〈心療内科〉
ヒカリ「どうぞ、こちらをお試し下さい。これは『セカンド・ステージ』というお薬です。これを飲めば人の視線や評価が全く気にならなくなり、心の中の観客すら消してしまいます。特に対人恐怖症にも最適なお薬となります」
そう言ってヒカリは錠剤をくれた。
瞳「セ・・・『セカンド・ステージ』?」
ヒカリ「あなたの場合は『心の観客』を消す事が先決です」
ヒカリ「なので、精神安定を図るお薬ではなく、その心から『観客』を全て追い出すといった強壮剤のようなお薬が必要になります。そのお薬にはそういった成分が総て含まれていますので、試してみる価値はあると思いますよ」
私は疲れていたので、その場でそれを飲み干した。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
私はすっかり変わった。
瞳「凄いわ・・・誰の評価も視線も気にならない!好きな事がやりたいように出来てしまう!失敗なんて怖くない!心が凄い解放感に満ち溢れている!」
もう今までの私じゃない。
プレゼンも商談も新たなプロジェクトも、何でも思いきってやれる!
ト書き〈見る見る出世〉
上司「これからも重要な仕事は全て君に任せるからね!頼んだよ!」
瞳「はい畏まりました」
由香子「どうしちゃったのよあの子・・・まるで別人じゃない・・・」
私は見る見る出世した。
平社員から係長、そして25歳の若さで課長の座に就任。
ト書き〈注意〉
ルンルン気分の或る日。
私はあのバーへまた行った。
瞳「ヒカリさん本当に有難うございます!私すっかり変わりました!今はもう誰の視線も気にせず思う事を存分にやれます!課長に迄なれたんです!」
ヒカリ「それは良かったです。おめでとうございます♪」
瞳「これも全部、ヒカリさんのお陰です♪」
ヒカリ「そう言って貰えると私も嬉しいです。ですが瞳さん、これだけは注意して下さい。あなたは今、心の中の観客を消し、自分の周囲からも不要な視線や評価を消す事が出来、思うように人生を歩み始める事が出来ました」
ヒカリ「ですがそんな時にこそ『落とし穴』があるものです」
瞳「落とし穴・・・?」
ヒカリ「視線や評価を気にしないというのは、言い換えれば、我儘に生きる事にも繋がります。つまり独裁の心が生れるという事です。余り奔放になり過ぎると却って身の破滅を招きます。必ず歯止めをかける心を忘れずに・・・」
よく解らなかったが、つまり「行動を節制しろ」と言われた気がした。
瞳「大ー丈夫ですって♪そんなのに嵌っちゃうような私に見えます?」
ヒカリ「フフ、それならいいのですが」
ト書き〈犯罪〉
それから数日後。
私は同じ部署の春山君に恋をしてしまった。
でも・・・
由香子「ちょっとアンタ!な~に人の彼氏にちょっかい出してんのよ!」
そう、春山君は既に由香子と付き合っていたのだ。
瞳「くぅ~~」
諦めようと何度もしたが諦めきれない。
自宅でも私はずっと、春山君の事、由香子の事で悩み続けた。
そして或る日・・・
瞳「・・・あの由香子が邪魔だわ・・・。アイツさえ居なくなってしまえば・・・」
そう思うようになった。
瞳「そうよ・・・。こんな時こそ人目なんか気にしちゃいけないのよ!アタシは誰からの束縛も受けず、やりたいようにやって行くだけ・・・。そうよ、私を評価できる人・裁ける人なんてこの世に居ないわ・・・今こそ心を強くしなきゃ」
数日後。
私は会社帰りに由香子を尾行した。
そしてそのまま由香子のマンションに押し入った。
由香子「な、なによあんた一体・・・」
瞳「アナタはもう舞台を降りなさい。ここは私だけの独壇場。アナタみたいな悪役が出る幕じゃないのよ。これからのシーンはね、私と春山君だけの甘いラブシーンなの。この舞台に居ていいのは私と春山君だけ。サヨウナラ」
その場で由香子を殺した。
ト書き〈逮捕される様子を眺めながら〉
ヒカリ「ふぅ。あれだけ言ったのに。私は瞳の『他人の視線・評価から解放されたい』と強く願う心・理想から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。その症状だけを改善させてあげたかったけど、逆効果だったわね」
ヒカリ「瞳は舞台恐怖症に罹りながら、密かに『自分がヒロインである事』を誇りにし、周りの人達を脇役・悪役に仕立て上げていた。全ては自己中心に世界が回り、その挙句、不要な者は自分の周りから削ぎ落そうとしていた」
ヒカリ「あのお薬『セカンド・ステージ』はね、何て事ないただの偽薬だったのよ。精神を落ち着かせる成分なんて入ってないし、神秘的な力を発揮させる効力なんて初めから無い。瞳が変わった理由は、ただの心境変化のせい」
ヒカリ「瞳には初めから超我儘な性格が宿っていた。そのせいで周りからの評価も全て自分を喝采するものでなければ気が済まない。そうでなければ受け付けない。そんな我儘な性格が、遂に人1人、殺すまでに至ってしまった」
ヒカリ「たかが恋愛のもつれで、人生の表舞台から強制降板させられちゃうなんてね。きっと瞳は観るに堪えない悪役・・・いや大根役者だったのね・・・」
(※)これまでにアップしてきた作品の内から私的コレクションを再アップ!
お時間があるとき、気が向いたときにご覧ください^^
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=NMUPCu5jom0
舞台恐怖症 天川裕司 @tenkawayuji
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