第2話 証を立てろ
一人でゆっくり考えたい。
授業が終わったらさっさと家に帰るか――と思ったけど、そうか、この世界じゃ寮生活だったな……。
放課後に、制服を着てても筋肉の張りを感じる男子が話しかけてきた。
「おい白河。どうせテメェのことだ、訓練の授業はズルしたんだろ?」
「レオン、そういう聞き方は良くないよ」
「まったくだ。ズルしたのかと聞かれて、ハイと答えるような人物ではないだろう」
「修も! 白河君、ごめんね」
筋肉が凄い奴が千葉レオン。続いて俺を煽ったのが畠山
二人の間に立っているのが、一条
この三人は元からクラスメートじゃなくて、ゲームの登場人物だ。
初めて生で見るけど、結構身長高くてイケメンで、存在がまぶしい。
あまりにまぶしい存在感に、俺が溶けて消えそうだ……。
三人ともがめちゃくちゃイケメンだからか、それともゲームの登場人物だったからか、クラスでも良い意味で浮いてる。
カーストの上限を突破した尊い御方、みたいな雰囲気がある。
女子たちが、話しかける順番とか距離の詰め方を牽制し合ってるほどだ。
乙女ゲーか。
「ズルはしてないさ」
「おいおい、じゃあどうやってホロ訓練を攻略したんだよ?」
「……普通に?」
「嘘は付かない方がいい。一回もダンジョンに潜ったことがない白河が、ゴブリンを倒せるはずがない」
「レオンもシュウもやめろって! 白河くん、言葉が悪くてほんとごめんね」
ははは。
はなっから雑魚認定かよ。
あの訓練の様子を見てもズルしたって考えられるって、こいつらには目が付いてないのか?
それとも、
なけなしのお小遣いはたいてガチャ引いて出た時は喜んだけど、リアルがこれって……。
現実って残酷だな。
「別に妙なことはしてないって」
「何もしないで倒せるわけないだろ」
「まったくだ。何もしてないなら証明してもらおうか」
「はあ……。俺は何をすればいいんだ?」
証明もなにも、決着は既に付いてると思うが……。
てか、国家試験のハンターテストに使われるデータを、たかだか高校生が改ざんしてクリア出来るの、システム的にヤベェってわからないのかね?
他のハンターが不正し放題だわ。
「ダンジョンに潜って、本物のゴブリンを倒せばいいんじゃねぇか?」
「ナイスアイデアだ、レオン。ダンジョンに入って、ゴブリンを倒してもらおうか」
「倒したって口だけじゃ駄目だぜ? ちゃんと証明をもってこいよ」
「公的に認められる証拠ならば、ボクたちも過ちを認めよう。無論、改ざんや偽造をしていない前提だけれどね」
「……まあ、いいけど」
どのみち、ダンジョンには行きたいと思ってたところだ。
ついでにゴブリンの討伐証明でも手に入れよう。
「白河くん、大丈夫だった?」
「暴力は……振るわれてないな? よしっ!」
一条たち神スリーが離れたのを見計らって、一瞬で距離を取っていた安達と大斗が近づいて来た。
自分の身を守る行動としては正しいが、友人としては薄情で悲しいよ。
「あいつら、なんで俺に絡んでくるんだ? 雑魚だって思うなら、無視すりゃいいじゃん」
「白河くん、それはたぶんだけど、自分たちの記録が抜かれて悔しかったんじゃないかな?」
「記録?」
「うん。少し前まで一条くんたちの五連続討伐が最高記録だったんだよ」
「あー、なるほど」
その抜いた奴が、クラスのカースト最底辺にいる俺で、これまでの実技もぱっとしないとくれば、不正したって絡みたくなるのもわからないでもない、か?
いやいや、わからんわ。
「それより、本当にダンジョンに行くの?」
「ああ」
「やめておいたほうがいいんじゃないかな」
「なんでだよ」
「だって、僕らまだ一年生なんだよ」
「そうだぜハヤテ。実戦はホロと違って怪我するし、命も危ないんだぞ?」
「そうだな」
「危ないからやめとこうぜ?」
「うーん」
「たとえ白河くんがゴブリンを倒せても、あの三人とモメるのは不味いと思うよ」
「なんでだよ?」
「一条くんはハイクラン【払暁の光剣】マスターの息子だし、千葉くんはサブマスターの息子」
「うんうん」
そこはゲームと同じだな。
たしか、ハンターズクランの中で著しい活躍が認定された『ハイクラン』には、貴族みたいな権力があるんだったか。
「それに、畠山くんは大財閥『畠山グループ』会長の息子だよ」
財閥、だとッ!?
日本の財閥って確かGHQが解体したんじゃ――ああ、そうか。日本が第二次世界大戦で敗戦してないから、財閥が残ってんのか。
「財閥は政界に関わりがあるし、ハイクランのリーダーは議席権持ち。そんな三人と敵対するのは得策じゃないよ。下手すれば、学校にいられなくなっちゃうよ……」
「権力者は親であって、子どもじゃないだろ」
「まあ落ち着けって。ケースケの言うことにも一理あるぞ。あの三人に言われっぱなしってのは癪だが、ハヤテだけが命賭けるのは違うくね?」
「む……」
大斗のくせに、すごくまともなこと言った……。
こいつの中身は本当に大斗か?
「それとは別件でよ、なあハヤテ。訓練の攻略法を教えてくれよ」
「……普通に強くなれば攻略出来るぞ」
「おいおい、しらばっくれんなよ。パッとしない男子がいきなりホロ訓練で偉業を達成、キャーキャー言われてあわよくば彼女ゲット! って筋書きなんだろ? おれにも教えてくれよ!!」
あっよかった、中身大斗だわ。
「それじゃ、ダンジョン行ってくる」
「……はあ、わかったよ。怪我しないで帰ってきてね」
「おいハヤテ、頼む! おれにモテモテになる秘訣を教えてくれッ!!」
「知らねぇよ」
そんなんあったら、俺が使ってるわ!
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TIPS
・ダンジョン
百年近く前に突如として出現した洞窟。
中は迷宮のように入り組んでおり、知性が低い害獣『モンスター』が出現する。
深い階層に進むごとに、モンスターの能力が上昇する。
モンスターからは魔石が取得出来る。魔石は万能資源として様々な場面で利用される。
モンスターを狩らずに放置すると、ダンジョンから放出される魔力によって外部に深刻な影響を及ぼす。
その一つが、深淵の発生頻度上昇だ。
深淵の発生を抑えるため、ダンジョンでのモンスター討伐はハンターにとって欠かせない仕事になっている。
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