滅亡国家のラグナテア
萩鵜アキ
第1話 プロローグ
「白河くん、起きないとまずいよ!」
体が揺すられ意識が覚醒する。
瞼を開くと、目の前に友人の姿。
「……ん、どうした?」
「次白河の番だよ。ほら、早く前に出て! 先生に怒られるよ」
「あ、ああ」
やばっ。授業中に寝落ちしてたわ。
クラスメイトの安達に背中を押されて前に出る。
この場所、どこかで見たことあるな……。
ああ! 『滅亡国家のラグナテア』に登場する学内訓練場か。
ってことは、これは夢だな?
昨日は寝るまでゲームやってたから、夢にまで出て来たんだろうな。
にしても、ゲームの世界に安達が出てくるとはな。
――って、安達以外にもいるな。
おおークラスメイト全員いる。
他には、ゲームの登場人物もいるな。
唯一見たことないのは、俺をガン見してる大人――たぶん先生くらいだ。
……って、誰だあいつ?
「おい白河、インベントリから武器を出せ」
「えっ」
「それとも戦う前から降参か?」
先生の言葉で、生徒がどっと声を上げた。
あーうん、こういう部分も生々しいのな。
せめて夢くらいは現実を忘れさせてくれよ……。
「せんせー、可哀想なのでリタイアさせてあげたらどうっすか?」
「「「ギャハハハ!!」」」
おうおう、煽りよる。
普段なら黙って引き下がるが、ここは夢――それも、ラグナテアの世界だ。
黙って引き下がれるわけがない。
ポケットに手を入れる。
あったあった、携帯デバイス
スマホみたいにタッチ操作して、インベントリを選択。
うん、俺が集めたアイテム全部揃ってるな。
中身空っぽだったら絶望してたわ。
インベントリから、使い慣れた銃型魔法デバイス――レギオンを取り出す。
「先生、始めてください」
「お、おう。わかった」
システムスタートのアラームがなると、目の前に
ああ、思い出した。
これはチュートリアルのシーンだ。
夢なのにずいぶんリアルだな。
皺の一本一本までよく見える。
銃を上げて、引き金を引く。
「《
連続、三発。
ゴブリンの頭が爆ぜた。
ゴブリンがポロポロと崩れて消えていく。
「うそ、だろ。あの白河がゴブリンを倒したぞ!?」
「しかも瞬殺……。一体どうなってんだ?」
「機械の故障か?」
困惑の声が響く。
ゴブリン倒しただけで動揺するって、普段の俺の評価どんだけ低いんだよ。悲しいわ。
「どうせ次で終わるって」
「そうそう。あいつに連戦する力なんてないよ」
誰の声かは知らないが、悪いな。
これは俺の夢なんだ。
ゴブリンに続いて、ウルフが三体登場。これも即座に魔法弾で消去する。
出現する魔物がいちいちリアルでびっくりだ。
でも通常攻撃一発で終わるから肩透かし。見た目ほどの強さはないな。
まあ仕方ないか。
今使ってるのは、ゲームで育てに育てたレギオンだ。
レアリティが伝説級の課金アイテムで、さらに最高まで強化した武器じゃ、チュートリアルの魔物に耐えられるはずがないもんな。
立て続けに出ていた魔物が湧かなくなった。
「ん、もう終わりか?」
訓練場は静まりかえっている。
終わったのかどうか判断しづらいな。
「ま、まだだ。白河、次いくぞ!」
先生の声と共に、新たなホロが出現した。
今度はオークか。
ワンランクレベルが上がったな。
大好きなゲームの世界に入って、自由に自分の武器が使えるのは、すごく楽しい。
ああ、夢が覚めなきゃいいのにな……。
「まだだ、まだ終わらんぞ!!」
教師の声と共に、今度はオーガが出現。
ん? チュートリアルってこんなに連続でバトルしたっけ?
「《魔法弾》――おっ?」
さすがは上位の魔物だ。
通常攻撃じゃ倒せないか。
「《アイシクル・ランス》。《ブレイズ・ランス》」
迫り来るオーガに、二種の魔法を重ね撃ち。
目の前に広がった小さな魔方陣から、氷と炎の槍が飛ぶ。
氷の槍は胸を氷結させ、炎の槍は頭を吹き飛ばした。
続いて現われた魔物も、初級魔法で沈めていく。
せっかくだし、目が覚める前にいろんな魔法を使っておきたいな。
初級から中級、上級と、それぞれ順番に試していく。
十匹ほど倒したところで、ドラゴンが現われた。
おおお! ドラゴン、かっけー!!
せっかくだし、エクストラスキルで終わらせるか。
引き金を引くと、ドラゴンを覆うように、いくつもの巨大な魔方陣が出現。
マナが揺れ、体がビリビリする。
本能が「やべぇぞ! マジやべぇぞ!」って警鐘を鳴らす。
あまりの臨場感に腰が引けそうだ。
怖いから、さっさと終わらせよう。
「――《
瞬間、発光。
激しい振動と共に、爆音が耳を劈いた。
痛ってぇ!
耳が痛ぇ!
ディリジョンってこんなに威力あるのかよ。
これ絶対室内で使っちゃいけないやつだろ。
自分が巻き込まれずにピンピンしてるのが奇跡だわ。
視界が戻ってくる。
目の前のドラゴンが消滅したのを確認したとき、クラスメイトたちのうめき声が訓練室の中に静かに響いた。
「そんな、A級ハンターへの試験用データを、白河がクリアした……だと? そんな、馬鹿なッ!」
馬鹿な! はこっちの台詞だよ。
教師のくせに、なに生徒にとんでもないホロ訓練させとんじゃ!
「先生、終わりですか?」
「お、う……くっ、おわ、りだ」
「では、戻りますね」
レギオンをイベントリに収納し、観覧席に戻る。
クラスメイトが、まだ固まったままだ。
微妙な空気が漂ってる。
なんだ、どうした?
ぐるりと見回すと、全員に引かれた気がした。
なんでだよ……。俺が一体何をした?
そんな中、安達と大斗が俺の下に駆け寄ってきた。
「凄いよ白河くん! Aランクハンター試験のデータをクリアしちゃうなんて!!」
「ハヤテぇ、めちゃくちゃカッケーじゃん! 強すぎてちびるかと思ったぞ!」
「おい大斗、痛いからそんなに背中を叩くな」
……ん? 痛い?
あれ、これ、夢じゃなかったのか?
夢だったら、なんで俺は痛みを感じてるんだ?
訓練の授業が終わってから、『夢なら覚める頃合いだぞ、そろそろ起きよう?』って念じ続けたけど、いつになっても目が覚めない。
やっぱりここは、現実なんだ。
ただの異世界転生なら、もう少しすんなり頭を切り替えられたと思う。
でも、この世界は俺が住んでた世界線と、あまりに似すぎてる。
まず友達だ。
ここには安達も大斗もいる。
クラスメイトも全員揃ってるし、担任だってほとんど同じだ。
親も、同じように存在する。
大きな違いは、この世界にダンジョンがあること。それと定期的に、深淵に襲われることだ。
この違いのせいで、人間関係以外のアレコレが大きく変化していた。
学校名だって『国立ハンター養成学校』になってるし、実家から通学してたはずなのに、今は寮生活になっている。
社会制度も違う。
歴史だって、第二次世界大戦の頃から大きく変化していた。
この世界は、『滅亡国家のラグナテア』とうり二つだった。
1935年。第二次世界大戦が起るよりも前。
この世界にダンジョンと深淵が出現した。
ダンジョンには魔物が生息し、定期的に魔物を倒さなきゃ中から魔物が溢れるスタンピードが引き起こされる。
深淵は、そんなダンジョンから漏れ出した瘴気が蓄積し、異界と繋がった場所を指す。ここにはダンジョンよりも凶悪な魔物が出現する。
深淵は一定時間が経つと、中にいる魔物が溢れ出す。それまでに主要悪魔を討伐しなければならない。
人間は魔物や悪魔との戦いの中で、新たな技術の開発や、魔法の発見、そして新たな制度を設計した。
技術の発展によって、魔物の素材から武具の製作や、生活を豊かにする道具を生み出せるようになった。
魔法の発見によって、魔物への対策がより進むことになった。
そして、新たな制度により、ハンターという職業が生まれた。
ざっくりと、歴史の教科書にはそんなことが書いてあった。
ハンター、クラン、ダンジョン、深淵――そして、魔王。
間違いない。これはまんま『滅亡国家のラグナテア』の世界だ。
じゃあ、どうして俺はこの世界にいるんだ?
俺が寝落ちした間に、元の世界はどうなったんだ?
クラスメイトとか、教師とか、元の平和な世界を誰も知らない……のか?
念のため、それとなく聞いてみるか。
「なあ安達。『第二次世界大戦』とか『湾岸戦争』って言葉に覚えはあるか?」
「ええと、架空の戦記? ごめんね、聞いたことないよ」
「それじゃあ、令和って言葉は?」
「ええと……もしかして万葉集かな? そんな言葉、よく知ってるね」
「いやそれ俺の台詞だから」
なんでこいつ、令和の出典が万葉集だって秒でわかるんだよ……。
「い……今の年号ってなんだっけ?」
「広至だよ。日本書紀が出典だね」
「こうし、か」
「……どうしたの?」
「いや、なんでもない。気にするな」
安達ならなんか知ってるかもって期待してただけに、落胆がやばい。
あの平和な世界を知ってるのは、本当に俺だけなんだな……。
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TIPS
・家庭用VRゲーム『滅亡国家のラグナテア』
発売初週月、世界中で百万本販売(DL販売含)。
VRゲーム界の大きな転換点となったコンシューマータイトル。
本ゲームの魅力は、VRだけでなくスマートフォンでもプレイ出来る点にある。
自宅だけでなく、移動中の隙間時間にプレイ出来ることで、多くの支持を獲得。
さらに課金アイテムが即バランスブレイクに繋がらず、基本キャラでも使い方次第では活躍するという、設定の巧みさも支持を集める要因になっている。
本ゲームはプレイ時間が強さに直結するため、無課金プレイヤーにも優しいつくりだ。
本ゲームは世界にダンジョンが現われ、深淵の出現により荒廃した都市が舞台。
プレイヤーは人類の生き残りをかけて魔物や悪魔と戦う。
序盤はハンター学校からスタートし、そこで基本的な知識や操作方法を学ぶ。所謂チュートリアルのような扱いだ。
学校を卒業するといよいよ深淵が活性化し、プロハンターとして悪魔討伐に乗り出す。
ハンターを集め、クランを立ち上げ、人類の存命をかけて魔王討伐を行う。
・PADS(Personal Access Device Service)
ハンター用小型端末。
スマートフォンと似ているが、大きな違いは個人用インベントリにアクセス出来るか否か。
ステータス診断機能や電子出納機能(自動確定申告)なども付いている。
個人情報を協力に保護するシステムが搭載されており、本人以外にはロック画面を解除することも出来ない他、画面を盗み見することも出来ない。
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