第5話
「先ず、現段階では帰還は難しい。何なら、不可能と言っても良い」
「どういう事だ?」
善人が問えば、涼子は簡潔明瞭に答えた。
「ザックリ言うと、座標は解ってるんだけど其処までの航路がサッパリ解らないのが現状」
涼子の答えに千雨は質問する様に言う。
「
「その認識で良いわ。座標が解っても其処へ行くまでの航路を示す羅針盤やGPSが壊れてたら、流石に目的地までの航海は難しいものとなる」
「つまり、そのジャミングを何とかしないと帰れない。って事か?」
「そう言う事。で、問題その2は帰還に際して燃料が足りない点」
「燃料?」
「魔力よ。今の私の魔力で全員を帰すのは難しいのが現状。その上、あの術式には世界の外に出た瞬間に
燃料の問題とは別に、勇者として召喚されたクラスメイト達は世界の外へ出た瞬間、魂ごと死ぬ。
そんな厄介な問題もある事を告げれば、2人は渋い顔を浮かべるのも無理はなかった。
だが、此処で疑問が浮かんだのだろう。
千雨は尋ねる。
「貴女は私達に仕込まれた術式はカスと断じた。それなのにジャミングを何とか出来ないのは矛盾してない?」
当然とも言える問いを投げられれば、涼子は専門家として答えを投げ返した。
「このジャミングに関しては認めるのはムカつくけど、高度な術式なのよ。だから、解析に滅茶苦茶時間が掛かる。完璧を期すなら1年は欲しいくらいにね」
その答えを聞けば、今度は善人が言う。
「つまり、ジャミングを何とかしつつ皆の術式を外さないといけなくなる訳か?」
「そう言う事になる。でも、幸いにもアホみてぇな出力でジャミングしてるからジャミングの発信源を見つければ、戦争名物ジャミング物理で対処出来なくもない」
聴いた事の無い言葉に善人は首を傾げてしまう。
「ジャミング物理って何だよ?」
疑問に首を傾げる善人に千雨が代わりに答えた。
「通信やジャミングとかレーダーの電波を出してる所に砲弾やら爆弾、ミサイルとかをブチ込んで物理的に黙らせるジャミング方法よ。戦争ではよくあるわよ」
さも当然の様に識り、ソレを語った千雨に善人は「なるほどなぁ……確かにジャミング物理だわ」と、納得。
涼子はそんな2人に告げる。
「だから、先ずはジャミングの発信源を特定して潰す必要がある。勿論、それと並行して皆の術式を解呪もしないとならないって問題に対処しながらでね」
厄介な問題を解決する必要がある。
そう涼子から告げられれば、善人は尋ねる。
「なぁ……例のウルシア様とやらを殺れば、全て片付かないのか?」
この状況の根本的な元凶を始末する。
そんな解決方法は使えないのか?
そう問う善人に対し、涼子は渋い顔を浮かべながら答える。
「ソレが一番良いんだけどさ……奴の居場所が解らない。その上、奴を殺れる手札が手元に
「野郎の居場所が解れば、速攻で嘗めた真似の代償を支払わせるんだけどね」そう締め括った涼子に千雨は言う。
「つまり、現状としてジャミングの発信源を特定して排除。それと並行して皆の解呪をやるのが最善じゃないけど、無難な選択な訳ね?」
その問いに涼子は肯定する。
「そう言う事。私独りか2人と一緒だけなら何の気兼ねも無く好きに殺れるんだけどね……流石に状況がソレを許してくれない」
不愉快極まりない。
そう言わんばかりに答える涼子に善人も不愉快そうに返した。
「そして、その為にどう動くべきか?って問題もある訳か……マジで最悪だな」
善人がそう言えば、千雨も言う。
「ソレ以前に両立させるのが無理あるわよ。ジャミング潰しか?解呪か?どっちか選ばないといけないわ」
選択を迫られた涼子は悩んでしまう。
だが、悩んで考えても答えが出る事は無かった。
そんな時だ。
人の気配がした。
その気配は涼子が認識阻害を自分の周りに仕掛けているにも関わらず、認識阻害を無視する様に自分達を隠れ見ていた。
その"誰かさん"の視線に涼子達は気付いたのだろう。
「ネズミに食い付かれたかしら?」
「だが、あの
千雨と善人が言うと、涼子は気配の主に心当たりがあったのか?
2人に向けて「コレ、クラスメイトの気配」と告げた。
その言葉に2人は驚く。
だが、涼子は気にする事無く何処からとも無くブローニングハイパワーを手にすると、サプレッサーをネジが切られた銃身に慣れた手付きで取り付けながら呼び掛ける。
「隠れてないで来なさいよ。さもなきゃ、其処に弾をブチ込むわよ」
その言葉と共に銃口を気配の先へ向ければ、暗闇の中から足音が近付いて来た。
程無くして、気配の主が両手を挙げて降参の意を示しながら現れると、涼子は呼び掛ける。
「夜の散歩かしら?
涼子に呼ばれた気配の主……安倍 陽子は両手を挙げて敵対の意思は一切無い事を示しながら答え、問う。
「この世界とは異なる異質な魔力を感じたから見に来たのよ。貴女は何者なの?」
安倍 陽子から問われた涼子は、さも当然の答えた。
「少し魔導を齧っただけの普通の女子高生よ」
一応、嘘は答えてない。
だが、涼子の答えに2人は呆れ混じりにボヤいてしまう。
「普通の女子高生は無理あるだろ?」
「アンタが普通の女子高生ならテロリストだって普通の人よ」
2人の言葉に心外そうにしながらも涼子は安倍 陽子に手を下ろさせた。
「手を下ろしなさいな。見てて間抜けにしか見えないわよ」
涼子から許しが出れば、安倍 陽子は挙げていた両手を下ろした。
それから、直ぐに尋ねた。
「貴方達は何を企んでるの?」
直球ストレートに問われれば、涼子はアッサリと答える。
「決まってんじゃない。元の世界へ帰る。コレに尽きるわ」
涼子が最終目標を答えれば、安倍 陽子はソレに自分も乗ろうとした。
「なら、私も仲間に入れて貰えないかしら?」
当然の成り行きに涼子は告げる。
「そうしたいのは山々なんだけど……2人はどう?」
2人の意思を問えば、2人は暢気に返した。
「別に良いんじゃね?仲間が居ないより居るほうが良い訳だし?」
「私は貴女の判断に任せるわ、指揮官殿」
善人と千雨の宛にならぬ意見に溜息を漏らすと、涼子は安倍 陽子に告げる。
「仲間が増える事は良い事なのは事実。でも……」
「でも?」
「その場合、神の加護とか言うクソみたいな呪いを取り除く必要がある」
「つまり、私に与えられたチートとかが無くなるって事?」
「そう言う事。さて、貴女はチート抜きで何が出来るのかしら?
半妖。
そのキーワードを涼子から投げられた瞬間、安倍 陽子から強烈な怒気と共に殺気が醸し出された。
だが、涼子は涼しい顔で言葉を続ける。
「私達は望まずしてクソ面倒に頭から突っ込む事になる。だから、敢えて酷い言い草で言うんなら……使えない駒は要らない。特に己の利点を活かそうとしない無能なら尚更ね」
涼子から叩きつけられた言葉に安倍 陽子は不満を露わにしながらも、言葉を荒げる事無く返した。
「酷い言い草ね。それに私は人間よ?半妖なんかじゃない」
「そうね。悪かったわ、御免なさい。だけど、使えない駒は要らないって点は変わらない」
謝罪と共にお前は何が出来る?
そう問えば、安倍 陽子は涼子に向けて答える。
「貴女の様な高位の存在にすれば、私はチートがあっても無くても、無能なんでしょうね。でも、貴女の弾除けの盾くらいにはなるんじゃないかしら?」
冷徹にそう言ってのけた安倍 陽子の覚悟に涼子は手を差し伸べ、優しい笑顔と共に受け入れた。
「気に入った。歓迎するわ、陽子」
「ありがとう薬師寺さん」
涼子が仲間として向かえてくれた事に陽子が感謝すれば、涼子は早速と言わんばかりに陽子の解呪に取り掛かる。
陽子の解呪は直ぐに終わった。
こうして、4人は己の身から神を名乗る存在の呪いから解き放たれた。
その後、情報共有をすれば、4人は何も無かったかの様に夜盗の如く静かに部屋へ戻って朝まで眠るのであった。
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