4話 幼馴染との日常
翌日。今日僕にメインの仕事はなにもない。
というのも狩りは当番制である上、他の家なら畑の手入れがあったりするが、うちでは今育てている作物が何もないからである。
こればかりは10歳になったばかりの少年が一人暮らしをしている以上、仕方がないといえるだろう。
とはいえさすがに何もしないわけにはいかないため、一応たまに周りの家の畑の手伝いをしたりはしている。
ただやはりまだ幼いからとそこまで大仕事は与えられない。
ではそんな中で食料はどうしているのかといえば、村のみんなから少しずつ分けてもらっているのが現状だ。
貧村である以上、皆で食料を分け合って生きているが、ただもらっているだけなのはこの村では僕だけである。
10歳という年齢ではあるが、言ってしまえば穀潰しというわけだ。
「まぁだからこそ、狩りと……それ以上に『鍛冶』を使って貢献したいという思いが強いんだけど」
さて、そんな現状穀潰しである僕だが、やはり今日はやることがない。
できればデルフさんの元に行って武器の修繕を試させてほしいところであるが、彼は狩りのメインメンバーであるため、本日も狩りに赴いており、この時間家にはいない。
……うーん、やっぱりどこかの手伝いでもいくかぁ。と、内心そんなことを考えていると、ここで家のドアをノックする音が聞こえてくる。
そしてすぐ「入るわよー」という声と共に、1人の少女が姿を現した。
燃えるような赤髪ツインテールに、勝気そうな目。──そう、僕の幼馴染であるルヴィアちゃんである。
「あれ。どうしたの、ルヴィアちゃん」
「あのね、お母さんが今日は遊んできていいって。だから遊びにきたのよ!」
「ほんと! やったー!」
僕は立ち上がると勢いよくルヴィアちゃんに抱きついた。
前世の記憶がありながらこういう行動に躊躇いがないのは、おそらく意識がはっきりと融合しているためか。
とにかくギュッと抱きしめると、ルヴィアちゃんはキュッと軽く抱きしめ返した後、ハッとしてすぐに僕を突き放した。
「ちょ、ちょっと暑苦しいわよ!」
「あはは。ごめんね」
「まったく」
言ってフンッとそっぽを向くルヴィアちゃんの頬は赤らんでいる。
僕は知っている。彼女のこれが本当の意味の拒絶ではなく、ただの照れ隠しということを。
……ルヴィアちゃんは前世でいうところのツンデレってやつだからね。
僕は内心そう考えながら「今日は何して遊ぼうか?」と問いかける。
するとルヴィアちゃんは指を口元に当て、うーんと悩んだ後、意気揚々と声を上げた。
「冒険者ごっこよ!」
ちなみに冒険者ごっこが何かと言うと、前世で言うところのチャンバラごっこのようなものだ。
「ルヴィアちゃん相変わらず冒険者大好きだね」
「当然よ! 私の目標だもの!」
そうこのルヴィアちゃんであるが、そのお転婆な性格の通りといえばいいか、将来の夢を有名な冒険者としている。
あまり夢のないことを言えば、有名な冒険者になれるかどうかは基本的にスキル次第なところもある。
現在彼女は9歳であり、数ヶ月後に10歳となり、そこでスキルが判明する。
そこで得るスキルが冒険者活動にとって有用なものであればいいのだが、もしそうでなかった場合、彼女は間違いなく冒険者の夢を諦めなくてはならなくなる。
かわいそうではあるが、スキル至上主義なこの世界においては、貧村出身でかつ冒険者に向かないスキル持ちが活躍することなど不可能なのだから仕方がない。
とにかくそんなこともあり、今から有名冒険者を夢見るのはあまり得策とはいえないのだが、それが彼女の定めた目標である以上どうすることもできない。
せいぜい有用なスキルを得られようにと願うばかりである。
……なんてそんなことは今はいいか。
「わかったよ。やろうか冒険者ごっこ」
「負けないわよ!」
「こちらこそ」
こうして僕たちは冒険者ごっこをすることになった。
◇
結論から言うと今日の冒険者ごっこは僕の勝利多数で終わった。
ちなみにこれまでの戦績では身体の小さい僕の方が負け越していたのだが、その結果が逆転したというわけだ。
要因はもちろんわかっている。昨日のレベルアップである。
これにより力の増した僕が、鍔迫り合いになった時に押し負けなくなり、結果勝利を掴んだ形だ。
あとは紛いなりにも大人の精神が混ざり合ったこともあり、思考力が向上したのもあるか。
「うー、ファンやるわね」
地面に尻餅をついたルヴィアちゃんがブーっと唇を尖らせる。
僕は彼女に手を差し伸べながら、言葉を返す。
「いつまでも負けてられないからね」
「……やっぱりレベルアップってすごいわね。だってあんなにあった力の差が一瞬でなくなっちゃうんだもの」
「ルヴィアちゃんも早く10歳になりたい?」
「当然よ! それで戦闘系スキルを手に入れて、狩りチームに混ぜてもらうんだから」
「デルフさんが許可するかね」
「お父さんは……説得するわ!」
「あはは」
なんとも不安そうな表情でそう宣言するルヴィアちゃんに僕は思わず吹き出してしまう。そんな僕に「なに笑ってるのよ!」と彼女が飛びついてきて──こうしてドロドロになりながら、2人で楽しい時間を過ごした。
◇
子供の方が体感時間を長く感じるとはいうが、楽しいこととなればやはりあっという間に時は過ぎてしまい、気がつけば辺りが薄暗くなってきた。
「もうこんな時間だね」
「そうね。んー! 今日も楽しかったわ」
「僕もだよ。いつも遊んでくれてありがとね」
「別にファンのためじゃないんだからね!」
「ふふっ、わかってるよ。それでもありがとね」
僕の声にルヴィアちゃんが「ぶー」と唇を尖らせる。
「さてと、それじゃあそろそろバイバイの時間だね」
「あ、それなんだけど。お母さんが今日夕飯はうちで食べなって言ってたわよ」
「ほんと!?」
「うん!」
「やったー! そうと決まれば──」
「さっそく行きましょ!」
言葉の後、僕はルヴィアちゃんに手を引かれながら、彼女のお家へと走って向かった。
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2025/1/8 本日3話投稿します。
それぞれ18時、21時ごろに投稿されます。よろしくお願いします!
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