ハリボテの星

秦野まお

プロローグ

 歓声が、聞こえる。


 心臓が跳ねている。チラリと横目で、並び立っているメンバーを見る。緊張しているメンバーもいれば、していない人もいる。けれど、今日はみんないつもよりも緊張しているようだった。当たり前かもしれない。大きな会場だ。今までで一番大きな。ここまで来るのには時間がかかった。


 だからこそ、今日は楽しもう。


 さっき、円陣を組んだときにリーダーに懸けられた言葉だ。最年長の彼は、いつも落ち着いている。

 僕の心臓は、今日も恐ろしいほどに跳ねている。

 センターの座を得て幾年か。それでもいつだって、ライブ前はドキドキする。星哉、と僕の名前が書かれたうちわや、顔の載ったグッズを持った子がたくさんいる、からじゃない。

 

 僕の心を跳ねさせるのは、いつだってただ一人。

 陽太はるただけだ。


 どれだけ大きな会場でも、絶対に見つけてみせる。どれだけファンの子が増えても、真摯ではないと怒られても、それでも僕はいつだって、大勢の前でたった一人、陽太のためだけに、笑顔と愛を振りまく。

 アイドルらしからぬ姿だって、ファンの子が知れば怒るかもしれない。僕だってそう思う。いつか憧れたアイドルとは似ても似つかない、ただの偽物だ。

 それでも。


 幕が上がる。歓声が聞こえる。ペンライトの海が揺らめく。歌が、始まる。


「みんな、今日は来てくれてありがとう!」


 僕は今日も、たった一人の為に、ハリボテの星になる。




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