第64話 3歳の桜とにんじんさん
「ママーっ。みてみて」
「桜。どうしたの?」
3歳になった桜は少しずつおしゃべりをするようになった。
「はい。どーじょ」
「わあ。人参さん? メビウスと一緒に土から取ったの?」
「うんっ。メビウスとお水でキレイキレイしたの」
桜が「僕のこと褒めて!」というように、僕を見上げてくる。ぽんぽん、と優しくその頭を撫でた。
「人参さんを使って、夜は人参ゼリーを作ろっか」
「やったあ。人参ゼリー! 人参ゼリー!」
ぴょんぴょんとその場でジャンプして喜ぶ桜のことを見て、僕はほっと安心する。ついこないだまでミルクを飲んでいたのに、桜はあっというまに3歳になっていた。
「あっ」
城から現れたジスに桜が駆け寄る。
「父上っ」
「うん。桜」
ぎゅっと、ジスの膝の上に抱きつく。ジスが桜のおでこを愛おしそうに撫でる。こんな風景が日常になっていた。
「父上ー! 今日は人参ゼリーだよ! ママ……じゃなくて、母上が作ってくれるって」
ジスは桜に対して自分のことを父上と呼ばせている。そして、僕のことは母上と呼ばせている。しかし、ママという言葉に慣れているからか桜は僕のことをママと呼ぶことが多く、なかなか母上という呼び方に慣れない。実際のところ、僕も母上と呼ばれるのには慣れていない。
夕飯、人参ゼリーを頬張る桜は満面の笑みを浮かべてご機嫌な様子だ。
「おいしいっ。ママ、母上だいすきっ」
「ありがとう。僕も桜のことだいすきだよ」
お行儀よく夕飯を終えた桜と一緒に部屋に戻る。一緒にお風呂に入り、髪の毛をドライヤーで乾かす。うとうとおねむの桜は、ドライヤーをかけている途中で眠りについてしまった。起こさないようにベッドに連れていく。羽毛の布団をかけたところで、僕もパジャマに着替えた。
すやすやと眠る桜を見て考えてしまうのは、シュカ王子のこと。桜の容貌はすっかりシュカ王子に似てきている。それを見るのが時折辛いこともあるが、自分の子どもだからどんなに胸が苦しくても桜の成長を見守りたい。
ーーシュカ王子は今、どんなふうに生きてるんだろうか。
桜の寝顔を瞳に入れて眠りにつく。
僕の選んだ道は正しかったのだと証明したい一心で、ジスとともに桜の教育に励む僕は、本当に優しい母親なのだろうか。
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