第43話 帰国後の不安
「阿月様! おかえりなさいでち」
「きなこくんっ」
僕はきなこくんの胸元に飛びついた。チュロッキー王国で獣人のアルファに襲われそうになって以来、ずっときなこくんに慰めてもらいたかったのだ。
「シュカ王子から聞きまちた。阿月様に酷いことをする悪いアルファは、ベータの僕がぶっ飛ばしてやるでち!」
ぶんぶん、と右アッパーと左フックの動きをしながらきなこくんが怒っている。
君は怒っててもかわいいよなあ……。
一生懸命シャドーボクシングしてる姿を見ると、なんだか沈んだ心が浄化されるようだった。
チュロッキー王国への遠征後、今回のことを重く受け止めたシュカ王子は僕を遠征に連れていくことを禁じた。やはり、オメガの発情期を完璧に予測することは難しく、僕の今回の発情期も予定より5日早く来てしまったことで、獣人のアルファに襲われた。そのため、チュロッキー王国から帰国して2週間が経つ僕は、また以前と同じようにきなこくんから熱血指導を受けている。
シュカ王子は、先週から隣国の平野にて獅子狩りに出向いている。獅子を狩る、というのは名目なだけで実際は獅子狩りに集まる他国の王族の様子を目で見ておく視察のようなものらしい。
運命の番の印を付けたものの、王子とは一切会ってもいないし、話す暇もない。皇子の公務はますます忙しくなる一方で、僕のほうは余った時間をどう使えばいいのかわからない、という状況が続いていた。
……可能な限り、早くシュカ王子のお世継ぎを産まないと、ジスに会える日がどんどん遅くなってしまう。
今朝、身体が熱っぽくて怠いため、妊娠検査薬を使ってみたが陰性だった。
まあ、そんな簡単に妊娠するわけないか……。
その時の僕に訪れたのは、安堵と躊躇と、不安。ジスを愛する気持ちは変わらない。けれど、実際に行為をする相手はシュカ王子だ。ジスの姿を重ねるなと言うほうが難しい。
……ジスは元気でいるだろうか。メビウスもライアも元気で暮らしているだろうか。
……ああ、早くジスに会いたい。その大きな手で頭を撫でて欲しい。その逞しい腕に僕を抱いてほしい。
僕のこんな心中を知らない王子には、辛い未来が待っているだろう。産まれた子どもを1歳の誕生日に僕が奪うのだ。その時は軽蔑されるだろうか、酷く叱責されるだろうか。
僕は曇り空のように晴れない心で、ベッドに沈みこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます