第31話

「オメガの蜜は甘いな。こんなに甘いのは初めてだ」


 ぺろ、と僕の白蜜を舐めてから、ぷにと僕の頬をつまむ。力加減をしていないから、かなり痛い。


「もう少し、肉を付けたほうがいい。食事は1日に3食与えるように配膳の者に伝えておく」


 1日3食。よかった……。


 内心の安堵が洩れていたのか、シュカ王子がつんつんと僕のおでこをつついてくる。


「不便があればすぐに見張りの衛兵に伝えろと言っただろうが」


 うん。そうなんだけど……。


「奴隷の身分なんでしょ。僕は」


 小屋の見張りの衛兵2人が話しているのを盗み聞きしてしまったのだ。僕は冥界から天上の国にやってきた直後に、ゴブリンによって捕らえられ、奴隷市場に売られていた奴隷で、それをシュカ王子が買ったのだと。奴隷の身分の自分が、何かをお願いするのは、と気が引けてしまったのだ。


「もう奴隷じゃない。今日、お前の戸籍を自由市民に変更してきた」


 自由市民……?


「もうお前は奴隷ではないということだ。今後は俺の正式な従者として働いてもらう。だからこの小屋とはもうおさらばだ。行くぞ」


「ちょ、ちょっと待って」


 僕の静止の声も聞かずに、ずんずんと小屋を出て僕の腕を引きずるシュカ王子。細身の身体からは想像できないほどの力強さだ。身につけた甲冑が、ガシャンガシャンと揺れている。





 大きな迷路のような王宮内を歩き回り、たどり着いたのはシュカ王子の部屋の隣の部屋だと説明される。


「じゃあな。また顔を見せる。それまではその部屋で休むがいい。変態オメガくん」


 最後にさらりと皮肉を言われ、悶々としてしまう。


 僕は変態オメガじゃないもん。普通の男の子だもん……。


 部屋に入ると、テルー城のときの部屋の3倍近くの広さがある。天蓋付きのベッドから机、椅子まで全て黄金色で統一されている。


 



 冥界から持ってきた僕のリュックはゴブリンに盗まれてしまったらしいが、シュカ王子が取り返してくれたのだと衛兵に言われた。幸い、ゴブリンにネックレスは奪われなかったらしい。


 そのリュックを抱きしめる。ぐう、とお腹が鳴ったので、ライアが作ってくれたお弁当を食べることにした。ライアは僕の好物を聞いてくれて、冥界では手に入れるのが難しい食料もゲットしてくれてお弁当を作ってくれた。


 もっ、もっ、もっ、と唐揚げを頬張る。


 ジスの夢を叶えるために、僕はここに来た。シュカ王子とは、運命の番だということもわかったし、あとはもう抱かれるだけ……。僕が妊娠するまで、抱かれるだけなのだから……。


 悲観的な先行きを心配していたら、途端に心細くなる。ジスがくれたネックレスに手を伸ばして、強く握りしめた。


 どうかお願い。僕がジスの夢を叶えられるように……ジスは冥界で見守っていて。

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