第二章 夜明け

 そうこうするうちに長野はソファでいびきを立てながらぐっすり寝ていた。一方の宮城は目をしばたたきながらもテレビで何本目かの映画を観ていた。

 二階からワイヤレスイヤホンを付けた香川が降りてきた。

「あれ、まだ寝てなかったの?」

 宮城が振り返って呼びかける。香川は片方のイヤホンを外して答えた。

「はい?」

「まだ寝てなかったの?」

「もう朝ですよ」

 宮城は窓の外を見た。確かに明るくなってきたがまだ薄暗い。雪はすでに止んでいた。

「早すぎないか」

「もう七時ですよ。早すぎることはないでしょう」

 宮城がスマートフォンを充電ケーブルから引っこ抜いてきて画面を見ると、確かに時刻は七時十分だった。

「えらい早起きなんだな。それにしても、七時にしてはなんでこんなに暗いんだ?」

「ここ、山の北側にあるんですよね。影になっちゃって日の光が入りにくいんだと思います」

「へぇ。よくわかるね」

「地図を見て運転してきたのは自分ですから」

 香川は謙遜して言う。

 すると、ソファで寝込んでいた長野が物音に気づいて起き出した。

「起きてるぞ」

「寝てました」

 宮城が即座に否定する。キッチンに飲み物を取りに行っていた香川が一枚の紙を持ってリビングにやってきた。

「長野さん、これサインしといた方が良いやつです」

 それは通常のホテルならば宿泊者名簿に書くような項目を記入しなければいけない用紙だった。その書類にはすでにこの別荘のオーナーのサインが書かれていた。代表者の長野は二日酔いの頭を抱えながら書き終えると、紙を香川に手渡した。香川はそれを持って一旦キッチンに戻ると、今度は目玉焼きを作り始めた。

 各々トイレなどを済ませると、三人はもう一度リビングに集まって香川の作った目玉焼きと事前に買っておいたパンをつまみ始めた。

「千葉さんは寝てるんでしょうか」

 自分の朝食を食べ終えた香川が言い出した。

「そりゃそうだろう。あんだけ飲んでたんだから」

 長野が言う。それでも香川は「この後の予定もあるので起こしてきます」と言うと、二階に上がっていった。

 数分して戻ってきた香川は不思議がっている顔をしていた。

「どうした?」

 長野が訊く。

「鍵が閉まってて、いくら呼びかけても返事がありませんでした」

「そんなもんだろ」

 長野は平然としている。

「いや、でも」

「心配なのか」

 宮城が顔を上げて言った。

「心配しすぎですかね?」

「そうだね。でも、まぁ次の予定もあるし、起こしに行くか」

 そう言うと宮城は腰を上げた。結局、様子が気になった長野も付いてくることになった。

 しかし、三人が千葉の部屋の扉の前に立って強く叩いたり呼びかけてみても中から返事はない。

「ちょっと外から覗けるだけ覗いてみてくれる?」

 宮城が香川に頼んだ。香川は階段を駆け降り、外に出ていく。

 一分後、宮城の携帯に電話がかかってきた。発信元は香川だった。

「どうした?」

 宮城が訊くと、香川は裏返った声で叫んだ。

「なんか窓が割れてるみたいです。良くないことが起きたような気がします」

 千葉の部屋の前にいた宮城と長野は顔を見合わせた。窓ガラスが割れているとなると、これは相応の事態が起きたことを意味する。外部から誰かが入ってきたか、あるいは内部の千葉が出ていったか。いずれにしても部屋のドアを開けるのは緊急の重要事項となった。

 二人は揃ってドアに体当たりを繰り返した。二十歳の男二人の数回に渡る衝撃のおかげで、まもなくドアは開いた。部屋の内側からは冷たい空気が吹き込んできた。

 中には、ドアの方向に頭を向けて床に仰向けに寝ている千葉がいた。彼がただ酔って変なところで寝てしまったわけではないのは誰の目にも明らかだった。

 千葉の額には黒いアーチェリーの矢が刺さり、どろりとした赤黒い液体が流れ出していた。

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