第9話 予感

「見て見て、できたよ!」


「おやおや、すごいねえ。飲み込みが早いねえ」


 昼下がり、私はナタリーお婆さんのところで魔術を教わっていた。周りには私のような生徒が4人いる。ウェーブがかった金髪を揺らしてはしゃいでいるのはこの中では最年少のユカだ。自分で作った光の玉を興味深そうに目をキラキラさせたいる。


 私も小さな水球を創り出して操っているが心ここに在らずと言った状態だ。


 あの日、お兄ちゃんは帰ってこなかった。そして今日でもう3日目だ。何回かお兄ちゃんが出て行ったことはあったけど大体は1日したら帰ってきた。


 いったいどこにいるのだろうか?お父さんは腹が減ったら帰ってくると言っていたけどなかなか帰ってこないことに心配してるしお母さんもそわそわしている。


「あ、、、」


 手の上にあった小さな水球は霧散するように消えてしまった。いけない、集中しなければいけないのに。


「おや、珍しいねえ。ルインが失敗するなんて」


「ごめんなさい、、、」


 どうしても気が散って集中できない。このままほっといたら良くないことになる。そんな気がしてならないのだ。


「ルイン、何か悩み?」


 少し低くて落ち着くような声。この中では最年長でみんなのまとめ役でもあるモニカだ。


 口数が多い方じゃないけど頼りになってここにいる私たちに限らずみんな慕われている。お兄ちゃんとも仲が良くてお兄ちゃんはそれをよく友人に揶揄われたりしている。


「ううん、別にそういうわけじゃないけど、、、」


 肩口まである白髪を揺らして少し心配そうに私を見て来る。


「もしかしてお兄さんのこと?」


 びくり、ピンポイントで当てられたことに思わずびくりとしてしまった。モニカは時々すごく鋭い。まるで全て見透かされているような気分になることがある。


「最近姿見てないと思ったけど、、、その様子、何あったの?」


「うん、実は———————」


 結局お兄ちゃんとお父さんが喧嘩になったこと、そしてそれからもう3日目も帰ってないことも含めて全て話した。


「ルインは悪くないよ!」


「うん。お父さんが怒るのもわかる。さすがに家族を殴ったりはしないもん」


「、、、ありがとう。でもその原因は私だから、、、」


 みんなが味方してくれたという事実に少し安心する。


「なるほどね、、、わかった。私も協力する。もしかしたら大変なことになってしまう可能性もあるから、、、」


 モニカはそう言ってくれた。申し訳なさもあったけど少し安堵もしていた。きっと今回の原因である私やお父さんが何かしても拗れちゃうかもしれない。でもモニカならお兄ちゃんのこともなんとかできるかも知れない。 


 その後は少し心も晴れて集中できるようになった。


 夕食、席がひとつ空いていて少し食卓は寂しい。お父さんもお母さんも口数が少なくてピリピリとした空気感が漂っている。


 トントン、扉を叩く音が聞こえた。


 

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