1話『学生の桜庭 悠人/ダンジョンと隣合わせの日常』
隣のクラスの生徒が、死んだ。
担任の先生から告げられたその言葉は、僕の心に少なからず影を落としていた。
以前から関わりがあった…なんてことはなく、むしろどちらかと言えば殆ど話したことも無いような生徒ではあったが、まあそれなりに実力はあったようで、各地のダンジョンで名前を見ることも少なくなかったのを覚えている。
(…そう言えば、アキラも前はあそこのパーティーメンバーだったっけ…最近抜けたって言ってたけど、大丈夫かな…)
「ちょっと~、悠人?何ぼんやりして?考え事?」
「ああ、ごめんごめん、ちょっとね」
そうやって考え事をしていると、隣の席の女の子が耳をぴこぴこと動かしながら声をかけてくる。
彼女は猫又 恵美、僕の幼馴染であり、猫の獣人と人間のハーフの女の子だ。
彼女とは昔からの付き合いで、僕が悩んでいる素振りを見せるとすぐにこうやって声をかけてくれるのだ。
そして、僕達のパーティーメンバーの一人でもある。
「…あ!もしかして…今朝の事、気にしてたりするんでしょ」
「そ、それは…」
「あんまり気にしない方が良いよ、違法ダンジョンに入った方が悪いんだからさ」
「それは…そうかもだけどさ…」
「なんだ、悠人、もしかして落ち込んでんのか?ま、同じ学校の生徒が居なくなったんだからセンチになる気持ちも分からなくは無いけどよ」
「レオ…」
僕達の話に割り込んでくる人がもう一人。
ドワーフのレオ、もう一人のパーティーメンバーだ。
彼とはこの学校に入ってからの付き合いだが、彼にはよく助けられている。
「ま、けど、違法ダンジョンなんかに足踏み入れたアイツらが悪いわな、あんなとこ死にに行くようなもんだ」
「それは…頭では分かってんだけどさ…」
そう、僕達が安全にダンジョンに潜れるのは、政府に認可されていて、安全保障がされているからだ。
けど、そうじゃないダンジョン…生まれたばかりのダンジョンも少なくない数存在する。
そうしたダンジョンは通常はすぐに政府に届け出がされ、WDMAの所員によって帰還用と生命維持用の魔術が張られるんだけど…偶にそうじゃないダンジョンも存在する。
それが所謂『違法ダンジョン』。
命の保証が無い代わりにリターンも大きいとか、あまり良くない人の溜まり場になってるとか、法の及ばない完全治外法権になってるとか色々言われてるけど…まあ、普通に生きていく分には行く必要は無い場所だ。
だから今回起こったことだって違法ダンジョンに行ったほうが悪い。
そう頭では分かっているんだけども…
「頭では理解してても納得はしてねえってか?」
「あー…うん、まあそんな感じかな…」
「ふむ、そうか…あ、でももしかするとこりゃアレだな、俺らと悠人とでは『死』が身近かどうかが違うってのはあるかもしれねえな」
「あー…成程…?」
「少なくとも俺なんかはこっちに来る前は近くの誰かが死ぬってことは珍しくねえ事だったからよ、そういうのがあってもあんま動揺はしなくなっちまったな。けどよ、それはあくまで俺の世界の尺度であって、この世界でも同じ尺度で図るのは良くねえよな」
「あー、うん、ごめん、何か気を使わせちゃって」
「何、良いってことよ。俺だって安全に暮らせるほうが良いに決まってらぁ」
彼の言うことは最もだ。
レオの故郷は昔から魔物との争いが絶えず、それでも頑張ってこの高校に通わせてくれた…なんてことを前に話してくれていた事を思い出す。
けど、そうか、この世界の尺度…
(だったら、そうか、やるべきことは一つだ)
「あ、えっと…もし悠人が思うところがあるなら、今日の放課後はダンジョンじゃなくてカラオケとか行ったりとかさ…」
「ん、ありがと、恵美。けどちょっとやりたいことがあるんだ」
「やりたいこと…?」
――――――――――――――――――――
そうして迎えた放課後。
僕達はあの違法ダンジョンの前にやってきていた。
…入口に、花を添える為に。
「…やりたいことって、そういう事だったのね。言ってくれれば良いのに」
「いや、その…直接関わりがあったわけじゃないし…何より、これは僕の心の問題だからさ」
「ま、俺は良いと思うぜ、これがこの国の尺度ってことだろ?それに…」
「それに?」
「死者に祈りを捧げるのは、どの世界でも一緒ってことだ」
見れば、僕達と同じように祈りを捧げに来た人や、献花をしに来た人がちらほらと、少なくない数居るのが見える。
彼らの友人だったであろう、あまりガラの良くない人達や、冒険者の方々、その顔触れは様々だった。
そして、その中にはよく見知った顔も居るのだった。
「…あ、悠人」
「アキラ…」
彼らの元パーティーメンバーであり、僕の友人のアキラだ。
「その…災難だったな」
「ああ、いや、僕が直接被害を受けたわけじゃないし…大丈夫だよ。でも…」
彼はそう言うと、少し表情を暗くする。
「…もしかしたら、止めれたんじゃないかなって、思ったりは…する、かな」
「…それは…」
「あまり思い悩み過ぎるのはよくありませんよ」
僕達の会話に割って入ってきたのは、担任のバルザー先生だった。
「せ、先生!?」
「やあ、こんばんは、2人共」
「あ、えっと、その…」
「アキラ君、彼らを止められなかったのは私も同じです」
「先生…」
「もし悩むことがあるなら、先生がいつでも話を聞きますよ」
「先生…ありがとうございます」
「ほら~!それに私も居るじゃ~ん?」
「わわっ!?」
そんな話をしていると、横からエルフの女の子がアキラに抱きつく。
恐らく今の彼のパーティーメンバーなのだろう…彼らはそのまま2人で話を続けていた。
「…ま、支える人が側に居るなら彼は大丈夫でしょう」
「そうですね…そういえば、先生はどうしてここに?」
「大切な生徒が亡くなったんです、こうして花の一つも添えに来ますよ」
「…そう、ですよね」
「さ、今日はもう遅い。ここはあまり治安もよくありません、急いで帰るように」
「は、はい!」
そうして、僕達は帰路についたのだった。
――――――――――――――――――――
そんな事があってから早数日。
僕達はまたいつものようにダンジョンへと繰り出していた。
当然、思うところが無い訳ではない。
けれど、結局のところ…これが僕らの日常で、生きている限り日常は続いていくものなのだから。
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