ダンジョンライフ ~現代ダンジョン出現における文明の発展と弊害~

@yumebon

プロローグ『よくあるダンジョンがある現代の話です』

この世界には、ダンジョンがある。

各地に突如として現れたそれは、いつしか人々の生活に無くてはならないものとして受け入れられていった。

これは、皆のよく知る時代から、年号がいくつか変化したちょっと未来の物語。


――――――――――――――――――――


「それで、今日の放課後に行くダンジョンなんだけど…」

「それならいつもの渋谷第二ダンジョンでいいんじゃねえか?」

「悪くないけど、たまには少し冒険して新宿第三ダンジョンまで足を伸ばすってのはどう?」


人間と、ドワーフと、それから獣人。

教室の一角で様々な種族が語り合うこんな光景も、この時代ではありふれた光景だ。

そしてこの時代、世界に出現したダンジョンは今や学生達がスナック感覚で放課後に潜るような場所にまでなっていた。


「新宿第三ダンジョンかぁ…確かに、あそこは比較的新しめでまだ挑戦者も少なかったよね、腕試しにはもってこいかも」

「でしょ?それに出来たばっかりってことはさ、露店も沢山出店されてて賑やかだと思うのよね!」

「お前はいつもそればっかりじゃねえか。ま、確かに悪くねえけどよ」

「ま、けどこれで決まりだね、今日挑むダンジョンは新宿第三ダンジョンだ」

「お前ら、そろそろ席着け~、午後の授業始めんぞ~」

「っと、それじゃあ、詳しい話は後でね」


眼鏡をかけたオークの教師が教室にやってきて、生徒に着席を促す。

今日の授業はダンジョン学、ダンジョンに潜るための知識を学ぶための授業だ。

生徒たちは時にダンジョンに想いを馳せ、時に眠気に耐えながらも授業を受けることだろう。

そうしていつもと変わらない日常が過ぎ、放課後がやってくる。

先ほど話をしていた彼らも、準備を整えるとダンジョンへと向かう事だろう。


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『私達~、ELF49で~す!』

「おい見ろよ、ELF49が200枚目のアルバムをリリースするってよ」

「はぁ~、やっぱエルフのアイドルは良いわよね~、いつまでも見た目が変わらなくってさぁ~」

「うーん、でもやっぱり長くやってるとさ、ちょっと楽曲もマンネリになってこない?」

「何言ってるのよ!いい?彼女達の歌には家族数世代に渡って愛されるようにという思いが…」

「あーあーまーた始まったよ…」


街頭のディスプレイから流れるエルフのアイドルグループの番宣を聞き、他愛のない話をしながら歩く。

こんな光景も、この時代では日常の風景だ。


「特に2648曲目の『僕ら、明日に向かう光』が…って、ちょっと聴いてる?」

「聴いてる聴いてるって。あ、そろそろ見えてきたよ」

「おぉ~、賑わってんじゃねえか」


目的地である新宿第三ダンジョンでは、既に数多くの露店が開かれており、これからダンジョンに挑む冒険者から、夕飯の食材を買いに来た主婦まで、様々な人達が集まっていた。


『コカトリス肉、今ならタイムセールで半額!半額です!』

『素早さの護符、素早さの護符はいらんかね~』

『傷口に塗ればどんな深手もあっという間に元通り!ガマフロッグの油だよ!何ならこの場で実演販売してみせましょう!』

『ダンジョンに潜るなら必須!ダンジョン保険はダンジョン生命へ!』


「やっぱりダンジョンの入口っていつ来ても賑やかよね~」

「まあ、人も集まるしね。ところで2人は今回は保険はどうする?」

「あー、そうだなあ…やっぱり最低限の初期装備保険は入っとくべきかぁ?」

「けど新しめのダンジョンでしょ?どんなアイテムが拾えるかもわからないし、ちょっと高いけどダンジョンドロップ保険まで入っておくべきじゃない?」

「そうだねえ…確かにダンジョン内は命の危険は無いけど、やられて折角手に入れた物が持ち帰れないのは痛いもんね、僕もドロップ保険にしておくよ」

「あぁ~、うーん、確かになぁ…」


この時代、一般的なダンジョンに潜る際に命を落とす可能性はほぼ0と言えるほどにまでなっていた。

これは各地のダンジョンを管理するWDMA(世界ダンジョン運営協会-World Dungeon Management Association-)の努力の賜物であり、彼らの働きのお陰でダンジョン社会が築かれていると言っても過言ではないだろう。


「よし、それじゃあ…皆、そろそろ行こうか」

「よーし!私が一番沢山ドロップを手に入れちゃうんだから!」

「なら俺はまだ未発見の宝箱を見つけてやるぜ!」

「よし、出発だ!」


こうして、彼らはダンジョンの中へと潜っていった。

こんな光景が、この時代ではよく見かける光景なのだ。


――――――――――――――――――――


「いやーしかし、昨日のダンジョン、凄かったな!」

「ね!まさかあんなにドロップ品が拾えちゃうなんてね!ちょっとした臨時収入になっちゃった!何買おうかな~」

「おいおい…すぐに使い切ったりするなよ?」

「そ、そんな事しないって!」


さて、彼らがダンジョンに潜り、それなりの成果を得た翌日のこと。

報酬を何に使おうか?次に潜るのはどのダンジョンにしようか?と、他愛もない話をしていると、神妙な面持ちをした魔族の担任が教室へとやってくる。


「えー、皆、静かに。今日は授業を始める前に大事な話があるので心して聞くように」

「え、何だろう…?」


生徒が静かになったのを確認した後、担任の教師はゆっくりと口を開く。


「…既に知っている人も居るかもしれませんが、昨日、3組の矢島君と奥山さんが未認可のダンジョンに潜り命を落としました」

「…えっ」

「いつも授業で教えている通り、未認可のダンジョンはとても危険です、皆は違法ダンジョンには絶対に入らないように、いいですね?」


教師の言葉に、教室内には神妙な空気が流れ始める。

ダンジョン…それは、光もあれば、当然闇もある存在。

ダンジョン、嗚呼ダンジョン。

これは、そんなダンジョンが存在する世界に生きる人々の物語。

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