僕はモブだけど、他人の感情が丸見えなキャラ。 ~ヒロインたちが心の中で想ってるのは、あなたかもしれない~

シンタクヤ

第1話 僕はモブだけど、他人の感情が丸見えなキャラ。

『ただのモブ人間だけど、他人の感情が見えるキャラ』


僕が自己紹介しろと言われたら、その一言で事足りる。

具体的に言うと、人の感情を『文字』として視覚化し、形として見ることができる。だけど、この能力をひけらかしても頭がおかしいと思われるだけなので、他人に言ったことがないし言うつもりもない。僕は、一生誰かのモブのような人生を続けることだろう。まあ、別に全然構わないけど。


ざっと自己紹介が終わったところで、その『感情の視覚化』とは一体どんな感じなのかを説明してみる。

例えば、ほら。今、僕の前に座ってる人は『飽』っていう文字が浮かんでる。

隣を向いたら『飽』、後ろを覗いても『飽』、周りを見渡しても……『飽』。

今は授業中だ。きっと僕にも文字が浮かんでたら、『飽』の文字が大量に沸いてるはずだ。


「はい、ではこの問題。狭間くん。答えなさい」


「えっ……は、はい」


見るからに戸惑いつつも、狭間くんが立つ。頭上には大量の『?』が浮かんでいるのが見える。分かる。分かるよ、狭間くん。この問題さっぱり分からんよね、うん。




――――――――――




キーンコーンカーンコーンと、チャイムが学校中に鳴り響く。

がたがたと席を立つクラスメイトたち。

僕はどうするかというと、特に何もやることがないし、誰か会う人もいないけど、とりあえず席を立ってどこかふらふらしてから教室に戻る。いや別に友達いるアピールとかじゃなくて暇つぶしだから。本当に。いや、マジで。


どこか人気の少ない……そうだな、屋上へいこう。あそこなら景色もいいし、自販機の激甘コーヒーも格別だろう。よし。


そう思い立ち、イスを引いたタイミングで、


ガララッ……



「おはようございます……」



教室の扉が開き、シーンと教室が静寂に包まれる。いや、真っ昼間だからね?あはは、というツッコミを言葉に出す人はいない。心の中でさえ、ツッコんだのはぼくだけだろう。

大遅刻をかまし、入ってきたのは、鳴名木 咲恋乃 (なるなき えこの)。金髪のウェーブがかったロングヘア、見た目はギャル。顔はかわいいと男女ともに話題にはなっていた。が、見た目がチャラい、怖いと周りから敬遠されている。僕も怖い。


「おはよう、咲恋乃ちゃん」『喜』


にこっと、パーフェクトスマイルを鳴名木さんにキメるのは……三ツ鳥 照花 (みつどり てるか)。オレンジ髪でボブへアー、告白して撃沈している男子が殺到しているという容姿。彼女はこの大部高校の人気者。男女問わず誰からも好かれている人。まるで太陽みたいな人だと、そう言い表す人もいる。けど、どうしてだか僕は彼女のことは苦手だ。

『喜』ということは、三ツ鳥さんの態度と感情は合致している。はちきれんばかりの笑顔を、彼女は浮かべているからだ。裏がない性格とは、彼女のような人のことをいうのだろう。


「おはよう……」『嬉』


『嬉』ということは、嬉しいようだ。

当たりまえだが、意外だ……。鳴名木さんは意外と良い人なのかもしれない。考えを改めよう。


というか、なんか鳴名木さんこっちに向かってきてるんだけど……、え……?




「……奈入馬(ないるば)君。ちょっといい?」



「?!?!?!?!?!?!」



そんな、良い人疑惑の鳴名木さんに呼び出された僕は、奈入馬 生希 (ないるば なき)。なぜ、僕みたいなしがないモブをわざわざ呼び出したのか、そんなの想像に難くない。よし、訂正……



鳴名木さん、やっぱ怖い。『泣』



―――――――――――――――



「ふっ……分かったよ、鳴名木さん」


「え……?」


僕たちは今、人気の少ない、というか誰一人いない屋上にいる。こんなところにモブ野郎を呼び出してすることなんてただ一つ。




ズサあああああああああああああああっ





「これでぇええっ!!!!!いいかなぁああああああっ!?!?!?!?!??!」



「……!?」『驚』




ふっ、このパーフェクトスライディング土下座をみて声を発せる人間なんて、そういないだろう。見たか。これが奈入馬式護身術ッ!!!!

これで、『カツアゲ』はできまい。

こんな所にモブを呼び出してすることは、カツアゲ以外にそうそうないだろう……。いや、ないねッ!!!ない!!!!しかしッ!!!!!残念ッッッ!!!!!こっちはッ!!!!!!一銭もッ!!!ないッ!!!!!嘘ですッ!!!!!!




「おー……綺麗……。なにしてるの?奈入馬君」



「?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」



あんれえ?!なんで三ツ鳥さんやってきたの?!二人分は無いって!!!!



「いや……、なんか急に奈入馬君が格好悪いことしだして……」『笑』


なんだ格好悪いって、おいおい。格好いいだろうスライディング土下座。そうであってくれ。あと、鳴名木さん無表情で笑うのやめて。




どうやら、僕のパーフェクトスライディング土下座は不発だったらしいし、『カツアゲ』は勘違いだったらしい殺してくれ。



――――――――



「奈入馬君が格好悪いことしてるのはどうでもいいとして……咲恋乃ちゃん」


どうでもいいってなんだ『太陽』、おい。


「大事なことって、何かあったの?」


三ツ鳥さんが鳴名木さんに、この場所に呼び出した理由を訪ねる。僕はともかく三ツ鳥さんまで呼び出したのだから、その理由もよっぽどのものなのだろう。



「……いや……あの……」『照』




ん……?どうした鳴名木さん。『照』なんか浮かべて。しかもその『照』、真っ赤だぞ?


「言いにくいことなのかな……?本当にごめん、奈入馬君。どこか遠くへ気配ごと消えててもらっても大丈夫かな。ごめんね」


ほう。なかなか切れ味の良いナイフをお持ちじゃないか三ツ鳥さん。今までそのナイフで何人真っ二つにしてきたか知りたいよ。

僕は「分かったよ」と言って、その場を立ち去ろうと、



「ま……、まって!奈入馬君……!」



「ど、どうしたの鳴名木さん」


僕を必死に呼び止めた声の方向に、振り返る。


「あ、あの……実は……」


「「うん」」


不服だが、僕は三ツ鳥さんとハモって応える。


「実は……」


「「うん」」


「2人に……その……」



「「うん」」


意を決したようで鳴名木さんは、続きの言葉を口にする。





「と、友達になって欲しくて………」





「「…………………………………………………………………え?どゆこと?」」





そう言って、2人はハモりまくったのだった。




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