第2話 エレメンタルカートリッジ
そんなこと関係ない? 男の言い分に違和感を感じる。
まるで使用許可がなくても問題ないかのような……。
エレメンタルカートリッジの許可はそう簡単に出る物ではない。それに、喧嘩程度で取り出したとわかれば、何年牢屋の中に入るかもわからない代物……。
もしかして!?
「もしかしてこのエレメンタルカートリッジは違法品なのか? だったら重罪だぞ!?」
男もまずいと思ったのか、それ以上は黙ってしまった。
ますます違法品である可能性が上がった。
自分の頭を抱えたい気分になる。
エレメンタルカートリッジは、使い方によっては自分達が住んでいるスペースコロニーの外壁を一部吹き飛ばせる危険物。軍関係者か、正規のギルド員でなければ基本的には所持できない。
「軍の流出品か?」
自分が尋ねるが、男は黙り込んだまま。
エレメンタルカートリッジは消耗品であるため、管理が完全でないこともあり軍から違法品が流出し出回ることがある。
意外なことに自分が所属しているギルドから違法品が国内で出回ることはあまりない。エレメンタル王国では違法品だが、他国での売却なら規制がないためだ。宇宙船乗りのギルド員は仕事で行った先の国外で売るのだ。
エレメンタル鉱石は他国でも少量生産されており、個人が売る程度なら問題はない。
警察には連絡をしたが、エレメンタルカートリッジは警察では処理できないことを思い出す。男を取り押さえながら軍に連絡をしたところ、すぐにMPを派遣するのでエレメンタルカートリッジになるべく触らず、その場で待つように指示される。
連絡が終わったところでアクーラさんが無事か確認する。
「アクーラさん、怪我はない?」
「う、うん」
「それは良かった」
自分から見てもアクーラさんが怪我を負っているようには見えない。
しかし、不安は覚えているようでアクーラさんと喋るようにしていると、警察の車両が近づいてくるのが見えた。
「アクーラさん、警察が来たみたいだ」
「うん」
アクーラさんは安堵した表情を浮かべた。
警察は自分が男を取り押さえているからか、警戒しながら声をかけてきた。
「女性が絡まれていると通報があってきました。お話聞かせてもらえますか?」
「おい、こいつからオレを解放させろ! こいつが暴力を振るってきたんだ!」
男が騒ぐが自分は冷静に対処する。
「通報したのは自分です。男性がエレメンタルカートリッジ付きのナイフデバイスを出してきたため、取り押さえました。軍に連絡してMPを派遣してもらっています。軍からは、来るまでデバイスに触らないようにとの命令を受けました」
「嘘だ! こいつが持ってたんだ!」
蹴って吹き飛ばしたナイフデバイスの位置を視線で伝える。警察は意味を理解してくれたようで、ナイフデバイスがある位置へと顔を動かした。
警察は女性が絡まれている話から、エレメンタルカートリッジが出てくるのは予想外すぎたのか絶句した戸惑っている。
「本物のエレメンタルカートリッジ!? こ、こちらでも軍に連絡を入れて確認します! そのままで!」
二人で来ていた警察の一人が軍に連絡を入れるのが自分にも聞こえる。
警察が連絡を入れている間も、自分が取り押さえている男はいまだに騒ぎ続けている。警察がMP派遣の確認が取れたと言うと、男は騒ぐのをやめて黙り込む。
「三区でエレメンタルカートリッジとは、五区でならたまに喧嘩で出るとは聞いてますが……」
自分が住んでいるコロニーは隔壁で区切られており、五区は全ての人に解放され工業、倉庫、軍の基地、ギルドなど様々な施設がある場所。デッカート・スペースコロニーで治安が一番悪い場所でもある。
自由に解放された五区から他の区画に移動するにはパスが必要で、一区へパスが全ての区画へ場所に出入りできる。一区は子爵家の屋敷と行政機関があり、一区への出入りできるパスを持っている人はコロニー全体から見ると非常に少ない。
二区は住宅地で、一区に通勤する人は二区に住居を持つことが多い。
三区は学術機関と住宅が主になっており、学生の自分は此処に住んでいる。四区は商業と住宅地となっている。
区画ごとにパスが必要な関係上、三区まで来ると治安が格段に良くなり、警察沙汰が非常に少なくなる。
そんな場所でエレメンタルカートリッジを見ること自体稀。自分も相手がエレメンタルカートリッジ出してきた時驚いたため、警察が驚いていることに共感する。
「あなたが取り押さえている男性が使用したということですが、よく取り押さえられましたね」
「自分はパワードスーツにエレメンタルカートリッジを装備しており、バリアを張れます。自分のエレメンタルカートリッジ所有許可証は通報時のIDから調べていただけますか?」
「了解です」
高等部の自分がギルド員だと言っても警察は信じられないだろう。
IDから許可証を調べてもらう。
すぐにオレがギルド員であることを確認できたようで、自分が持っているエレメンタルカートリッジについては不問となった。
「ところで警察はエレメンタルカートリッジ装備してますか? 装備しているのであれば、この男を取り押さえるの変わって欲しいのですが」
「五区担当の特殊部隊でもなければエレメンタルカートリッジは装備してません。申し訳ありませんが、MPが到着するまでそのまま取り押さえていてもらえますか?」
三区の警察がエレメンタルカートリッジを装備しているわけがないか。
「分かりました、周囲の警戒をお願いします。私もスーツの支援機能で警戒してますが。仲間がいる場合があるので」
「そうですね。ところで女性はどうしますか、我々の車内に保護しますか?」
「エレメンタルカートリッジを使われると、車だろうと真っ二つになります。自分の行動範囲内にいて貰った方が助かります」
「分かりました」
そういうと警察はホルスターから銃を抜くと周囲を警戒し始めた。自分も同じように周囲を警戒する。
しばらくすると上空を移動する軍の車両をパワードスーツの支援機能が発見する。一直線にこちらに向かってくると、空中に停車して軍人が降下してくる。
「通報者はどなたです?」
フル装備の軍人が、こちらにエレメンタルカートリッジ付きの銃を構えながら尋ねてきた。
「自分が通報しました。デバイスはそこに転がっています。使用したのは取り押さえている男です」
端的に伝え、MPの指示通りに動く。
軍が来たことで観念したのか男は青ざめている。MPが男を拘束して、デバイスを回収していく。
「通報者のあなたもエレメンタルカートリッジを使用していますね。エネルギーを確認できます」
軍人はいまだに自分を警戒している。
「はい。自分も相手がナイフデバイスを出してきた時点から使用しています」
「車両の中で話を聞かせていただきます」
「分かりました」
警戒して自分の周りにも配置されたMPとともに車両に入る。
「あなたの所属を教えてください。エレメンタルカートリッジの許可書も」
「所属は冒険者ギルド。許可書はIDかギルド証から読み取れます。ギルド証は首のチェーンに下げてあります」
「我々が取り出しても?」
「もちろん。どうぞ」
自分の前で質問していたMPは頷くと、視線を自分の隣で警戒していたMPと一瞬合わせる。隣にいたMPが自分の首にかけてあったギルド証を取り出し、照会し始めた。
照会した内容を読んでいたMPが急に、エレメンタル王国式の首元で握り拳を作り敬礼する。
「失礼しました! 問題ありません!」
「問題ないなら大丈夫です。敬礼など必要ありません、私はただのギルド員です」
「はっ!」
軍がギルド証を照会すると隠された詳細なデータが表示されるのか……今必要ない情報も出てしまったようだ。
照会していたMPが敬礼し始めるので、他のMPは困惑しているようだ。しかし、自分から事情を説明すると、面倒なことになってしまう。
今は口をつぐんでおく。
そんな中に別のMPが入ってきて、一瞬不思議そうな顔をしたが報告を始めた。
「男の紹介とナイフデバイス、エレメンタルカートリッジの製造番号が判明しました」
「そうか口頭で伝えてくれ」
自分のギルド証を照会した軍人が対応する。
「ですが、彼がいます」
「問題ない。正規のギルド員であると確認が取れた。我々からも連絡するが、彼からもギルドに連絡して貰った方がいいだろう」
「はっ、男はエレメンタルカートリッジの使用許可は出ていませんでした。また、過去に軍、冒険者ギルドどちらも所属経歴はありません。ナイフデバイスの製造番号はXXXX-XXX、エレメンタルカートリッジはXXXX-XXXX-XX。パワードスーツは着ていませんでした」
自分の身元を見たのが予想以上に効いてしまったようで、捜査情報を聞けしまう。
ただお陰で簡単に制圧できてしまった理由が分かった。
男はパワードスーツを着ていなかったために、自分の速度と力に対応できなかったのか。
「フカ殿、軍からギルドに通達を出しますが、ギルドで確認して頂けると助かります。現状分かっている内容を転送しておきます」
捜査情報を聞いてしまったからには、明日にでもギルドに行って確認しておくべきか。
今日は忙しかったので、明日はゆっくり休みたかったのだが予定変更か……。
「分かりました。明日、ギルドで確認しておきます」
「はっ。以上で身元確認を終わります。戻って頂き問題ありません」
「分かりました。助かりました、ありがとうございます」
「いえ、任務ですのでお気になさらず」
転送されてきた情報を受け取り、MPにもう一度お礼を言ってから車内を出る。
解放されてすぐにアクーラさんの下に向かう。
「アクーラさん怪我はない?」
「フカくんが守ってくれたから怪我はないよ」
そう言うとアクーラさんは泣き出してしまう。
自分は躊躇しながらも、抱き寄せて背中をさする。
少しするとアクーラさんは泣き止んだようだ。
「ごめん。もう平気、色々驚いちゃって」
「いや、怖かっただろ? もう安全だよ。女子寮まで送ってく」
「うん。ありがとう」
MPと警察に声をかけて、アクーラさんへの事情聴取が終わっているか確認する。後日また事情を聞くかもしれないが、今日はもう帰って大丈夫だとのこと。
自分はアクーラさんを連れて寮へ向かう。
「フカくん、怪我はなかった?」
「ああ、動きで分かると思うけど、パワードスーツ着てるから問題なかったよ」
「それで、すごい動きしてたんだね。だけど、なんでパワードスーツを着ているの?」
「あー……ギルドでバイトしているんだ」
ギルドの仮登録状態で働くことを一般的にバイトと言う。
自分が仮登録状態だと誤解させ、正規のギルド員であることを隠す。
「ギルドでバイトしているの? 私は授業で体験したっきりギルドは行っていないや」
「普通はそうなんじゃないかな? 自分は宇宙と宇宙船が好きなこともあって、ギルドでバイトしている」
これは嘘ではない。
正規のギルド員になろうと思ったのも宇宙と宇宙船が好きなためだ。
「ちょっと分かるかも。宇宙体験の時に宇宙服着て宇宙を見て、怖いって言ってた子も居たけど、私はきれいだと思ったよ」
「きれいだよね。作業が終わった後とかに眺めてる。好きなものを分かってくれて嬉しいな」
コロニーに住んでいても宇宙は身近ではない。
学校の授業で体験する、宇宙遊泳で宇宙との繋がりが終わるような人も少なくはない。
「そういえば、ギルドのバイトってこんな時間まであるの?」
「普段は休みの日にしかバイトはやっていないんだけど、作業量を見誤ってこんな時間までかかったんだ。まあ、バイトは大変だったけど、結果的にアクーラさんを助けられたから良かったよ」
「感謝してもしきれないよ」
話をしていると女子寮に着く。
エントランスで寮の監督者を呼び出し、先ほど起こったことの事情を話した後、アクーラさんと別れる。
「それじゃアクーラさんおやすみ。また明日学校で」
「フカくんもおやすみ。今日は本当にありがとう」
お礼を言ってくるアクーラさんと別れる。
男子寮へと向かい、同じように寮の監督者に日付を超えてしまった事情を説明して、やっと自分の部屋に戻る。
「疲れた。というか今、何時だ」
時計を確認すると日付を余裕で超えている。
寮の監督者から事情説明はされるとは思うが、学校からの呼び出しが確実。
「呼び出しはもう諦めるしかない。早く寝ないと。睡眠の設定を短時間で回復可能な状態、無重力での活動量が多かったから精密なバイタルチェックも」
成長期は1Gでの活動が推奨されており、宇宙に出て無重力で活動することが多い自分は高性能なカプセル型の寝具を使用している。
カプセルの性能をフルに使って、短時間睡眠で疲れが取れるように設定。
服とパワードスーツを自動洗濯機に突っ込む。
専用の下着を着て寝具に横になり、寝具の機能を起動させると即意識が落ちる。
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2024年12月28日 12:00 毎日 12:00
ユニバース ロイヤー 〜スペースコロニーに住む学生は宇宙をかけるギルド員〜 Ruqu Shimosaka @RuquShimosaka
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