ユニバース ロイヤー 〜スペースコロニーに住む学生は宇宙をかけるギルド員〜

Ruqu Shimosaka

第1話 エレメンタル

「フカ、遊びに行こう」


 学校の授業が終わり、固まった体をほぐすのに伸びをしていると、後ろから自分を遊びに誘う声をかけられる。

 振り返ると、何時もつるんでいるミヤルが居た。

 ミヤルは自分と同じ黒髪黒目。

 自分は東アジア系にルーツを持つのに対して、ミヤルは南アジア系にルーツを持つ。自分がうすだいだい色の肌で、ミヤルは肌の色が褐色系で濃い。


「あー……悪い、今日は無理。バイトで回された作業が休みの間に終わらなくて」

「珍しいね。必要なら手伝うよ?」


 自分は誤魔化しているが、正確にはバイトではない。

 ミヤルは自分と同じ仕事をしており、何をしているか知っているため心配してくれた。

 残っている作業は短時間で終わる作業量だと目算しおり、ミヤルの好意を断ることにした。


「いや、残りはそんなにないから平気」

「そうか。じゃ、また明日にでも遊ぼう」

「ああ。スクアーロによろしく」


 いつも一緒に行動するもう一人の友人は、まだ席に座ってゲームをやっている。ゲームのきりがつくまで声をかけにくい。

 ミヤルもスクアーロに視線を送って、苦笑を浮かべる。


「分かった」


 ミヤルが去って行った後、勉強に使ったデバイスを片付けていると、席が近いアクーラさんが遊びに誘われているのが聞こえてくる。


「アクーラ、遊びに行かない?」


 自分と同じようにアクーラさんが遊びに誘われている。自分との違いは複数の生徒から囲まれていること。

 アクーラさんはクラスの中で人気という枠を超えて、スペースコロニー全体で人気者。彼女はソーシャルメディアや動画配信を中心に、モデル活動までしているインフルエンサーでありタレント。

 それでいて偉ぶったところがなく、学校で目立たないようにしている自分にも声をかけてくれるほど人柄がいい。クラスの皆から遊びに誘われるのも当然。


「あ、ごめん。今日はモデルの仕事なんの。ごめんね」


 アクーラさんは人の良さからから二度も謝っている。


「あ、そうなんだ。気にしないで、また今度遊びに行こ」


 アクーラさんが忙しいことをみんな知っているためすぐに諦めた。

 自分の片付けが終わったので教室を出ようとすると、アクーラさんが遊びに誘われた人に「また今度遊ぼうね」と言いながら同じ出口に向かってきたため、ぶつかりそうになる。


「わっ」「おっと」


 アクーラさんの金髪の髪と整った顔立ちに映える青い瞳が目の前にある。

 自分は百八十センチ近い身長があるのだが、アクーラさんもモデルをやっているだけあって高身長。以前に「百七十五センチほどだとモデルだと小さい方だよ」と言っていたのを聞いてしまったことがある。

 百八十センチと百七十五センチなら身長差がそこまでないため、顔が目の前に来てしまう。アクーラさんは身長のこともあってかっこいいのだが、決して女性的な体つきをしていないわけではない。

 さすがにアクーラさんのきれいな顔が目の前にあると照れる。


「アクーラさん、大丈夫?」

「フカくんごめん。ぶつかる前だったから大丈夫!」

「なら良かった。それじゃお先にどうぞ」


 自分が扉を開いて、アクーラさんが先に出れるようにエスコートする。


「わー、なんか慣れてるね?」

「え? あー……そういうバイトしたことあって」


 照れ隠しもあって、やりすぎてしまった。


「へー、どういう、あ! 時間ないんだった、今度教えてね!」


 アクーラさんは自分に手を振ると、教室を飛び出し小走りに廊下を走り去っていく。モデルの仕事まで本当に時間がなかったようだ。

 自分はバイトの内容を聞かれなくて助かったと思いながら教室を出る。

 自分もアクーラさんと同じように、小走りでバイト先に向かう。


 鉄で覆われたスペースコロニーの中を車で移動していく。

 宇宙が好きな自分には鉄で覆われた天井は閉塞感がある。


 学校がある三区から、商業施設のある四区、港機能のある五区を抜け、船着場へとたどり着く。

 港の桟橋で自分の宇宙船に乗り込む。

 宇宙船は小型の作業船。

 資源回収のコンテナが船に増設されている。

 宇宙船の中で、事前に準備していたフライトプランをスペースコロニーに送信する。


「こちら冒険者ギルド所属、フカ」

『こちらデッカート・スペースコロニー管制室。キャプテン・フカ、提出済みフライトプランの承認を受諾しました。誘導空域Yー05を使用し、フライトプランの該当宇宙域へ飛行してください』

「了解、良い一日を」

『良い一日を』


 定型分で通信を終了する。

 指示通りに誘導空域を使い、スペースコロニーの重力圏から脱出する。

 宇宙には無限の世界が広がっている。




 人類が宇宙に飛び出した後、最初は国家所属の組織だけが宇宙を探索していた。

 広い宇宙を国家所属だけでは人員が足りるわけもなく、軍隊が派遣されるようになる。しかし、それでも探索に終わりが見えない。

 宇宙の探索が金になると考えた退役軍人たちは、民間軍事会社を立ち上げ探索の認可を求めた。地球所属の国家は一国が民間軍事会社の宇宙探索を認めると、追認する形で各国が民間軍事会社の宇宙探索を認めた。


 認可が降りた後、中小の民間軍事会社が乱立。

 民間軍事会社は国から金銭は支払われるが、国家の総合的な支援が受けられないことが問題になる。民間軍事会社は会社同士をまとめ、総合的な探索業務をサポートする冒険者ギルドを発足する。

 冒険者ギルドの発足後、広大な宇宙を探索した人類は、宇宙を探索して様々な国を作った。




 自分が暮らしているのはエレメンタル王国デッカート子爵領のスペースコロニー・デッカート。

 エレメンタルという名前は、その名前の鉱石が産出したことでエレメンタル王国だとか、エレメンタル王国で出たからエレメンタル鉱石だとか諸説ある。


 エレメンタル王国の冒険者ギルドは仮登録と正規登録があり、仮登録の状態でギルドが設定している作業をこなした後、ギルドが正規登録への審査を経て合否が出る。

 ちなみに軍人だと仮登録と同じような訓練課程を新兵の時に教わるため、ギルド登録にすると仮登録を飛ばして正規登録になる。

 ギルドは作られた経緯もあって、現在でも元軍人が非常に多い。


 正規のギルド員資格を持つ自分は、休みの日に終わらせられる量の依頼を受けている。しかし、今回ギルドから請け負った特定地域にある鉱物採取が、ギルドが想定していた量から大きく外れ、休日で終わる量ではなかった。

 結果、学校がある平日にまで作業している。


「終わったけど色んな意味で終わった。明日の授業寝ないで受けられるかな……こんなことならスクアーロとミヤルにも手伝って貰うんだった……」


 残りの作業は一時間か二時間で終わると思っていたが、実際は倍以上時間がかかり、気づけば日付が変わりそうな時間。大急ぎで帰宅しようとする。

 自分が通っている第一高等学院は全寮制。

 事前の申請がある場合は帰るのが多少遅くなっても許されため、作業中に仕事理由で申請はしている。しかし、流石に日付を超えると、呼び出されて怒られる。


 作業用の服を着替える時間も惜しく、作業着の上に制服を羽織り寮まで急ぎ戻る。


「間に合った」


 男子寮の近くまで来て、日付はまだ超えていないと安堵する。


「やめてください」


 男子寮の隣にある女子寮の方で言い争う声が聞こえる。

 日付が変わりそうなこともあって、コロニーの天井から照らされる光も抑えられているが、真っ暗と言うわけではない。どんな状況か確認するため、人通りの少ない道の先に目をこらす。

 言い争っているのは自分が通う第一高等学院の学生服であるブレザーを着た女性と、趣味の悪いシャツを着た男性。

 女性は特徴的な金髪からアクーラさんだと分かる。


「なあ、ちょっとだけだよ? 良いだろ、アクーラ」

「無理です」


 アクーラさんのファンか、ナンパだろうか?

 不良ぽい男性がアクーラさんの腕を掴んで声をかけている。アクーラさんは嫌がっており、明らかにやりすぎている。

 すぐにでも止めに入るべきかと思ったが、声をかける前に警察へ連絡を入れることにした。

 デバイスを取り出して電話をかける。


『事件ですか? 事故ですか?』

「高等部の女性が男性にしつこくからまれているので来てもらえませんか」

『場所はどこですか?』

「三区、第一高等学院女子寮前です」

『すぐに警察官を派遣します』


 通報したのが男には気づかれなかったようで、まだアクーラさんにからんでいる。男が気づいて逃げ出してくれるのが一番良かったのだが……。

 クラスメイトのアクーラさんが困っているのを放ってはおけず、作業着であるパワードスーツの出力を上げてアクーラさんに声をかける。


「アクーラさん、どうしたの?」

「あ、フカくん。その、この人から無理を言われて……」


 自分が声をかけるとアクーラさんが明らかに安堵した表情を浮かべる。


「あ? 無理じゃないだろ? ちょっと遊ぼうって言っているだけだろ?」


 男は自分が現れてもまだからむのを止めない。


「あー……お兄さん落ち着いて、落ち着いて」


 自分は男とアクーラさんの間に入って、アクーラさんから男を引き離そうとする。

 ギルド員に比べたら、学生が集まる三区にいる不良程度怖くもなんともない。……比べる相手が悪すぎるかもしれないが。


「おい! ガキが俺に触るんじゃねえ!」


 アクーラさんを掴んでいた男の腕を解いたところ、男が異常に興奮し始めてしまう。

 ここまで興奮するとは思っておらず失敗したと思いながら、アクーラさんの盾となれるような位置を意識してとる。

 警察が来るまで時間稼ぎをしようと男に話しかける。


「落ち着いて、落ち着いて。お兄さん、ファンならアクーラさんを困らせちゃダメだよ」

「お前には関係ないだろ! どっかいけ!」


 クラスメイトの自分より、あんたの方がアクーラさんと関係ないだろうと心の中で突っ込む。

 同時にさすがにしつこすぎると気分が悪くなる。


「どっか行くのは無理というか、同級生として日付が変わりそうな時間に遊びに誘うのはどうかと思うわけ。寮の規則的にも外泊は特別な理由がない限りは禁止されてるからさ。そもそもこんな時間から遊ぶってなにするの?」

「あ? お前には関係ないだろ!」


 男の踏んではいけないいけない話題だったようで、懐に手を入れて何かを出そうとする。

 時間稼ぎのつもりが言いすぎてしまった。失敗した。

 刃物だったらいいが、銃だった場合アクーラさんに当たるとまずい。射線を切りながら、パワードスーツの設定を一段あげて戦闘可能な状態に切り替える。


「ガキが邪魔しやがって! 後悔させてやる!」


 そう言って男が取り出した物はナイフ。

 しかしナイフには白いラインが入っており、柄には弾倉のようなカートリッジが挿入されている。


「ナイフデバイス! しかもエレメンタルカートリッジが装填されてるだと!?」


 銃以上に危険なもので目を見開く。

 エレメンタルカートリッジからナイフにエネルギーをチャージすると、人くらい簡単に真っ二つにできる危険な代物で喧嘩に出すようなものではない。

 カートリッジの元となるエレメンタル鉱石は安定した物質だが、特殊な工程を経ることでバリア、刃物、燃料、爆弾と何にでもなると言って良いほどの特殊な鉱石。

 エレメンタル鉱石からエネルギーを取り出しやすく加工されたのが、エレメンタルカートリッジ。


 デバイスにエレメンタルカートリッジからエネルギーがチャージされると白いラインが黄緑色に輝く。しかし、男が持つナイフデバイスはまだ黄緑色には輝いておらず、エネルギーはチャージされていないのがわかる。

 即座に制圧することに決る。

 自分のパワードスーツに付けているエレメンタルカートリッジからエネルギーをチャージしてバリアをはり、すぐさま男の持っているナイフデバイスに向けて蹴りを放つ。


「ギャッ」


 エネルギーをチャージされる前に攻撃できたようで、ナイフデバイスが男の手から吹き飛ぶ。

 ナイフデバイスを無くした男は、手を押さえながらうずくまっている。

 直ちに男の関節を決めて制圧する。

 簡単に抑え込めてしまったことに違和感を感じるが、押さえ込む力は緩めない。


「痛え! なにしやがる」

「なにしやがる!? あなただってエレメンタルカートリッジを持っているなら知っているだろ! エレメンタル王国ではエレメンタルカートリッジは許可制で、使用に制限がかかっているものだ! 一般市民に向けていいものじゃない!」


 正規のギルド員である自分は持つ許可を持っているが、一般市民が持っていていいものではない。

 学生が集まる三区で出すような武器ではない。


「そんなこと俺に関係ないね」



——————


ユニバース ロイヤー 〜スペースコロニーに住む学生は宇宙をかけるギルド員〜 をお読み頂きありがとうございます。

今作はカクヨムコン10にエントリーする作品です。

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執筆の原動力となりますので、よろしくお願いします。

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