困った時に、“縁切り男”!
崔 梨遙(再)
1話完結:1200字
その日、とうとう彼は私の前に現れた。彼は須藤歌亜(すとう かあ)、私の元彼だ。私は瞳、普通のOL。須藤と付き合ったの3ヶ月くらい。2ヶ月前、須藤の束縛が酷いので別れ話をしたのだ。別れ話は電話だった。彼はいつまで経っても“別れる”と言ってくれないので、私が一方的に電話を切った。それで終わり。そう、それで終わりだと思っていたのだ。
ところが、翌日から尋常ではないくらい須藤からの着信があった。最初は電話に出て別れ話を繰り返した私だったが、着信拒否にするまで時間はかからなかった。すると、私の住んでいるマンションの私の部屋の前で私を待つようになった。私は家に帰ることも出来ず、友人の家に連泊していた。
そして、会社を出たところで須藤は現れた。私は怯えながらも早歩き。須藤は私について来て何か話しかけてくるが、私の耳には入らない。私は、警察署に入った。
「表にストーカーがいます!」
須藤は逃げた。その日は警察官が友人宅まで送ってくれた。
翌日、友人宅の近くの公園のベンチに座っていた。私は涙が出てきた。そもそも、私は須藤のことが好きではなかった。告白されて、たまたま恋人がいない時だったので、なんとなくOKしてしまったのだ。それが、こんなことになるなんて。
その時、私は声をかけられた。
「お嬢さん、お悩みですか?」
私は顔を上げた。スーツ姿で好感の持てる紳士だった。年齢は30代後半から40代前半だろう。
「はい、悩んでいます」
「縁を切りたい人がいるんじゃないですか?」
「よくわかりますね?」
「仕事柄、そういう勘は鋭いんです」
「どんなお仕事なんですか?」
「私は“縁切り男”。縁を切りたい相手との縁を切るのが仕事です」
「是非お願いしたいんですけど。縁を切りたい相手がいるんです」
「わかりました、その相手との縁を私が切りましょう」
「あ、すみません、報酬はどのくらいですか……?」
「無料ですよ。お客様の笑顔が、私にとっては報酬です」
「じゃあ、お願いします。相手は須藤歌亜という男です」
「お任せください」
1週間後、会社を出たら“縁切り男”が待っていた。
「あ、“縁切り男”さん!」
「その後、どうですか?」
「ありがとうございました。須藤とは縁が切れたみたいです」
「それは良かったです。もう、大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
「いえいえ、それにしても瞳さんは美しいですね」
「いえいえ、そんなことないです」
「私と付き合ってもらえませんか?」
「え?」
その日から、“縁切り男”が私のストーカーになった。
私は、また公園で泣いていた。どうしてこんなことになったのだろう?
「お嬢さん、どうかしましたか?」
「はい?」
顔を上げると、目の前にはダンディなオジサマ。
「“縁切り男”がストーカーになって、困っているのでしょう?」
「どうして、それを?」
「私は、“縁切り男”との縁を切る男なんです」
困った時に、“縁切り男”! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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