赤い糸切りのリナ

ショー

1、ナツキ

「あなたに、悪縁が見えるわね」


「あなたに、悪縁が見えるわね」


 ナツキがその少女に遭遇したのは、深夜の住宅街を歩いているときのことだった。

 身の丈ほどもある巨大な握り鋏を小脇に抱えた、赤毛赤目の和装少女である。

 見た目の年齢は十四から十六歳、ちょうど中高生といったところだ。

 が、ナツキが普段職場で相手にしている中高生女子とは、少し違う気がする。

「何かの、コスプレ……?」

 と、思わず口にしかけたものの、それにしては少し違和感がある。

 和装なことから最初は「『艦これ』とか?」と思ったが、そうでもなさそうだ。

 職業柄、話題作りのためにマンガやアニメにそこそこ詳しいはずの彼でも、こんなキャラクタにはとんと心当たりがない。


「あたしはリナ。『赤い糸切りのリナ』だなんて、うちの『業界』のひとたちからは呼ばれているかしらね?」


 という口上はやけに慣れたものだが、その『業界』というのはどういった界隈なのだろう。

 あるいは「Vチューバーとかだろうか?」とも思ったものの、そちら方面はマイナーなものを含めると数が多すぎて見当もつかない。

 それに、おそらくは――違う、そうじゃないとナツキは思い直す。

 仮にコスプレイヤーの類だったのだとしても、深夜零時の住宅街に出没するというのは異常だ。

「あー、いきなり声かけたから、やっぱ、そーゆー反応にはなるわよねー。うーん、でも、さすがにこの『悪縁』を見過ごすのも寝覚めが悪かったし……」

「えっと、急いでいますから。俺は、これで……」

 と、ひとりで言い訳を始める少女に「あまり関わるべきじゃないかな」と、ナツキはとりあえず逃げを打つことにした。

 少女が深夜に徘徊しているのを諫めるべきだとも思ったが、それよりも気色の悪さが勝る。

 なにせ、身の丈ほどもある握り鋏を小脇に抱えているのだ、この少女は。

 ナツキは超常現象(オカルト)の類を信じる方ではないものの、妖怪変化の類と相対するかのような薄気味の悪さを覚えてしまったのだ。

「……って、ちょぉっと、待ったぁ! だから、見過ごすわけにはいかないって、いってるでしょ!」

 が、ナツキはなんとかその場を辞そうとしたのだが、そうはさせじと少女は大ハサミをぶんと振り回す。

 耳元を通り過ぎる確かな質量に「ひゃっ……」と、やや情けない声を出し、尻もちをついてしまうナツキ。

 が、少女はそんなことまるで気にもしていないとでもいう、ふてぶてしい顔だ。


「ふふん、このあたし、リナさまはタダ働きはしない主義だけど。あんたのその悪縁、放っておくわけにもいかないから……。特別に、切ったげるわよ!」


 と、大ハサミをさらにひとふり。

 ジョキンと、何か硬いものを挟み切るような音が響いたと思ったら、目の端には赤い何かがばしゃりとまき散らされ。

 ナツキは「もしかして、俺、首でも切られたんじゃ……」とありもしない想像をしてしまう。


 どうして、こんな状況になっているのだろうか。

 そう思ってしまったからこそ、彼は、ここ最近のことを思い起こすわけで――


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