1月
第5話:心機一転?_1
新年を迎え、私は去年のあお君の行動を引きずったまま、悶々とした日々を過ごしていた。まだ、本人に確認するには早すぎる。どこまで調べて証拠が出たら確定なのかもわからなかったが、とにかくあの女性が誰なのかわかるまでは、あお君に探っていることを悟られないようにすることにした。苦しいが仕方ない。今後の自分のためでもある。
気になったことは、すべて日記に残していた。調べるのもまとめるのも好きだが、あまり長い文章を書くのは得意ではないし、日々なにを思ったか、考えたか証拠になれば良い。といいつつ、書き始めるとスペースから見たら長い文章になってしまい、慌ててメモに書いて挟んだりもした。最初からきちんと日記帳にすればよかったが、空白が多いと気になってしまって、それならあとからメモを追加するほうが気にならなかった。
……私の中であお君は今、限りなく黒に近いグレーだった。あお君がいない隙をついて給与明細を調べてみたら、知らない有休をとっていたし、その日数は出張の日数と被っていた。つまり、私には出張と偽って有休をとっていた可能性がある。それに、残業時間数もあお君の帰る連絡と定時から計算して、明らかに毎月少なかった。これも、実際は残業しておらず嘘を吐いていた可能性がある。
なぜそんなことをするのかと聞かれたら、あお君はなんと答えるのだろう。私が見る限り、あの写真の女性と会うために嘘を吐いていたとしか思えないのだ。ご丁寧に給与明細は別に隠してあったし……隠しているつもりはなかったのかもしれないが、一昨年までの明細は私と同じ趣味部屋の本棚のファイルの中にまとめてしまってあったのに、それ以降の明細はあお君の使っているクローゼットの、上のほうに置かれた箱の中にしまってあった。これは隠していた、だと私は思っている。
初詣も毎年ふたりで日付が変わるころに行っていたのに、今年は誘っても断られた。混むから、と。そんなのずっと前からわかっている。そんな理由で断ったのにもかかわらず、そのあと『上司から誘われたから。断れないし行ってくる』と、あっさりその混む初詣へと出かけていった。
思い出すと腹が立つが、たったこの、二週間ほどで起こったのはそれだけじゃない。クリスマスの出張、帰ってきたらテーマパークのトップスとキーホルダーが増えていたし、逆に今年のハロウィンのトップスは、なぜかどこかへ消えていた。夜遅くに買い物へ行ったと思えば、全然帰ってこないし私のお願いしたアイスは忘れて帰ってきている。相変わらずお風呂へ入っている時間は長くて、スマホも持ち込んでいるようだった。
もしかしたら、今までだったら気にならなかったのかもしれない。明らかに、確実に。あの画像を見てから私の中でなにかが変わっていた。
「今年は本当に帰らなくて良いの?」
「別に良いよ。小学校のときの同窓会あるから、それに参加するし、別に俺だけ行ってこれば良いから」
「そっか……」
「そのときにシオも実家帰る?」
「あー……うん、そうしよう、かな……」
毎年、年始はお互いの親族へあいさつ回りをしていた。のだが、今年はあお君の小学校時代の仲間が同窓会を開くらしく、それに行くから不要だと言われた。ついでに親と親戚にはあいさつをしてくる、と。楽で良いと思う反面、十一月、十二月、そして一月と、三か月連続で泊まりでいないことが気になった。前ふたつは出張だが、そもそも本当に出張だったかも怪しい。今回の同窓会は、ハガキで案内が来ているのを私も見た。まだたまにあお君宛の郵便が届くため、転送届を抱いた結果、実家に届く予定だったお知らせのはがきがこちらへ届いたのだ。
開始時間も遅いし、翌日は休みで積もる話もあるからとあお君は泊まりを選んだのだ。県外だからその気持ちもわかる。日帰りは辛い。実家に泊まると言っていたが、それすら定かではない。
「じゃあ、一応電話だけしておくね?」
「なんの?」
「新年の」
「いる? それ」
「一応入れておくのが礼儀じゃない? 今まで行って直接あいさつしてたし」
「いらないよそんなの」
「そうかな……」
「俺が帰るんだから、そのときに言えば良いし。気にしすぎ」
どうして今年は来ないのか、とは言われたりしないだろうか。そんな不安が頭をよぎる。私はかなり気にしぃな性格なので、悪く思われないかつい考えてしまうのだ。
「……わかった」
『あいさつされたら困ることでもあるの?』とは聞かず、私は言葉を飲み込んだ。考え過ぎは生活に支障が出てしまう。
「えっと、いつだったけ?」
「十一日」
「わかった」
「あ、当日は向こうの友だちと先に会う約束したから、早く出るよ」
「そうなの? いつ?」
「朝からの予定。別に用事もないでしょ?」
「……うん。帰りは? ご飯どうするかなと思って」
「何時に帰るかわからないから、ご飯いらない。帰る前に連絡する」
「そっか、じゃあ私も両親と外食でもしようかな」
「いいんじゃない?」
私の実家のほうが、あお君の実家よりもここから近い。ただ実家は実家で予定があるだろうと、私は顔だけ見せて帰るつもりでいたが、たまにはご飯を一緒に食べるのも悪くないなと思った。年始であれば兄弟が帰ってくるが、少し外れたこのタイミングならば両親だけだろう。積もる話はそれほどないが、実家での家族の時間も良い。
「初売りでも行く?」
「いや。……混むから、疲れる」
「そうだよね……。特番見る? 今の時期って、だいたい特番だもんね!」
「あー……いいや」
「……そっか。……おやつでも買ってこようか? そこのコンビニだけど」
「眠たいから寝るわ。夜になったら起こして」
「え? 夜で良いの? お昼ご飯は?」
「ぐっすり眠りたいから、起こさないでほしい。だからいらない」
「う、うん」
そう言って、あお君は寝室へ行ってしまった。
新年一日目からこれなのである。去年の残業は多かった。それが本当なら、長期休みゆっくりしたいだろうとは思っている。わざわざこんな人の溢れかえる時期に、外にも出たくないだろうとも。ただ、こちらが話しかけないと会話がなくなってしまうような気がして、間を埋めようとしたつもりだった。あお君には不要だということなのだろうか。
前からこんなにあからさま――あくまでも自分が思うだけなのだが。だったかどうかすらもわからない。
昨日も遅くまで起きていたのかもしれない。少し経ってから寝室を覗いてみると、あお君は布団にくるまって確かに眠っていた。私も一緒に眠りたいところだが、ベッドのど真ん中で眠っており、左右どちらに行くにしても狭い。それにかける布団もない。仕方なく趣味部屋へ行き、ソファーをベッド代わりにして眠ることにした。最近は色々考えているからなのか、気疲れからなのかとにかく眠たかった。昔からすぐに眠たくなるためた資質だとも思っているが、寝られるときは眠っていたい。まだ時間帯的には午前だが、あお君がお昼ご飯はいらないというのならば、私もぐっと眠ってしまっても問題ないだろう。
あお君がいるあいだは、家の中になにか証拠がないか探すこともできないし、下手な動きをして怪しまれてもいけない。私がずっと家にいることもあって、浮気相手に会いたくても、仕事のある日に比べたら動きにくいだろう。そうならば、こういうときはあお君も目立った行動をしないはずだ。
今まではあお君の寝る時間が遅くなると、私は先に眠て知多が、着ななってしまって起きているようになった。必然的に、私のほうがあお君よりも遅く寝ることになっている。慣れないことが連日続き、それだけあお君が遅くまで起きているということでもあったのだが、私はそろそろ限界だった。仕事があればまだ頑張れたし、あお君が返ってくるまで仮眠もとれたが、あお君がいるとせっかくの休みの日に申し訳ないし、もったいない気もして仮眠を取り辛かった。その本人が寝るというならば、私も堂々と眠っていられる。
「おやすみ……」
念のため、夜ご飯までは眠らないようにと、十七時にアラームをかけて眠ることにした。
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