告白

あざみ忍

第1話

「センセイって、お姉ちゃんのことが好きだよね?」

「……えっ、あの、それは――」


 陽菜ひなさんからの唐突な質問に、僕は慌てふためく。勉強に関しての質問なら、サラリと答えることが出来るのだが、色恋沙汰は畑違いだ。


「ほんと、分かりやすいなぁ」


 勝ち誇ったように笑顔を浮かべる彼女に、僕はどこか負けた気分になる。そんなにも態度に表れていたのか、と。


「陽菜さん、いつから気付いていましたか?」

「う~んと、初めてセンセイがお姉ちゃんに会った時から、かなぁ」


 腰まで伸びた長い髪。大き目の瞳に、ぷっくりと潤んでいる唇。陶器のように白い肌。そして何より、聖母様のような柔和にゅうわな笑顔。端的に言い表すなら、僕の一目惚れだった。


「さっさと告っちゃえばいいのに」

「それは出来ませんよ」

「どうして?」

「僕は陽菜さんの家庭教師です」


 意中の相手、深月みつきさんはである。告白を失敗すると、今後の仕事に支障をきたす恐れがあるからだ。


「そんなこと言って、断られるのが怖いだけじゃないの?」


 おっしゃる通り。何かと理由を挙げては大事から逃げる、僕の悪い癖である。


「もっ、もう僕の話はお終いです。さっさと勉強に戻りましょう」


 いつまでも10も離れた女子高生と恋バナはキツイ。勉強に戻るよう促すが、「最後に一つ」と遮られた。

 

「もしお姉ちゃんと付き合えるとしたらどうする?」

「何があっても幸せにするつもりです」


 間、髪を容れずに即答する。惚れた女性を幸せにするなんて、当然のことである。


『――それは本当ですか?』


「はい、勿論ですよ…………って、あれ?」


 今の声は深月さんだ。聞き間違えるほど、僕の聴力は衰えていない。あの凛とした涼やかな声は間違いなく深月さんである。でも一体どこから?


「ゴメンね、センセイ」


 悪戯っ子のように舌をペロッと出す陽菜さん。その手にはスマートフォンが握られている。それも画面は通話中、相手は『お姉ちゃん』と表示されていた。嫌な予感しかしない……。


「どこから聞いていましたか?」

『えっと…………最初から、です』

「そう、ですか」


 つまり僕が深月さんに抱いているイメージも、感情も、すべて筒抜けというわけである。

 スピーカーモードのスマホを陽菜さんから受け取ると、僕は大きく息を吐く。

 そして、


「深月さん、もし良ければ、僕と付き合ってくれませんか?」


 一世一代の大勝負に出るのだった。

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告白 あざみ忍 @azami_shinobu

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