第3話

 涼太とルリが十円ゲームセンターで遊んで二週間がたった。


 あの日から、涼太は時間があれば家のマンションのまわりをグルグルと回って、十円ゲームセンターを探し回っている。

 でも、いくらさがしても、十円ゲームセンターの看板はおろか、地下に伸びる階段さえ見つからない。


 そして不思議だったのが『ソウルメダリオン・リボーン』の情報が、全く見当たらないことだ。


 クラスメイトに話しても首をひねるばかりだし、タブレットを使ってインターネットで調べても、『ソウルメダリオン・リボーン』の情報はどこにも見当たらなかった。


 日曜日。涼太はパパと二人きりでお昼ご飯を食べていた。ルリとママは病院だ。ルリは一週間前から入院をしていた。


 涼太は、パパと一緒につくったカレーライスを食べながら、十円ゲームセンターと、『ソウルメダリオン・リボーン』について話した。


「ゲームセンターが、たった一日で消えるなんて、変だと思わない?」


 涼太の質問に、パパはカレーライスをもぐもぐと食べながら首をひねる。


「うーん。ひょっとしたら、それってロケテストじゃないかな?」

「ロケテスト……ってなに?」

「ゲームを発売する前に、テスト版をあそんでもらうことさ。テスト版をあそんでもらって、その様子を参考にして、最終的なゲームのバランス調整を行うのさ」

「じゃあ、十円ゲームセンターは、ロケテスト用のゲームセンターだったってこと?」

「うーん……パパの会社では、普段からゲーム機を置いてもらっているゲームセンターにおねがいするけどね。まあ、会社によってやりかたが違うのかもしれないね」

「じゃあ、ドラゴンを倒してゲットしたメダルは?」


 涼太の質問に、パパは苦笑いをしながら答えた。


「残念だけど使えないよ。涼太とルリは、すぐにドラゴンを倒したらしいじゃないか。多分だけど、ワザとドラゴンを弱くして、ドラゴンを倒した時の反応を確かめるのが目的だったんじゃないかな?」

「そっかー、ちぇー。メダルもったいなかったな……」


 パパはゲームを作っている会社に勤めている。つまり、ゲームを作るプロだ。そのパパが言うのなら、きっとそうなのだろう。


「それにしても、倒したドラゴンがメダルになってくずれるなんて、とんでもない演出だな! うーん、どうやって作ったのかな?」

「パパにもわかんないの?」


 パパは福神漬けをポリポリと食べながら、話をつづける。


「ああ。多分、ARって言う拡張現実の機能を応用していると思うんだけど……よし! ゲームが発売されたら、パパと一緒に遊ぼう! きっとそのころには、ルリの身体もよくなっていると思うから」

「メダルを買ってくれるの?」

「もちろんさ! あ、ママには内緒だぞ!」


 そう言うと、パパは人差し指を口にあてながら、ウインクをした。


 ルリが入院している病院までは、自転車で十分ほど。

 涼太とパパは、車通りの少ない道を選んで自転車をこいでいく。


 病院があるのは川沿いだ。

 涼太は、激しい向かい風のなか、いっしょけんめい自転車をこいでいった。

 はぁはぁ。涼太は息を弾ませて病院に入る。


 今日は日曜日だから、総合受付はやっていない。入るのは裏口からだ。

 パパが、裏口の管理人さんから受け取ったバインダーに、自分の名前と涼太の名前を書くと、入館書をふたつ受け取って、そのうちひとつを涼太にわたした。


 涼太は入館書を首からさげて、病院の待合室へと入っていく。

 だれもいない待合室はシーンとしていて、ちょっと不気味だ。

 涼太とパパは待合室をつっきって、エレベータに入ると、涼太は五階のボタンを押した。


 ルリの病室は501号室。隅っこにある個室だった。


 ———ポーン


 エレベーターが五階についた。ドアが開くと、なんだかあわただしい声が聞こえてくる。お医者さんと、看護師さんがものすごい早歩きで歩いている。


「501号室の患者さんの容体が急変して……」

「すぐに緊急手術だ!」


 え? どういうこと??


 お医者さんと、看護師さんは、ルリの病室に入っていく。

 そしてそれを追いかけるように、ガラガラと移動式のベッドを押している看護師さんもつづいている。

 なんだか悪い予感がする。


 涼太とパパは、大急ぎで501号室へと入った。


「ああ! あなた! ルリが、ルリが……せき込んだと思ったら、突然血をはいて、今から緊急手術だって……!」


 ママは真っ青な顔をして、ふらふらとパパにすがりつく。


「大丈夫だ。大丈夫だよママ。お医者さんを信じよう」


 パパは、ママの背中をさすりながら、でも、とっても不安な顔をしている。なんとか声をふりしぼっている感じだ。


 涼太はルリを見た。

 看護師さんに抱きかかえられて、移動式のベッドに乗せられている。その口元とパジャマには、血がべっとりとついていた。


 移動式のベッドに乗せられたルリは、お医者さんと看護師さん、そしてパパとママと一緒に、手術室へと向かっていった。


 涼太は、目の前で起こったことが信じられずにいた。


 ルリが緊急手術だなんて、ウソだろう?

 だって、ほんの二週間前まであんなに元気だったじゃないか!

 十円ゲームセンターで、『ソウルメダリオン・リボーン』で一緒にドラゴンを倒して、大喜びしていたじゃないか。


 涼太はどうすればいいか考えた。でも、どうすればいいか、まったくわかんない。涼太は神様にお祈りした。

 神様、どうか助けてください。ルリをたすけてください!


 そのときだ。


 ———ピコピコ

 ん? なんだ??

 ———ピコピコピコピコ

 どこからか、にぎやかな音が聞こえてくる。

 ———ピコピコピコピコピコピコピコピコ


 これ、ゲームセンターの音だ。涼太は、音がきこえるほうにふりむいた。


「ええっ⁉」


 涼太はびっくりした。そこには十円ゲームセンターの自動ドアがある。

 涼太は、ふらふらと、吸い込まれるように自動ドアの前に立った。すると、


 ———ウイーン。


「いらっしゃいませ、おおきに」


 自動ドアが静かに開くと、目の前にはメイド姿のお姉さんがいた。

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