十円ゲームセンター
かなたろー
『ソウルメダリオン・リボーン』
第1話
家庭用のテレビゲームも大好きだけど、ゲームセンターで遊べるメダルゲームがとにかく大好きだ。
中でも一段好きなゲームは『ソウルメダリオン』だ。
ファンタジックな設定のメダルゲームで、ドラゴンを倒すことで、大量のメダルをゲットできる。
涼太は、お父さんと映画館でアニメの映画を見た後に、その映画館が入っている大型ショッピングモールにあるゲームセンターで、『ソウルメダリオン』を始めて遊んだ。そのとき運よくドラゴンを倒して一気に二千枚以上のメダルをゲットできた。
それ以来、涼太は、『ソウルメダリオン』のとりこだ。
月に一回、パパやママにショッピングモールに連れて行ってもらって、パパが映画を見たり、ママがショッピングをしている間にゲームセンターに預けているメダルで、『ソウルメダリオン』を遊んでいる。
でも、最初に遊んだ時以来、一度もドラゴンを倒せずにいた。
あともう少し! って、ところまではいくんだけど、ギリギリのところで他の人にドラゴンを退治されてしまう。
そうこうしているうちにゲームセンターに預けていた二千枚以上あったメダルは、どんどん減っていってしまって、ついにはたったの五十枚になっていた。
メダルを新たに買うとなると、少なくとも千円いや、三千円はかかってしまう。
初めて遊んだ時は、パパがメダルを買ってくれたけど、自分でメダルを買うとなると、涼太にとっては、とんでもない大金だ。
(どうしよう。そんな大金をゲームセンターで使ったら、ママに怒られちゃうよ……)
涼太の頭の中は『ソウルメダリオン』のことでいっぱいだ。学校で授業を受けている時も、お昼休みも、そうして今、学校からの帰り道も、ずっと『ソウルメダリオン』のことを考えてしまっている。
家のマンションにつくと、涼太はため息をつきながら、エレベータのボタンを押した。
———チーン
エレベータは、すぐに涼太の住んでいる階につく。涼太はスタスタと廊下を歩いて家の前につくと、ドアノブに家の鍵を刺してガチャリとドアをあけた。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングから、妹のルリの声が聞こえてくる。
ルリは、三つ下の小学一年生だ。体が弱くて、入退院をくりかえしているけど、最近は体調も良くて、小学校に通っている。
「ママは?」
「今日は、五時までお仕事だって。お兄ちゃんが帰ってきたら、いっしょにお買い物に行ってほしいって。タブレットのLINEに書いてあった」
涼太は、ルリからタブレットパソコンを受け取ると、ママからのLINEを見た。
――――――――――――――――――――――
涼ちゃんへ。
ルリちゃんと一緒に、下のスーパーにお買い物にいってください。
【買い物リスト】
じゃがいも
にんじん
たまねぎ
カレールー
お菓子(ひとり1個まで)
――――――――――――――――――――――
お金はダイニングテーブルに千円札を置いています。
あと、冷凍室にブタ肉があるから、冷蔵室に入れておいて。
涼太は、ママのLINEを読むと、たちまち笑顔になった。
やった! 今日はカレーライスだ!
しかも余ったおつりでお菓子を買っていいって書いてある!
涼太は、ウキウキしながらメモ帳に買い物リストを書き写す。そして、ブタ肉を冷蔵庫に入れると妹のルリに声をかけた。
「ルリ! 買い物にいくぞ! お兄ちゃんについてこい‼」
「うん!」
季節は一月下旬。涼太とルリはコートを着込んで、家の外にでる。
スーパーは、涼太が住んでいるマンションの地下にある。
エレベーターで一階まで降りて、そのまま地下に降りるエスカレーターに乗るとスーパーだ。道路を歩かないから、ルリといっしょでも安心だ。
涼太は買い物カゴをカートに乗せると、ママに頼まれたじゃがいも・にんじん・たまねぎ、そしてカレールーを入れる。そうして、ルリと相談していろいろなチョコレートが入っているお得用のお菓子を買った。
よし! これで一千円ギリギリだ。算数が得意な涼太は、得意まんめんで買い物カゴをレジに持っていく。レジのお姉さんは、ピッピッピと、品物をバーコードにレジにかざしていく。
「九百八十七円です」
よし、計算どおり! 涼太はハーフパンツの右ポケットに入れていた一千円を取り出すと、ていねいにシワを伸ばして千円札を自動精算機に入れる。すると、
———チャリン……チャリリリリン
と、レシートと一緒に、おつりの十三円がでてきた。
ん? なんだ? この十円玉。
その十円玉は、ずいぶんと古ぼけていた。
ところどころ、くすんだ青緑色に変色していて、ふちには、ギザギザと溝がついている。昔の十円玉なのかな? ま、いいや。
涼太はお釣りをハーフパンツの右のポケットにおしこむと、左ポケットからエコバックを取り出して、ルリと一緒に買った商品を入れていく。
「家に帰ったら、ゲームやりたい!」
「えー、ルリはヘタクソだからなあ。ま、いいや、俺の足を引っ張るなよ?」
「えへへー。やったー!」
ルリの笑顔に、涼太はうれしくなってしまう。
去年の年末は、肺の病気でずっと入院していたんだ。
だから、なるべくルリのやりたいことには、付き合ってあげたいと思っていた。たまーに、めんどうだなって思うこともあるけれど。
涼太は、ルリと手をつないで昇りのエスカレータに乗る。
スーパーを出て、マンションのエレベータを押そうとすると、突然、ルリが涼太のそでをひっぱった。
「ねえ、お兄ちゃん! ゲームセンターがあるよ!」
「ゲームセンター? こんなところにあるわけないだろ?」
「ほら、あそこ!! 看板がでている!」
涼太は、ルリが指差している方向を見た。確かに、マンションの向かいのビルに看板がでている。
涼太は、ルリの手を引いて、看板の目の前まで移動する。その看板には信じられないことが書いてあった。
『【十円ゲームセンター】最新ゲームから、あの大人気メダルゲーム『ソウルメダリオン』の続編まで、すべて十円で遊べます!』
立てカンバンの奥には、人ひとりがやっと通れるくらいの階段が地下へと伸びている。
「ね、本当にあったでしょ! 行ってみようよ、お兄ちゃん!!」
「こんなところにゲームセンター? しかも全部十円? 怪しいなあ」
でも、涼太はこのゲームセンターがどうしても気になった。カンバンに書かれた文字が、とてもとても気になった。
『あの大人気メダルゲーム『ソウルメダリオン』の続編まで、すべて十円で遊べます!』
ソウルメダリオンの続編だって? そんなの遊びたいに決まっている!
「ね、行こうお兄ちゃん、行ってみようよ!」
涼太は、ルリに手をひかれて、吸い寄せられるように雑居ビルの階段を、一段、また一段と降りていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます