怪しいアプリ


 

「イチさんって、苗字あるんですか?」

 このAIっぽくないAIに乃ノ子は訊いてみた。


「ニノマエ」


 それだと、名前の漢字が『一』だった場合、漢字にすると、『一一』では。


 確か、一と書いて、ニノマエだったはず、と乃ノ子は思う。


「イチさん、名刺とかあります?」

「俺は名刺は持たない」


 まあ、AIらしいからな。

 持っていたとしても、真っ白な名刺に『一一』とだけ印刷してあっても、なにがなんだかわからない。


 そんなことを考えていた乃ノ子にイチが言った。


「福原乃ノ子。

 お前の任務はお前の住む街の都市伝説を探すことだ」


 おや?

 もしかして、これって、単に噂のミニゲームが始まってしまっただけだったのだろうか?


 『都市伝説』なんてワードを入れたから、それに反応して。


 一度、チャットアプリを閉めてみたが、アイコンも変わってしまっていて。


 『都市伝説 イチ』になっている。


 これ、もしかして、クリアしないと元に戻らないとか?


 まあ、開かなきゃいいだけの話だけど、と思った瞬間、イチからメッセージが入ってきた。


 お知らせに連続して表示される。


「乃ノ子っ」


「おい、乃ノ子っ。

 何処行ったっ?」


「人の話は最後まで聞けと習わらなかったのかっ」


 ひーっ。


 こっちからのメッセージに反応して答えてくるAIのはずなのにっ。


 何故、自分からキンコンキンコンとメッセージを送りつけてくるっ。


「福原乃ノ子。

 もし、都市伝説が集められなかったら。


 お前に都市伝説になってもらうからな」


 は?


「お前は謎の失踪をとげ、この街の都市伝説となるだろう」


 どんな予言だっ!

 っていうか、ミニゲームにしても、このAI、迫力ありすぎて怖すぎるっ。


 デリート、デリートッ!

と思ったが、どうしてもできない。


 つ、通知オフ!

 通知オフ! と思った瞬間、


「通知オフしやがったら、てめえの近所のヤツのスマホに、


 福原乃ノ子をぶん殴りに行け。

 さもなくば、スマホから得たお前の秘密をバラすぞ、とメッセージ送るぞっ」

とイチが脅してきた。


 想像通りの展開っ! と乃ノ子は怯える。


「漆黒の乃ノ子よ。


 いや、魂の乃ノ子か?

 鮮血の乃ノ子か?」

とイチは繰り返して欲しくない痛い言葉を連発してくる。


 しかも、私、それ言ってないっ、というのまで混ざっていた。


「さあ、お前の住む言霊町の都市伝説を探せ!


 ……急げよ。

 自らが都市伝説になって、消えたくないのなら」


 いや、勘弁してくださいっ、と乃ノ子は慌ててスマホの電源を落とした。





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