ぱっくん、にまつわるエトセトラ
第40話
甘くて美味しいのは分かってるけどなかなか手が出せないもの。なーんだ?
「うーん…?」
放課後の教室で、机を挟んで向かいの席に座り考え込む少女。
彼女が小首を傾げると、顎の下の黒髪がさらさらと揺れた。
触りたい。
この恋心を自覚してから何度手を伸ばしかけただろう。
でも、きっと急に触ったら真っ赤な顔でだんまりになるか、最悪帰ると騒ぎ出すから。
ぐっと抑え込む己の衝動。
俺、倉永 理(くらなが おさむ)は、いつのように、目の前の幼馴染ー中西 結(なかにし ゆい)の手元にあるプリントを眺めることでやり過ごした。
体育館の耐震補強工事のため、体育館と校庭を利用する部活動は今日から三日間、臨時休みになった。
当然俺が所属する男子バレー部も休み。身体が鈍ると文句を言うと、二年マネージャーの絵里先輩に『その分休み明けには体液カスッカスになるまで練習させてあげるやんな♪』と黒い笑みで囁かれ、その闇の深さと色気に恐れ慄いたのが昨日のこと。
せっかくの平日休み。
片思いの幼馴染を誘って放課後デート!と意気込んだものの、蓋を開けてみれば彼女が日直に押し付けられたプリントの山を二人でせっせと片付けている。
いや、これが終わったら一緒に帰れるから予定通りっちゃ予定通りか。
結の手にあったホチキスを無理やり取り上げ、手伝うお礼に一緒に帰る約束を取り付けたのは30分前。
横目でそうっと覗き見ると、結は手元の提出チェックリストに目を落としながら眉間に皺を寄せている。
律儀に答えを探してんだろうな。
くだらない問いを一生懸命考えてくれる結の優しさに頬が緩む。
でも、当ててもらうのが目的じゃない。
「正解は『ぱっくんパイ』でしたー」
あっさり答えを言うと、結はきょとんと目を瞬かせる。
「なんでぱっくんパイ…?」
「んー、美味いけどパイの欠片が落ちて食べにくい。ボリュームもねーし。だからなかなか手出さないんだよな」
足元の鞄から馴染みの箱を取り出すと、中のパイがカサカサ揺れた。
ぱっくんパイ。
中にチョコが入っている六角形の一口サイズのパイ生地菓子。
もちろん、結の一番好きな菓子。
「ふふっ。理くんてばいつもお腹すいてる。
確かに手に欠片が付いちゃうから、なにかやってる途中じゃ食べられないね」
結の柔らかい笑い声が耳をくすぐる。
腹が減るのは、腹が減るんだからしょうがないだろ。
そう思いながら、結の同意を捕まえ悪巧みを思い付く俺。
にやりと唇の端が上がる。
「そうだよなぁ?」
「…理くん?」
「結、お前手が汚れたらプリントをチェックするの面倒だよな?
しょーがねーなぁ食べさせてやるよ」
意地悪な提案に、スイッチ入ったかのように結の頬が赤く染まる。
「い、いいよ!後で食べ」
「しかも、当てられなかった罰として、結には二ついっぺんにだなー。」
ジタバタしてっと、ハードルが上がるだけだぞ?
「ずるい、よ…」
結にはレベルの高い羞恥プレイに小さな文句が聞こえるけど、今の俺には褒め言葉だ。
「ほれ、さっさと口開けろ」
差し出した一口パイ二つ。
ひょいっと口まで持っていくと、頬を染めた結が観念する。
「はい、ぱっく、ん……」
自分にはなんの問題もないボリュームの菓子を、ちっちゃい口を無理に開けて頬張る結。
あれ、このビジュアルどっかで…。
そう思いながら自分の口にも一つ放り込んだ途端、脳裏にフラッシュバックする昨夜のエロ動画。
「ぶはっ!ごほっごほっ!!!」
盛大にむせる。
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