太陽と海風と羅針盤と

第38話

木枯らしにマフラーや手袋が馴染みつつある、ある日の放課後。

四堂(3年・生徒会長)と藤倉(3年・生徒会副会長)がまったり生徒会室で談笑中。

四堂の手元にはココア缶。

藤倉の手元にはブラックコーヒー。



「よくまぁ、ここまで来たよね」

「んー?」

「お前、やっぱ凄いよ」

「ふふ、なんだ突然」


藤倉は四堂の前だとちょっと幼い、年相応の口調になる。


「外さむいから、さ」

「あぁ」

「年明けたらすぐに卒業だなって思って」

「あぁ」

「この一年何やったっけって議事録見てたら、結構いろいろやっててさ」

「四六時中ここにいた気がするな」

「そうそう。生徒会主催でやったことって本当いろいろあってさ。


校内流し素麺大会やってー

学年別ウノ選手権でお前が優勝して全校生徒からブーイングくらってー

体育祭のオープンキャンパス化とか

地元商店街インターンシップとか


見切り発車で突っ走った結果…

知ってる?今年の全国注目校ランキングトップだよ、宝良。

当初あれだけ教頭に『規律を重んじる姿勢を学ばぬか!』ってご指導頂いたのに、この前『自由闊達な精神こそ我が校の伝統じゃのう!』なんてホクホク顔で礼言われたし」

「ははっ。その切り替えの鮮やかさ、見習わなくてはならないな。


体育祭は…確か一年の男子が『運動しか取り柄のない俺には校外の好きな子に注目されるだけの大舞台がない』と言い出したのがきっかけだったか。」

「そうそう。最高の大舞台で見事大活躍してその片思いの女の子とくっついたんだよね。」

「ふむ…こう並べてみると、藤倉はよく俺の我儘に付き合ったな」

「会長選で負けた俺をお前がタラし込んだくせに…よく言うよ」

「ふふっ、側にいてくれて有難い限りだ」

「…でもさ、隣で見ててずっと不思議だった。


四堂はなんで躊躇わない?

どうして変えることを恐がらないの?」

「『なぜ恐がらないのか』か…

んー…そうだな。


今の宝良が「ある」と気づけたからかな。

「ある」と思わなければもちろん恐かったと思う。自分の手で作り出そうなんて思いもしないだろうな。


「創る」の前提は「在る」だ。

「在る」から「創れる」。


オレは一年前の最終演説のとき、今この宝良が「在る」って思ったんだ。

すでに在るものを作るなら簡単だろう?羅針盤を合わせるのも容易い。


宝良の生徒が自分のやりたいことを選んで、

臆せず、躊躇わず、めいっぱい楽しんでる、

そんな宝島みたいな高校があるって知ってたから。

あとはきっかけを作るだけだった。」

「ロマンチストだね四堂は。」

「ふふっそうか?

でも1人じゃできないことだらけで。お前や他の生徒会の奴らや宝良高校の生徒、先生、ご家族の方々、みんなが一緒につくってくれたから今がある。

オレ1人の力なんて微々たるものだ。」

「愛されてるからなー四堂は。」

「学内バレンタインチョコ獲得数最多記録を更新し続けるお前がそれを言うのか?」

「はぁ…

やだやだ変なところで天然なんだから。

お前は別格。そもそも四堂がバレンタインチョコ貰わないのは水上 さんがいるからであって、お前に憧れてる女の子なんて星の数ほどいるんだからな⁈」

「オレが憧れる男ナンバーワンにそこまで言ってもらえるのは光栄だな。」

「……〜っ!ホントそういうことしれっと言う男だよね…お前…はぁ。俺のこと振り回して楽しいか。」

「ん?振り回してなんかないぞ?全部本当のことだからな。」

「はいはい。…でさ。

もうすぐ来年の会長選だよね?俺ちょっと面白い仕掛け思い付いたんだけど。」

「ほう。お前がそんな顔するの久しぶりだな。」

「いつも生徒会長様に振り回されてるだけじゃつまんないからね。ちょっと耳貸して…。」



ちょうどその時。

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