◇第9話 竜に乗るなら軽い槍

 ◇

 



 そうして俺たちは、海辺の神殿の地下深くにあった闇の回廊のショートカットをくぐり、一旦、第七船団のへと艦長室に戻った。

 

 俺は、闇の竜姫レイが幽霊少女のころに通ったと思われる分かれ道をチラリと覗いた。すると、竜騎士ハイドに釘を差された。


 「おい、モク。闇の回廊を一人で通ろうとするなよ?闇の世界に魅入られたら、戻れなくなるぞ。通るなら、両目にメッキのまじないをかけて、ラト毛の外套を着て……。モクは強くないんだから、必ず護衛をつけること!」


 ウヘェ。ハッキリ言われた。

 でもそのとおりだ。また闇の竜に襲われたらたまらないモンな、了解。


 艦長室に着くと、

 ――二つの黒い人影!!


 「ギャッ!」

 『あはは!』


 それはシーツを被った、レイとシオンだった。

 なンだよ!警告された後だから、余計にビビった。


 レイはいつかの幽霊少女の格好そっくりだった。シーツをリフォームした白いドレス。腰を抜かして尻もちをついた俺に、だらんと垂らした袖を広げて、ばあっ!と戯けてみせた。


 もう!レイってお茶目なところもあるんだな。

 石の仮面なしだと、まるで本物の巫女さんみたいだ。


 レイは美人だ。

 神秘的な翠玉エメラルドの瞳とは対象的に、自然な姫カットに整えられた緑の黒髪は、耳の上と腰のあたりで、小さな毛束が悪戯っぽく外に跳ねていた。


 プラムのような唇。プププ、と押さえる整った口角には、小さなチラリと牙が光った。

 どうやら、可哀想な俺がとことんツボらしい。

 なんて子だ!もう。


 しかし。

 レイは元々、名前を持たない闇の竜だ。

 俺がうっかりレイと名付けたばっかりに、彼女は人型にリフォームして、この第七船団に居着くことになってしまったようなのだ。

 見た目は100%ドストライク。

 俺好みの姫君だ。

 それはもうめごくて、めごくて……。こんなの、何でも許してしまう。

 不正チートだ、不正チート

 彼女がシーツのドレスを左へ右へと翻すたびに、白百合の香りがブワリ、ブワリと立ち上がって俺はくらくらした。


 俺たちは、人魚暴行事件の真相を追っていた。

 人魚――仮に被疑者ガイシャの、水妖モモとする――は、シオンやレイの友だちでもある。


 モモは美しい二股のヒレがずたずたをして、皇国神殿の診療所へと運ばれていった。怪しげなバイト先で暴行を受けたらしいが、彼女は口を割らず、真相は不明だった。

 レイはショックからか、先程は竜の姿を保てないほどに憔悴しきっていたが、今はもう立ち直ったようだった。俺は心底ほっとした。


 そうだ!

 イジュワール艦長に貰った高価な翻訳ほんやくの呪い紙。

 あれを使えば、レイと俺とで会話出来るかも?

 まじない紙はハイドが持っている。

 あれ?ハイドはどこだ?


 『レイの部屋着は、洗濯中なんだ』


 シオンの声を聞いて、ドキン!!とした。

 あぶね!

 竜に隠し事は出来ない。……なーんて古風クラシックなことを言うつもりはサラサラないが、このお喋りなエース竜に、高価なまじない紙の件は内緒なのだった。

 契約主のハイド曰く、シオンは、まじない紙でも金でも、あればあるだけ使ってしまう浪費家らしい。

 ……万年金欠の俺も似たりよったりだけどな。


 『風呂も沸かしといたよ』

 「ほう。二人とも気が利くな」


 シオンが俺に伝えた直後に、イジュワール艦長は後ろからスタスタやってきて、迷わず一番風呂へと向かった。

 俺たちは三人で顔を見合わせて、どっと笑った。

 まあ、ここはイジュワール艦長の艦長室だもんな。


 俺はハッピーホーム、ハッピーライフの妄想がボワワーンと広がった。



 ◇◇◇



 「あなた、お風呂にする?お食事にする?」

 

 レイが笑う。

 するとシオンの腹が、ぐううっ、と鳴った。


 「食事にしよう。俺が作るよ」


 俺は腕まくりをする。この頃は、もう立派な執事になっていて広いお屋敷の一角に住んでるんだ。  

 大きなソファ。その周りにはお菓子の食べかすが散乱している。

 従者の男はせっせとそれを片付けていく……。



 ◇◇◇



 「ごめんな、ごめんな!俺がいなくて寂しかったよな!!」


 ハイドの声で、俺の妄想はパチン!と弾けた。


 出たな!

 甘々!

 

 ハイドは、シオンに熱っぽく頬ずりすると、食べかすだらけの足の裏やら鉤爪やらを、ブラシでせっせと掃除し始めた。

 そんな二人を見てレイは、目をパッチリした後に口元を片手で上品に押さえて、クスクスと笑った。


 ああ。

 実に顔映かおはゆし。

 エース竜騎士とその相棒竜。

 美しき闇の竜の姫君。

 ここに俺みたいなジト目のヒョロヒョロの入る隙なんてない。

 

 「躾しろよな?」


 腹立ち紛れに、友人として忠告してみると、


 「竜騎士なんて、みんなこんなもんだ」


 ハイドは、こともなげに返した。

 それで俺はますます立つ瀬がなくなった。しがない竜給仕ウェイターには、返す言葉なんてないのだ。


 しかし、シオンはフンフン!と鼻をひくつかせると、ナスビ色の尻尾でバチンッ!とハイドを引っ叩いた。


 ヒエッ?!

 俺とレイは、目をパッチリした。


 シオンの目にはジワジワと涙が溜まり、瞳孔はブラックホールのように真っ黒になっていく。

 バチン!バチン!と尻尾の往復ビンタが続いた後に、頭にガブリ!と噛みついた。


 シオンはハイドを噛んだまま、牙をスルスルと伸ばした。それから、頭を左右にブイン!ブイン!と振り回すと、グルングルンと回転を始めた。

 ハイドは無抵抗のまま、まるで墓に眠るミイラのように胸の前に腕を交差させ、拳を握り固まったまま宙空を回転している。


 な、なンだこの光景?!

 やがて、シオンがペッ!とハイドを吐き出すと、ハイドはズガン!!と壁に叩き付けられた。

 そして、シオンは天を仰いでコロリでひっくり返ると、ピーピーと泣き出した。


 「おいおい、シオン!どうしたんだ?!」

 「水妖臭いと言っておる」


 シャワー室から、イジュワール艦長が声をかけてきた。


 シオンはイジュワール艦長の言葉にフンッ!と頷いた後、ムクッと立ち上がると、鼻息を荒くして、ズンズンと寝室に入ってしまった。レイも俺に近づくと鼻をひくつかせ、ムムッ!!と顔をしかめた後に、スタスタと寝室へ行ってしまった。


 ……。

 ハイドはまだ、壁にもたれたままぐったりとうなだれている。

 俺はハイドをズルズルと引きずりながら、脱衣所へ連れて行った。

 臭いンなら、洗わなくてはなるまい……。

 

 「そんな匂うか?」

 「直感インスピレーションだ。アイツ、まじない師だからさ。怖いんだよ。艦長さあ、判ってるんなら、早く風呂から出てくんない?」

 「お前こそ、何で艦長室におるんじゃ!シオンは預かってやるから、ヘイトくんは外のシャワー室へ行きなさい」


 ご尤もだ。ハイドはピューピューと頭から細い血を吹き出しながら、ヨロヨロと部屋を出ていった。

 大丈夫か?

 ううむ。やはり竜騎士は危険な生業しごとだ。シオンは俺の知る限りとびきり温厚だが、竜は竜だ。しかも最強だ。嫉妬やきもちやきでヘソを曲げたらああなるんだな。

 レイの機嫌まで損ねてしまった。参ったな。

 まあ、ここは風呂待ちだな。


 手持ち無沙汰になった俺は、居室のテーブルの上に置いてあった、俺の辞令に目を通した。


 そうだ!

 新しい契約内容。

 封筒から書類を取り出し細かい字を読み返して驚いた。


 「ええっ?!」


 ケタが一つ間違ってないか?

 思わず0の数を指でなぞりながら数えた。間違いない。危険手当の項目がとんでもなく高額だった。

 これは艦長ならびにド厳しい親父に感謝せざるを得ない。

 艦長室付き竜給仕ウェイター

 その実態は、まあ、アレだ。鍵屋だ。

 イジュワール艦長は、それだけ俺の腕を高く買っているということだろう。

 俺は、初級プライマリー学校スクール中退。学歴ゼロの、資格ゼロだ。

 竜乗り免許証すら仮免だ。金がなくて、本試験が受けられなかったのだ。

 これは、期待に応えなくては……。

 

 そして、福利厚生の項目を見て俺は胸が踊った。

 私室プライベートルーム付きだ。

 

 「艦長!こっちの部屋も開けていい?」

 「いいぞ」


 小さな厨房の奥には大きな食器棚。

 隠しスイッチを押すと、小部屋が一つ現れた。

 俺は【隠し通路とお宝が視える】特異体質だ。だから前々からこの部屋には目をつけていたのだ。


 「おお!寝床に机に抽斗チェスト!小窓もついている。人生初の一人部屋だ!」


 俺は思わず寝床に飛び込んだダイブした

 水妖臭いと言われたこともスッカリ忘れて、俺の寝床だと言わんばかりに、スリスリと転がってしまった。

 そのういハイドは石鹸の香りを漂わせて、山盛りの服を持って艦長室へと戻ってきた。

 そして、俺の私室プライベートルームを見るとニカっと笑った。

 

 「服。モクにやるよ。流行じゃないけどまだまだ着られる。綺麗だぜ?なんなら、レイが切られそうなのもあるぞ」


 おお!

 抽斗チェストをゲットした直後に、お下がりの服がくるとは。

 幸運の紫沈丁花ラッキー・ライラック


 「サンキュー」


 いい匂いだ。末っ子の俺は、実はお下がりも嫌いじゃない。この、くたくた感が安心するんだよな。

 ……って、全然違う!


 ナンダコリャ。

 俺は都会の洋服とやらをまじまじと見て、度肝を抜かれた。生地が軽い。ハリがある。形がシュッとしてかっこいい。縫い方も違えば、色合いも違う。


 「な?金が要るんだよ」

 

 はあ。

 ハイドが金、金言うのも頷ける。

 またしても、グレードの違いってヤツだ。


 抽斗チェストの中に貰った服を収めていく。

 イジュワール艦長が手入れしたんだろう。部屋は埃一つない。ぴかぴかだ。

 艦長の杖の鞭は恐ろしいが、よく手入れされた懐中時計といい、面倒見が良くて優しいところもあるのだ。

 偉くなるヤツの条件だ。


 ハイドは俺に服を渡すと、足早にシオンの隣へ行っていた。ゆっくりと額を撫でると、たてがみを撫でて甘い声で囁いた。


 「ごめんな、ごめんな。俺が悪かったよ」

 

 シオンはプイ、と横を向いたままだ。

 いつの間にか、ブラシや謎の器具が、サイドテーブルの上にずらりと並べられている。

 高価そうな箱や瓶。パカパカと開封しては、香りや感触を確かめている。そしてシオンの反応を伺っては、たっぷりと使った。

 レイは、クッションを抱えてプイッと目を逸らしたままだった。俺はレイのそばに近寄ってみたが、レイは離れてしまった。

 仕方がないのでハイドに話しかけた。


 「毎日やるのか?」

 「当然」

 「惜しげないなあ」

 「竜に乗るならだ」


 そう言って、シオンの顔をマッサージしながら、クリームを塗り伸ばした。


 「え?のほうが良くないか?」


 俺の言葉を聞いて、シオンが、プヒュッ!と吹き出した。

 レイの背中もピクピクと小刻みに震えた。


 『アハハハ!モクって面白いなあ』

 「ブフッ。スピアの話じゃないぜ。繊細さ。つまりデリカシーだ。まあ、軽量化も思い遣りの一つだよな。ブフッ」

 「なンだよ!ややこしいな!」


 レイもケラケラと笑った。

 もう。

 面映おもはゆいなあ!

 でも、みんなの機嫌が治るンならそれでいいよ!


 「こうしてると、ちょっとした変化にも気付けるんだよ。ホラ、ここに掠り傷があるだろ?歯茎も腫れてるな。シオン、菓子ばっかり食べて歯を磨かずに寝るからだぞ?」


 シオンは軟膏を塗られては、あーんぐりと口の中を開けた。もうすっかりご機嫌だ。

 ハイドの動きに合わせて、シオンは足の裏、尻尾からお尻まで、見やすいようにクイッ、と傾けたり、持ち上げたりした。

 さすがキャリア十年。慣れたもんだ。


 「モクとレイとやっといたほうがいいぞ?変な意味じゃない。俺たち軍人だ。たった一つの傷の見逃しが、致命傷になることだってあるんだよ」


 レイは目をキラキラさせた。

 ええ?

 レイは軍人じゃないぞ?

 ヒャア!

 まさか?!


 イジュワールがシャワー室から出てきたので、俺はいそいそと逃げた。




 ◇




 はあー。

 水妖のプールで冷えた身体が温まる。

 泡もこもこの石鹸も、いい香りがした。

 イジュワール艦長のアメニティは、どれも一級品。タオルもふかふかだ。

 おや。抽斗の中にキラキラと光るお宝の匂いがした。


 「艦長!下着、一個貰っていいっスか?」

 「かまわん」

 

 へへ!やったね。

 下着の新品の在庫が大量に視えたのだ。お宝ゲットだ。


 艦長から貰った新品の下着を身に着けて脱衣所を出ると、レイはプイッ!、と目を背けてスタスタと艦長室の応接間のほうへ行ってしまった。


 あれ?!俺、何かした?

 

 「お、おい。モク!!お爺さんの下着でウロウロするなよ!!」

 『ブヒュ!!モク、ベージュの股引きはヤバいって!』


 ハイドは、プルプル震えて真っ赤になるし、シオンは、ひっくり返ってヒャッヒャと笑った。


 へえ?!だ、駄目なのか?!

 俺が故郷から持ってきた下着と、ほぼ一緒なンだが?!

 ハイドは耳まで真っ赤になったまま、腹を抱えて艦長室を出ると、再び戻り、新品の下着を持ってきてくれた。


 「や、やるよ。頼むぜ、モク。俺たち、友だちなんだからな」

 『プヒュ。モク。ついでに服もお直ししてやるよ。ホラ、真っすぐ立って』


 俺はベージュの股引きから、新しい下着とお下がりの服を着せられた。

 ……同じじゃね?

 それからシオンは瞳を金色に輝かせて、金色の針と糸で、俺の服をチクチクとリフォームしてくれた。


 『頼むぜ、モク。俺たち、友だちなんだからな』


 ハイドの真似をして、シオンは戯けてみせた。


 おおっ。

 お下がりのシャツもパンツもオーバーサイズではあるが、とてもよく俺に馴染んでいた。

 レイはそーっと俺の姿を見に来ると、パッと花咲くような顔をして、俺の腕にぎゅうむと巻き付いた。

 

 「……着るもの一つでそんなに態度変える?俺は俺だぜ?」

 

 あれ?!

 いつの間にかレイは、白いニットのワンピースに着替えていた。

 着るもの一つで……。

 俺は真っ赤になってしまった。

 レイは、凄く凄くめごかった。

 俺は膝から崩れ落ちた。俺が間違ってました。


 『お茶の子サイサイサイだ』

 「サイが多いな。凄いな。シオンが編んだのか?」 

 『そ!船乗りといえば編み物だ。寄港地にハイドが仲良くしてる女店長が居てさ。俺って、送迎係だろ?すっごく待たされるんだよ。だから、暇つぶし。でも編み図を真似しただけだ。オリジナルはいつか、俺の運命の相手に贈るって決めてるからさ!』


 シオンはほっぺたに手をあてて尻尾をフリフリした。


 ……。

 第七船団の竜は、本当に恋バナが好きだな。


 え?

 シオンの運命の相手って、まさか、人?

 もしやシオンは自分のことを竜じゃなくて、人だと思っているンだろうか?ここは、真実を教えてやったほうがいいだろうか。

 ……。

 まあいいか。俺はシオンの契約主じゃないしな。


 『だからレイのは練習。ノースリーブ派だけど半袖もつけたぜ?モク的に、布面積が少ないのは駄目なんだろ?』

 「そうだよ。有難う」

 『プププッ。レイにはうるさいのに、ベージュの股引き……プププッ』

 「それはもう忘れてくれ!」


 レイは、白いニットワンピースの姿で俺を手招きすると、己の膝をぽんぽんと叩いた。


 ヒャッ!

 膝枕?

 魅惑的なお誘いではあるが、それは駄目だろ

 

 「そうだな!先ずはモクでチュートリアルだ」


 ハイドまで悪ノリをし始めた。


 ……待て待て待て!

 竜はレイで、俺は契約主だ。

 逆だ、逆!!

 俺の頭の中はそう言っているが、俺の頭はレイの膝の上に吸い込まれるようにチョコンと収まっていった。


 自分で自分が怖い。

 なンでだよ。

 レイは俺の心境を知ってか知らずか、頭を撫で撫でしてきた。

 もう、勝手にしてください……。


 「これが爪ヤスリ」


 レイは、白磁のようなつるりとした手で俺の右手を掴んだ。それからハイドの指示を受けつつ、俺の爪の形をしょりしょりと整えていった。

 そうだよな。

 レイの爪の形は完璧だ。今更整える箇所なんて一つもないのだ。


 「これが魔法蒸気浴スチーム


 それは、手鏡や魔法温風機ドライヤーにそっくりだった。丸い板に空いたいくつもの丸い穴から、ヤカンのようにアツアツの蒸気が浴びせられる。

 ヒャア!顔が温かい。

 俺は度肝を抜かれたが、人肌に近い心地よい温度だった。


 「艶出し、傷隠し、足回り。これは竜用だから省くぞ。鼻毛を切って、眉毛も抜くぞ」


 ハイドがべらべらと喋るので、俺は焦った。

 

 (おい、レイの前で鼻毛とか言うなっ!竜に乗るなら思い遣りなンだろ。繊細さデリカシーの話はなンだったんだよ)

 

 俺は抗議したが、誰も取り合ってくれなかった。

謎の棒を鼻に突っ込まれるとジョリジョリと音がしたし、あちこち転がされてジョリジョリと剃られた挙げ句に、いつの間にか俺の顔の上には、きゅうりの輪切りがペタペタと綺麗に並べられていた。

 

 「きゅうりパックだ」

 

 そんな馬鹿な。前菜じゃあるまいし!

 俺は、絶対にからかわれたと思ったが、通りかかったイジュワール艦長は、俺のきゅうりパックを見ると、目をキラキラさせた。

 

 「ほお!きゅうりパックか!懐かしいな。レイ、わしにも頼む」


 レイはにっこり笑って、イジュワール艦長の顔にぺたぺたときゅうりを貼っていき、すべてが終わると、イジュワール艦長は高笑いしながら通り過ぎていった。

 

 ええ。

 これは、本気マジの美容法なのか……。


 それから、ハイドは俺の足の裏をぐいっと強く押してきた。


 「ギャァァァ!!」


 俺は痛みで悶絶して叫んでしまった。

 膝枕の天国と、足裏の地獄のせめぎあいで、頭がおかしくなりそうだ。


 「足つぼ健康法だ!」

 『水妖のところなんて、二度と行かないと言えー』


 シオンはそう叫ぶと、くるくると笑った。

 やっぱり拷問か?!どっちだ?!

 イジュワール艦長のほうを見たが、きゅうりパックをしたまま、呑気に緑茶を啜って書類に目を通し、俺のことは無視スルーした。

 

 「生業しごとだ!生業しごと!俺はレイ一筋なンだよお!!」


 それはそれとして。

 俺たちはこの後、人魚屋には行くンだけどなあ!


 シオンは俺の心境を知ってか知らずか、ひっくり返って、ヒャッヒャと笑った。

 レイも涙を流してケラケラ笑った。

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