孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達

フェア

間章 季節イベント

2025年正月 ショウ

「ショウくん、あけましておめでとうございます」


「うーん……」


 元旦、タカヒロが眠っているショウに新年の挨拶を伝えるが、布団の中で唸っていて起きようとしない。大晦日の夜は夜ふかししていたので起きられないのも仕方がない。


「ショウくん。初日の出、見なくて良いのかい?」


「はつ……ひ……見た……い……」


 寝ぼけながらも初日の出を見たい意思を伝えてくるショウ。それならばと、タカヒロはショウの肩を抱くと、ゆっくりと身体を起こしてやる。


「んあ……う〜ん」


「朝日、昇っちゃうよ?」


 座った姿になっても目を閉じて、なかなか起きないショウにタカヒロがさらに声を掛ける。


「や……だ……。見た……い……」


「もう、仕方ないなあ」


 目を閉じたまま、たどたどしい言葉で見たい意思をさらに伝えてくるショウに対し、タカヒロは苦笑を浮かべながらショウをおぶる。中学生とはいえ小柄なショウは軽いのだが、意識がはっきりしていなくて脱力している分、重く感じる。


 だが夜明け前の寒い朝、背中に乗ったショウの体温はとても気持ちいい。


「う〜ん」


 まだ半分夢の中のショウを玄関で一旦下ろすと、上着を着せて外へと出る。山の上ということもあって素晴らしい雪景色を誇る庭をしばらく歩くと、遠くまで見渡せる絶景スポットに辿り着く。


「ショウくん、朝日が昇るよ?」


「んあっ……あれ? どこ?」


 ショウを背中に乗せたまま数度ジャンプし、刺激を与えてやるとやっとショウが目を覚ます。


「神社の近くだよ。ここからだと初日の出がよく見える。そろそろ昇ってくるよ」


「初日の出が? ……うわあ、山が光ってる!」


 タカヒロの言葉とともに、山際が光り輝いてくる。そのまましばらく待つと山から朝日が顔をだし、暗かった空を照らし出す。


「すごーい、きれー」


 背中の上で興奮しているショウ。振り返ると頬を紅潮させ、目を輝かせているショウが目に映り、タカヒロは微笑ましい気持ちになる。


 都会っ子のショウにとっては、本当に貴重な体験だっただろう。




「くしょんっ」


「冷えてきたね。部屋に戻ろう」


 そのまま朝日が昇りきるまで眺めていたが、ショウのくしゃみをきっかけに部屋へと戻ることにした二人。部屋の中にはすでに妖怪達がおり、暖かい部屋でダラダラと過ごしていた。


「裸足のまま外に出たから、すっかり冷たくなっているね」


「はい、そうですね」


「温めるついでに、足裏マッサージをしてあげようか?」


「良いんですか? ありがとうございます」


 ショウの足が赤くなっていたのでタカヒロが触ると、氷のように冷たくなっていた。そこでタカヒロがマッサージを提案すると、ショウは嬉しそうに笑みを浮かべる。そこで、タカヒロは生姜を加えた特製のマッサージオイルを手にとってショウの小さな足を両手で包みこんだ。


「うわあ、あったかいです」


 ショウは嬉しそうな声をあげる。中学生ながら小柄なショウは足もまだ小さく、タカヒロの手で包み込むことができる。インドアなタイプだからか足の裏は柔らかく、少年らしく水分が多いのでしっとりとしている。


 タカヒロが優しくマッサージしていくと、氷のように冷たかった足も徐々に温かくなってくる。足が温まってくるにつれて眠気が蘇ってきたようで、まぶたが段々落ちてくる。夜ふかししていたのに頑張って初日の出を見たのだから当然といえば当然か。


「すー、すー」


 やがて、穏やかな寝息を立てながら眠ってしまうショウ。安心しきったその表情は本当に愛らしかった。この神社に初めてきたときのことを考えると、ここまで慣れたのは驚くべきことである。


 それも神主であるタカヒロをはじめ、神社に住む妖怪達がショウを大切にしてきたがゆえだろう。居場所が、仲間ができたショウは日に日に元気になっていった。今はもう、すっかりと神社の一員になっており、今年もきっと大きく成長していくだろう。

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