異世界銭湯 弓道の風呂場 第1幕 孤独の湯

沼津平成

プロローグ

「——最近多発している、連続通り魔事件。5件目、鈴木市佐藤町の事件から四日が経ち、警察の不屈の精神による捜査のため、事態は急展開を迎えました。現場の田中さん、」とリポーターがいった。

 そして、いくらなんでもこれは誇張しすぎだ、としゅうは思った。リモコンを取り出し、赤い丸をポチッと押すと、テレビは即刻切れて、液晶画面には真っ黒い無が映った。

 寮って自由だな、とぼやいた。176号室は、秋山あきやまという男子生徒の転校によってひとりになった。

 この生活にはメリットもデメリットもあった。銭湯オタクの僕が銭湯について勉強するスペースを広々とれるようになったこと、これは間違いなくメリットだ。デメリットは、僕は類を見ない不器用なのだが、手伝ってくれる人が消えたこと。


「せんせー、取れないよー」なんていってられるのは小学校低学年までだ、と柊は感じていた。それはある意味信念のようなものでもあり、今更曲げることはできなかった。


「最近多発している通り魔事件について」なんかどうでもよろしい。そんな暇あるんだったら銭湯の勉強をしていきたい、と柊は思った。

『高校は中学などに比べると?』という問いがある。これの答えは決まっている。だだっ広い、これに尽きる。

 東棟と西棟の間の吹き抜け廊下を彷徨いながら、そんなことをしている自分に呆れ、柊は頬杖をつき夜の校庭を見つめた。1年生にとってどこにトイレがあるか、というのは一番に把握しなければならない大問題で、確定で「ある」とわかっているところまでたどり着くのに十五分は掛かる。

 消灯が始まり、灯りは消え、見回りが始まった。処分を避けるため、靴箱に到達する前だから靴下状態で、柊は冷たい夜の階段を駆け上がった。

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