9 最後まで一緒に……

「 いいか?こうやって出汁をとるんだ。


ゴミだと思われる部分が実は一番出汁が取れてだな〜……! 」



ガミガミ、ペラペラとしたり顔で説明してやると、サンは真剣な眼差しで聞いてくれるため、何だかそれがとっても気分が良くてついウキウキとご機嫌で料理の仕込みを終えていく。



「 ────で、ここまでが大体の手順なんだが……サンは料理作った事あるのか?


包丁持ったことは? 」



サンはキョトンとした表情でフルフルと首を横に振った。


それに気分を更に良くした俺は、フンッ!と馬鹿にする様に鼻息を吹く。



「 そうかそうか〜!じゃあ、全然できないな!


やれやれ、この無能!無駄飯食い〜。 」



ふふ〜ん♬と上機嫌で包丁を渡してやると、サンはオロオロしながら包丁を見下ろした。


それを見てニヤニヤ〜と笑いながら、俺はサンの背後に回り、サンの両手を掴む。



────ビクッ!!!



大袈裟に大きく震えるサンの手を操り人形の様に動かし、食材を切っていった。



「 いいか〜?こうやって猫の手にして食材を切る!


俺くらいのレベルになると猿の手にして良いけど〜サンは当分猫だな、猫。 」



「 は、はい……。 」



サンはブルブルと震えながら頷き、そのまま自分なりに頑張って食材を切り始める。


そのため俺は手を離し、違う食材を洗っていると、サンがチラチラと物言いたげに俺を見てくるのに気づいた。



「 なんだよ、ちゃんと見て切れよ。


危ないだろう? 」



「 ────あ、あのっ……!! 」



たらふく文句を言ってやろうと思ったが、サンが急に大声を出したのでピタリと口を閉めると、そのままサンは言った。



「 俺……こんなんなんだけど……。 」



サンは自分の腐り始めている腕や首、そして顔に触れる。


確かにそこは匂いが消えているとはいえ、見た目的にはかなりグロくて痛そうだ。



「 ……なぁ、それって痛いのか? 」



「 ……えっ?……ううん……。今は……そんなに痛くない……。


……けど、夜はちょっと痛いから……朝早く目が醒める……。 」



たどたどしく答えるサンの言葉を聞いて、俺は良かったと思った。



痛いのは誰だって嫌だもんな。



「 食材は何でも腐りかけが美味い。


だから、サンは食べ頃だな。


今日から奴隷にプラスして非常食にしてやる。 」



脅かす様にそう言うと、サンはクシャッと顔を大きく歪めて、慌てて下を向く。






「 最後まで……一緒にいてくれるの……? 」





その言葉が、なんかこう……凄く重くて、心に鉛がドンっとぶち込まれた様な気分になった。



きっとサンの命は多分年上の俺より遥かに短い。


なんだかその事実が凄く辛くて辛くて、俺は初めてこの世の無情に対し怒りが湧いた。


そして初めて湧いたその気持ちに驚いて、慌てて大きく息を吐き出し、荒れる心を落ち着ける。



今までどんなに自分が理不尽な目にあっても、こんな気持ちにならなかったのに……何だか不思議な事だ。



平静を取り戻すと、今度はどうしてそんな気持ちになったのかと疑問が湧いたが、俺の腹がグ〜と鳴ったことで疑問は吹き飛んでいった。



「 一緒も何も、サンは奴隷なんだから最後まで俺の側にいるしかないだろう。


ほら!グタグタ言ってないで早く用意して食うぞ!


あ〜!サンが五月蝿いからお腹減った! 」



結局ガミガミとサンを罵りながら料理に没頭してしまったため、その時サンがどういう顔をしていたのか、俺は見てなかった。




その後はまたゴミで作った美味しいご飯を二人で食べて、一通りの仕事を教えて回る。



サンは異常なくらい物覚えが良く、一回見学すれば完璧以上の出来で仕事を終わらせていった。



い、いつもの十分の一……いや、もっと早く仕事が終わっちゃった……。



ピカピカになった部屋の中を見て、ポカーンとしていると、サンが自身の今までの出来事を突然語り出した。


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