8 遠い場所

モンスターの屑肉を使った肉野菜炒め。


固くなったご飯を水でふやかし、屑肉の残りと他の野菜と混ぜたごちゃまぜチャーハン。


野菜の芯と魚の骨を使って出汁をとった塩スープ。



それを作ってテーブルの上に並べてやると、サンがゴクリと喉を鳴らした音が聞こえた。


それを見てニタリと笑った俺は、チャーハンをスプーンで大量に掬うと、そのままテーブルの上にボチャッ!と落としてペタペタと山にしてやる。



「 このテーブルに落ちた汚いヤツはサンのご飯な!


そんでお皿に乗ってる綺麗なヤツは俺の炒飯。


更にこれもくれてやるよ。 」



最後に山盛りになった炒飯の上に、野菜炒めをベチャッ!と乗せてやった。



流石に塩スープは床にこぼれてしまうため一番汚い皿によそって置くと、サンはブルブルと震え始める。


そんなサンを横目に、俺はスプーンとフォークを持って椅子に座ると、精一杯優雅に食事を始めた。


ぶっちゃけマナーなんざ、貧民育ちの俺にはサッパリだが、多分サンも正しいルールなんて知らないはずだから大丈夫!



とりあえず、俺の優雅そうな食事風景を見て、屈辱を与えられればいいのだ。



サンは黙って俺が食事するのを見て、突然グワっ!と炒飯を手で鷲掴む。


そして────心配になるほどの猛スピードで口に入れ始めたのだ!



今まで大人しかったサンの豹変っぷりに驚き、ポカンとしてしまったが、やがてボロボロと泣き出すサンを見て、俺は全てを悟る。



そうか、そうだよな……。



泣いているサンを見て、自分の昔を思い出してしまい、プッと笑ってしまった。




自分が人に媚びて媚びて媚びて……それで初めてゴミに近かったが食べられるモノを貰った時は、その美味しさに凄く感動したもんだ。



自分が情けなくて、惨めで……でもそれ以上に空腹が満たされるって凄い事だって思った。



テーブルに捨てる様に盛られた炒飯だって、地面に投げ捨てられたモノだって、” ありがとう ” って思ってしまう。



ジ〜ン……。



自分の半生を思い出し、感動していると、サンがもぐもぐと料理を食べながらポツリと言った。








「 ありがとう。 」






うっかり聞き流してしまうくらい小さな声で言ったので、俺はそれを聞かないフリをして、そのまま自分の分のご飯を平らげていった。



結局その後、食べ終わったサンは、突然倒れてそのまま気絶する様に眠ってしまったため、俺は後片付けをして、そのままサンを背負って自分の部屋……と言う名の物置へ。



そして自分の寝ているせんべいタオルを敷いた場所にサンを寝かせようとしたが、そこでやっと自分が何故奴隷が欲しかったのかを思い出し、タオルの横の地べたにサンを置いた。



「 ハハハッ!!お前みたいな汚いガキんちょは床で十分だ!


そこで寝ろ!この、ドロドロお化け小僧! 」



ベロベロバ〜!!と舌を出して、そう言い放った後、俺はいつも寝ているせんべいタオルの上に体を横たえる。


そしてそのまま寝ようとしたが、何となく気になって少しずつ少しずつサンの方へ近づいた。


そして手を伸ばせば届くくらいの距離でピタリと止まると、下に敷いていたタオルの端っこをサンに掛けてやる。



「 ま、まぁ、俺は寛大なご主人様だからな〜。


端っこの端っこくらいは使わせてやろうか! 」



ハハハ〜!と笑いながら、目を閉じた。



いつも一人きりの空間に誰かがいる。


そのせいか部屋の温度はいつもよりもホカホカで、信じられない程よく眠ってしまった。




暖かいご飯とか、暖かい場所の睡眠とか、沢山の向けられる愛情とか、尊敬の眼差しとか……それって俺にとって、凄く遠い所にあるモノだ。



どれも知っているけど、絶対手に入らないモノ。


だからそれが与えられない事に対して、俺が思う事は特にない。



全部凄く遠い所の関係ない話だから、正直ピンとこないというか……世間一般的に言われる幸せって俺がいる場所にはないんだ。



つまり、俺って皆がいる場所と常に違う場所にいて、一生繋がる事ってないわけ。



だから俺は────……。





…………。




チュンチュン……。




「 ────ハッ!!寝坊したぁぁぁぁぁ────!!! 」



ボロボロの扉から漏れてきた鳥の囀りに、自分がすっかり寝坊した事に気づき、飛び起きる!────が……?



「 あ、そうだ、そうだ。朝の仕込みはいらないんだった……。 」



昨日の出来事を思い出し、フゥ……と額の汗を拭った。


すると、足元からジ──ッ……と俺に突き刺さる視線を感じ、下を見ると、そこには昨日奴隷になったサンの姿がある。



「 …………。 」



「 …………。 」



お互いしばし無言で見つめ合ってしまったが、自分が主人、そしてサンが奴隷という事を思い出し、ニタリっと意地悪く笑った。



「 おはよう!随分寝坊助ですな〜。


これでは先が思いやられちゃうよな〜、この役立たずめ!


さぁ、飯が欲しけりゃ〜働け!! 」



「 ────えっ……? 」



暴言を吐き出してやったというのに、サンはキョトンとして俺を見つめたまま。


もう一回怒鳴ってやるかと、ウキウキしながら口を開きかけたが……その前にサンの口が開いた。



「 ────ねぇ……。何で……俺に ” 普通 ” なの……? 」



突然そんなトンチンカンな事を言ってきたので、寝ぼけていると思った俺は、大きく息を吐き出しながら、サンの耳を摘む。



「 お前は俺の奴隷なんだから、話しかけるもなにも、これからずっとこんな感じで俺に怒鳴られ続けるんだ!


ほら!さっさと俺についてこい!


ご飯を食べたらお仕事が沢山あるからな! 」



ガミガミと怒鳴る俺を見上げ、サンはなんだか不思議な顔をした。


悲しそうにも見えるし、楽しそうにも見えるし……なんだか複雑な顔。



「 ……はい。 」



そしてそのまま頷き下を向いてしまったので、俺はサンの耳から手を離し、そのままキッチンへ。


そしてまた昨日と同じ様にご飯を作り、その様子をとりあえずサンに見せてやった。


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