第1章 転落

第1話 出世街道

2026年

 男、高橋たかはし悠人ゆうとは、ARWに入るなど考えたこともなかった。なぜこうなってしまったのかと思考を巡らせるも、腑に落ちる結論は出ず、ただ残ったのは、このまま、自分はARWに骨を埋めるのだろうという曖昧な予感だけであった。


***


 時は遡り2024年、ARWは将来性がないと言われ始めてから久しく、多くの若者がARWに入るくらいなら、大学を1年留年した方が良いと考えるまで、その地位は落ちてしまっていた。ARWは新入社員確保のため、初任給を上げ、その財源のためにきっぷ代を上げ、様々な対策を練ったが、それら全てが功をなさなかった。ARWの初任給上げに連動し、私鉄各社も、初任給・きっぷ代を上げ、鉄道はどんどん市民たちから遠いものとなっていった。若者たちにとって、鉄道事業は過去のものになりつつあった。


 高橋は、横浜港大学よこはまみなとだいがく経営学部経営学科を卒業し、大学卒業後は、国土交通省に入省し、順調に出世街道を進めていた。だが、彼の出世は、他の者の嫉妬心を煽りに煽った。特に、日本一偏差値の高い京野宮大学きょうのみやだいがくを卒業した、高橋の1つ先輩の河野こうのたかしは、数いる職員の中でも一際、高橋の出世をよく思っていなかった。


***


 一方、高橋は河野からの嫉妬心に気づいてはいたものの、先輩であり、自分より地位の高い役職についていた河野に対して歯向かうこともできず、河野からの頼み事を優先的にこなしたり、手伝いを積極的にすることにより、関係の改善を試みていた。だが、そういった高橋の思惑も、河野からは馬鹿にされているように感じられてしまい、両者の関係は、改善どころか、悪化の一途を辿っていった。高橋に同情するものは一定数いたものも、京野宮大学で人脈を広げていた河野に対して、表立って反対意見を言えるものは高橋の周りにはいなかった。


***


 2年が経った。高橋は努力の結果もあり、河野と共に、政策統括官となっていた。入省2年目に、幹部となるなど異例中の異例であり、その話題は国土交通省だけでなく、他の省庁でも噂が広まるほど珍しいことであった。高橋に注目が集まる中、河野はどうにかして、自分の評価を上げようと、必死になっていた。政策は本来、多くの職員、また必要な際は外部機関を通すなど、さまざまな過程を通して作成されるものである。しかし、河野は追い詰められ、高橋より先に出世することしか考えていなかった。そして、事件は起こった。その日、河野は定例会議に、独断で作成した「主要国道有料化計画」の政策を提出した。

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