些事

黒房すぐり

些事

預言者が言った。

来年の一月一日、人類は滅ぶ、と。


SNSの小さな書き込みであった。

それはたまたま広まった。なんの影響もない、些事な十三文字であった。

恐怖を模した嘲笑が起こった。

一の愚者に万の賢者が笑みでもって迫った。

[注目の的であった愚者の戯言]は海を漂流するままで、されど賢者たちの視界からは波が引くように消えていった。


除夜の鐘の百八が鳴る。

その瞬間に思い出す者は、そもそも覚えていた者はいなかった。

鐘が鳴る。重力によって鳴らされる。

鈍く微かな音は冷たい境内に広がり、もはやただの段差と化した街に到り、空に、地に、海に溶け込んでいった。

人だけがいなかった。痕跡がある、ただそれだけだった。

地球の一つの種が消えた。ただそれだけだった。

些事であった。

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些事 黒房すぐり @s722s

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