よく冷える冬の日

Suger Rusk

第1話

(寒いな…… さすがに冷える…… )

 世間では”聖夜”だなんだと言われるこの日、俺は勉強机に教科書を広げ、窓から曇り空を眺めていた。スマホから着信音が聞こえるが、今は出たくはない。どうせあいつらだ。今日を一人で過ごす俺を、皆で笑おうとしているのだろう。

 中学では友達は多いほうだった。それは当然高校に行っても同じなのだろうと思っていた。俺は一体いつ間違えたのだろう。盛大に遅刻したときか? 窓ガラスを割ってしまったときか? 教科書を忘れてなぎさに借りたときか? 正直これだと思う。渚は俺とは違って人気だ。きっと毎日が楽しいのだろう。そういう顔をしている。あいつらからの嫌がらせが始まったのは、彼女と付き合い始めたころからだ。

 はじめは裕也ゆうや。あいつ一人からだった。話しかけても無視をされたり、メールの返信が来ないなど、その程度のことだった。俺もこのくらいのことなら時間が解決してくれるだろうと放っておいた。でもいつしか、クラスのほぼ全員からになっていた。後で渚に訊いたのだが、俺が裕也の教科書に落書きをした、靴を隠した、無視をしたと、皆に嘘をついていたようだ。それはお前が俺にしたことだろうと言ってやりたいが、あいつとはもう言葉を交わしたくは無い。ただでさえ悪いこの状況がさらに悪くなるかもしれないと思うと怖くてたまらない。ただひとつ気がかりなのは、なぜ皆を巻き込んでまで俺に攻撃をしてくるのか、まだあいつの口から理由を聞けていないことだ。一度渚に頼んでみたが、その時は話を濁されたらしい。もういいか。いっその事俺から電話をかけて直接あいつに聞いてやろう。スマホを手に取ったその時、着信音がなった。(……渚から?)

「……もしもし?」

「ちょっと瑛斗えいと! 何で出なかったの? もう何回もずっとかけてるのに!」

「え? あぁ、ちょっと考え事してて…。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないでしょ! 今日はクリスマスだよ? 電話する約束でしょ!」

「あぁそうだったね。忘れていたよ。」

 俺は少し泣きそうになった。

「…どうかした?」

「いや、大丈夫。」

 窓からは月明かりが差し込んでいた。

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